第278話 爆瓶
「皆さん、伏せて!!」
「きゅろっ?」
「ぷるんっ?」
「うわっ!?」
『ゴロォッ……!?』
リリス達が伏せた瞬間、蓋を空けられた硝子瓶が固まったサンドゴーレムに中身が降り注ぎ、赤色の液体が染み渡る。そして次の瞬間、日差しのように光を放つ光石の照らす強い光に反応したのかのように爆発を引き起こす。
『ッ……!?』
「くぅっ……!?」
「きゅろろっ!?」
「ひいいっ!?」
爆発によってサンドゴーレムの上半身が吹き飛び、その様子を伺っていたリリスはサンと他の団員が爆発に巻き込まれないようにしっかりと押さえつける。そして彼女の元にサンドゴーレムの核と思われる魔石の欠片が飛び散り、やがて粉々に砕け散って消えてしまう。
サンドゴーレムを倒した事を確信すると、リリスは額の汗を拭いながら起き上がり、地面に落ちている硝子瓶の破片を拾い上げる。派手な爆発を引き起こした自分の薬品に対してリリスは感心したように頷く。
「ひとまずは実験成功ですね、良かった良かった……」
「いや、全然良くないですよ!?」
「俺達、危うく黒焦げになるところだったじゃないですか!!」
「きゅろっ!!ちょっと髪の毛が焦げた!!」
「あいてててっ!?すいません、すいません……謝るから噛みつかないでください!?」
「ぷるぷるっ!!」
リリスが使用した薬剤の爆発によってサンドゴーレムを倒す事には成功したが、その際に爆発に巻き込まれそうになった団員が文句を告げ、サンに至っては髪の毛の一部が焦げてしまった。そのために起こったサンはリリスの腕に噛みつき、クロミンも怒りを表したようにリリスの頭の上で飛び跳ねる。
「いてててっ!?本当に痛い、ちょっと、当分補給用の私のレロルンキャンディをあげますから許してください!!」
「キャンディ……分かった、許す」
「あ、こんな事で許してくれるんですね……はい、どうぞ」
「ぷるぷるっ♪」
若干、危ない名前のキャンディを取り出したリリスはサンとクロミンの口の中に与えると、2匹は機嫌を取り戻したのか怒るのを止めた。
一方で団員達の方も最初は怒っていたが、結果的にはリリスに救われたのは事実なのでこれ以上の追求はしなかった。
リリスは改めてサンドゴーレムに振り返り、自分が使用した「新薬品」の確認を行う。以前からリリスは薬剤師として様々な薬を調合し、戦闘用の薬剤を開発してきた。今回彼女が使用したのは特別な樹液と火属性の魔石の粉末を組み合わせて作り出した「火液」という液体を更に強化した代物である。
(事前に弱点の水を与えて肉体を固めていたとはいえ、サンドゴーレムを倒せるほどの威力の武器が遂に手に入りましたね。この威力なら他の魔物とも十分に対抗できそうですが、使い方をもう少し改良した方がいいですね)
彼女が今回使用した薬剤は「爆瓶」と名付けており、この爆瓶の中に入っている液体は強い熱や光に反応し、一定の時間が経過した後に爆発を引き起こす。但し、爆発するのはあくまでも中身の液体が熱や光にさらされた時に限り、特殊な硝子で構成された硝子瓶に収めておけば爆発しない。
「使う度にいちいち相手に振りかけるのは面倒ですね。かといって、割れやすい硝子瓶に入れておくと持ち歩く私が危険に晒されますし……帰ったらもう少し使いやすいように改良しなければなりませんね」
「リリス、リリス」
「ん?どうしました?今、私は考え事で忙しいんですが……」
「きゅろっ……もう戦闘終わってる」
サンがリリスの白衣を掴んで呼びかけると、彼女は既に戦闘が終わっている事を告げた。彼女の言葉を聞いてリリスは振り返ると、そこには3体目のサンドゴーレムを倒した後のレイナの姿が映し出される。
レイナはデュランダルの能力を使用してサンドゴーレムの肉体を吹き飛ばし、中身の核を破壊した。
「ふうっ……どうにかなったね」
「ふ、ふん……手こずらせおって」
「オウソウ、大丈夫?凄い汗だけど……」
どうやらサンドゴーレムに襲われていたオウソウをレイナが救ったらしく、オウソウの肉体は砂まみれであった。そんな彼等を見てリリスは自分が考え込んでいる間に戦闘を終わらせていた事を知ってすぐに怪我の治療へ向かう。
「すいません、つい考え込んで援護を忘れてました!!それで、怪我は大丈夫ですか?」
「俺は平気だけど……オウソウの腕が」
「こ、この程度何でもない……ぐうっ!?」
「馬鹿、やせ我慢しちゃ駄目だよ!!ほら、治してあげてリリス!!」
「仕方ないですね~」
オウソウはサンドゴーレムに殴りつけられたときに負傷した腕をリリスは治療を行い、結果として怪我を負ったのは彼だけ出会った。
サンドゴーレムという厄介な難敵に対して負傷者が1名に留まった事は運が良く、その一方で今回の戦闘では砂鮫の時と同じく素材の回収が出来なかった事を悔やまれた。
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