第268話 団員の不安

捜索班は戦闘力が最も高い人間が最適だと判断し、まずは隊長であるレイナを筆頭に続いてオウソウ、サン(&クロミン)、他は3名の団員が続く。残りの団員とリリスは古城で留守番を行い、レイナ達が戻ってくるまでの間に古城の探索を行うという。


今までにレイナ達が存在したのは古城の最上階だったらしく、階段は瓦礫で塞がっていたので下の階層には降りれなかったが、現在は他の箇所も地上に出現したので探索が出来るようになった。そのためにリリス達は別の階層の探索を行うために残り、転移台の捜索はレイナ達に任せて彼女たちは城内を調べる事になった。



「じゃあ、気を付けてくださいねレイナさん。野蛮な男たちに襲われないように気を付けてください」

「う、うん……気を付けるよ」

「誰が襲うかっ!!」



古城を離れて捜索する事になったレイナはとりあえずは北の方角に向けて出発を行い、小まめに水分補給を行いながら先に進む。事前に食料と飲料水に関しては出発前に大量に用意を行い、場合によってはレイナは自分の能力で作り出す予定なので特に問題はない。


だが、オウソウ達の前ではレイナは文字変換の能力を気軽には使う事は出来ず、そのために物体を作り出すときは最初から鞄の中に入れていたと誤魔化して取り出していた。城に辿り着く道中で殆どの団員は砂鮫に襲われた時に荷物を落としてしまい、誰もが食料と水を失っていたため、定期的にレイナが持参した食料と水を分け与えるしかなかった。



「くっ……やはり、暑いな。それでいながら汗も出てこん……何なのだここは」

「あ、暑い……隊長、すいません。水を飲んでもいいですか?」

「お、俺も……」

「無理をしないでちゃんと飲んでね。まだ水と食料もあるから、足りなくなってすぐに教えてね」

「あ、ありがとうございます……」

「隊長は優しいな……リリスさんの場合だと金品を要求されそうだぜ」

「それはリリスに失礼だと思うけど……」



移動の最中に団員達にレイナは水を分け与え、とりあえずは歩き続けたがやはりというべきか砂漠での移動は草原や荒野と比べると体力を消耗する。足場が砂なので歩く際も気をつけねばならず、更に無数に広がる砂丘のせいで視界も悪く、砂丘を上るときに余計に体力を奪われてしまう。


しかも普通の砂漠と違って巨大なアリジゴクや砂鮫のような魔物に襲われる危険性もあり、戦闘に入る度にレイナ達は体力を奪われてしまう。出発を開始してから30分経過しても転移台らしき建物は見当たらず、他の団員の姿も見えない。



(ここ……本当に建物の中なのか?荒野や草原のときも思ったけど、まるで本当に別の場所に転移したみたいだ)



天井を仰げば太陽に光り輝く光石が存在するのでここが建造物の内部である事は間違いない。しかし、いくら延々と歩いているのに建物の端に辿り着く様子も見られず、そもそも本当に端が存在するのか疑いたいくらいであった。



(暑いな……地図製作のお陰で道に迷う事はないとはいえ、これ以上に離れるのはまずそうだ)



地図製作で定期的にレイナは現在地を確認し、この地図製作さえあれば道に迷う心配はない。だが、移動を開始してからそれなりに時間が経過するが転移台らしき建物は見当たらず、流石に一度引き返すべきか悩む。


団員達もここまでの道中で予想以上に体力を消耗し、特にスライムであるクロミンにとっては照り付ける太陽は厳しいのか、まるで溶けたアイスのようにへばっていた。



「ぷるぷるっ……」

「きゅろっ……レイナ、クロミンがもう限界だって」

「もうちょっと頑張って……ほら、俺の水筒を上げるから」

「ぷるるんっ」

「た、隊長……わざわざ貴重な水をスライムに分け与える必要あるんですか?」



レイナが水筒の水をクロミンに飲ませようとすると他の団員が抗議を行い、この砂漠では最も貴重なのは食料ではなく、水である事は確かだった。その水を連れてきたスライムに渡す事に団員は不安を抱く。


彼等が不満を抱くのは最もだが、別にレイナはクロミンを連れてきたのは決してペットとして愛でるためではない。クロミンの本来の姿は「牙竜(亜種)」であるため、いざというときはクロミンの力を借りる事態に陥るかもしれない。そのために彼はどうしても同行させる必要があった。



「クロミンだって仲間だよ。それにクロミンだって凄い力を持ってるんだよ」

「スライムが仲間ね……でも、このままだと俺達の分の水もなくなりますよ」

「俺たちの分だと?貴様、何を言ってるんだ。隊長が持ってきた水は隊長の物だろうが!!俺達はあくまでも分け与えてもらっているに過ぎん!!調子に乗るな!!」

「うっ……す、すいません隊長」

「いいよ別に……オウソウもそんなに怒らないでよ。おっ……私は気にしてないから」

「ふんっ……隊長は甘すぎる」



油断するとすぐに「俺」と言い出しそうになるレイナは慌てて言い直し、オウソウを宥める。何だかんだで最初は反抗的だったオウソウもレイナの事を認めており、それだけに他の団員が彼女に対して失礼な態度を取るのが許せないらしい。

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