第207話 付与の加護

「き、貴様さえいなければ……!!」

「うわっ!?」

「止めろっ!!」



自分を抑えていた兵士を振り払い、ギャンはレアに飛び掛かろうとした。だが、それをライオネルが遮って彼の顔面を掴むとそのまま片腕で持ち上げる。



「ふんっ!!」

「ぐふぅっ!!」

「ら、ライオネル将軍!?」



そのままギャンはライオネルによって壁際に投げつけられ、背中を強打して倒れる。辛うじて意識は残っているのか頭を抑えるが、そんな彼に対してライオネルは前蹴りを放つ。



「がああっ!!」

「ひいいっ!?」



ライオネルの前脚がギャンの顔の真横を通り抜けると、そのまま壁に亀裂を生じさせるほどの強烈な蹴りを壁に叩き込む。ギャンは涙目でライオネルを見上げ、その股間から黄色い液体が滲み出る。


その様子を見下ろしたライオネルは鼻を鳴らし、ここまで惨めな男は今までに見た事がなく、兵士達に命じて後の事は任せた。



「こいつの尋問はお前達がやれ、俺は通常業務に戻る」

「は、はい……」

「あ、じゃあ私達も戻りますね。それと、その男がおかしな事を口走っても耳を貸しちゃ駄目ですよ。こちら側の質問だけに答えるようにしといてください」

「分かりました!!」

「ううっ……何故、こうなったんだ……」

「…………」



立ち去るライオネルの後を見送るギャンは昨日までの自分の立場の違いに付いていけず、泣く事しか出来なかった。そんなギャンを見てレアは結果的には自分の行いで彼がこんな目に遭っている事に対し、色々と思うところはあったが同情はしない。



(この人のせいでケマイヌも警備隊長も死んだ、それに他の人達も危うく犯罪者にされかけたんだ……)



ギャンは自分の不利益になる前にケマイヌと警備隊長を殺し、更に彼等が集めた一般人に王女殺しの罪を嵌めようとした。そんな彼に同情の余地は一切なく、レアは恨めしく見つめてくるギャンの視線を浴びながらも二人の後に続いた――






――ギャンへの尋問は兵士達に任せた後、レア達は国王が存在する玉座の間へと移動した。そこには既に国王から呼び出されたリル達の姿もあり、改めて国王はレアを歓迎した。



「勇者殿、今日の試合は見事だった。まさか、この世界に訪れて間もないのにあのライオネル大将軍に勝つとは……」

「国王陛下、あの勝負は引き分けです。俺も結局は気絶しましたし……」

「謙遜するな勇者殿、あの試合で先に気絶したのはこの俺だ。先に目を覚ましたのも勇者殿、ならば負けたのは俺だろう」

「おおっ……あのライオネル大将軍が敗北を認めただと」

「信じられん……」



国王の言葉にレアは咄嗟に否定するが、ライオネルは敗北を認めたために周囲の大臣達もレアの実力が本物である事を知る。しかし、一方で国王の方はレアの「加護」に関しての興味が抑えきれず、いったいどのような能力なのかを問う。



「ところで勇者殿、先ほどそこのライオネル将軍に話を伺ったのだが、なんでもギャンの尋問に立ち会ったときに勇者の力を発揮したというのは真か?」

「え?えっと……」



レアは困った風にリリスに振り返ると、彼女はレアの考えを察して頷く。そして昨日の内に考えていた言い訳を伝えるように指示した。



『大丈夫です、私の言う通りにやれば絶対に上手くいきますから』

『本当かな……』

『リリスの考えた作戦で失敗した事はない。ここは彼女を信じてくれ』



昨夜の話し合いの内容を思い返しながらレアは覚悟を決めると、昨夜の間に考えた自分が授かった能力を話す。



「俺の加護は……付与の加護、分かりやすく言えば状態異常を引き起こす加護です」

「付与の加護?状態異常……?おい、文献に残った歴代の勇者の中にそのような能力はあるのか?」

「いえ……調べた限りではそのような能力はありません」



国王は書記官に尋ねるが彼は勇者の文献をまとめた資料を見ても首を振り、レアが言ったような能力は確認されていない事を告げる。



「ですが、歴代の勇者様のほどんどは召喚される際に新しい加護を授かっています。それに勇者様に関わる資料は何分少なく、我が国に召喚された勇者様の中にはそのような加護を持っている人間はいませんが、帝国では召喚されていたのかもしれません」

「ふむ、そうか……勇者殿、具体的にその付与の加護というのはどういう能力なのだ?」

「そうですね……能力を説明する前に実際に見せた方いいと思います」

「おお、ここで見せてくれるのか!!」



勇者の加護の能力が見られるという事に国王は興奮し、他の者達も興味を抑えきれずにレアに視線を向けた。一方でレアの方はライオネルに視線を向けると、彼の肉体がまだ傷跡が残っている箇所に視線を向ける。それを見て好機だと判断したレアはライオネルに協力を求めた。



「じゃあ、ライオネル将軍に手伝って貰ってもいいですか?」

「なに?俺がか……?」

「勇者殿、大将軍に何をするつもりだ?」

「大丈夫です、ライオネル将軍の傷をよく見ていてくださいね」



レアはライオネルに解析を発動させると、彼を立ち上がらせて傷跡が存在する腹部を皆に見せつけるように促す。ライオネルは不思議がりながらも傷跡を見せつけると、レアはそのままライオネルから離れた位置に移動する。

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