第206話 ギャンの自白

「ギャン宰相、今から俺の聞くことを嘘偽りなく答えてくれますか?」

「ふざけるな!!いったい誰のせいで儂がこんな目にあったと思っている?」

「どうやら自分の立場をまだ理解していないようですね、貴方の目の前に存在するのは勇者様なんですよ」

「勇者だと……ふざけおって!!貴様などただの人間のガキではないか!!」

「勇者殿に対しての侮辱は止めろ!!彼はこの俺を倒したのだ!!」

「な、何だと……!?」



ライオネル自身がレアに敗北した事を告げると、ギャンは信じられないという表情を浮かべ、仮にも大将軍であるライオネルを破ったというレアに恐れを抱く。ライオネルの性格上、彼が自分が敗北したなどと言う虚言を吐くはずがなく、実際に彼が負けたという話は本当なのだとギャンは信じた。


レアは地下牢に送り込まれてもギャンの態度が変わっていない事から彼がまだ諦めていない事を察すると、確かにリリスの言う通りにこの機会を逃さずに彼の悪事を暴き、罪人として収監させた方が良いと考えた。


そのためにはギャンの口から悪事を暴露させる必要があり、視界に表示された詳細画面にレアは指先を構える。



(実験開始だ……まずは状態の項目を変えてみるか)



文字変換の能力を密かに発動させ、詳細画面に指先を伸ばしたレアは「健康」の文字を別の文字へと変換させる。この際に色々と考えた結果、ここは「自白」という文字を打ち込む。



(さあ、どうなる?)



文字を打ち込んだレアは次にギャンにどのような質問をするのかを考え、そして彼が先日に関わった事件の真相を尋ねる。



「ギャン宰相、昨日起きた城内での殺人事件……犯人は貴方ですね?」

「なっ!?ち、ちがっ……うぐぅっ!?」

「何だ?急にどうした?」



レアの質問にギャンは咄嗟に否定しようとするが、何故か口元を抑えて訳が分からないという表情を浮かべる。それを見たリリスはすぐにライオネルの配下の兵士に命じた。



「その人の腕を抑えて口を開かせてください!!」

「な、何?」

「どうしてそんな事を……」

「……言う通りにしてやれ」



リリスの言葉に兵士達は戸惑うが、ライオネルが賛同したために彼等は慌ててギャンの両腕を抑える。必死にギャンは抵抗しようとするが、そんな彼にレアは再度質問した。



「答えてください!!ケマイヌと警備隊長を殺したのは貴方の仕業なんですか!?」

「あ、ああっ……そ、そうだ。二人を、殺すように命じたのは……儂だ!!」

「何だと!?」



レアの質問にギャンは苦痛の表情を浮かべながら認めると、ライオネルが驚愕の表情を浮かべた。それは他の兵士達も同じであり、あっさりとレアの質問に答えた事に彼等も動揺する。だが、事情を察したリリスは次の質問を行う。



「じゃあ、ケマイヌに命じて一般人を集めて黒狼騎士団の仮装をさせて王都の周囲の見回りを行うように命じたのも貴方ですか?」

「そ、そうだ……ケマイヌに金を渡し、借金で困っている奴等を集めるように命じた。偽物の鎧を用意させたのも儂だ……」

「い、いったいどうなっている……どうして急にこいつは白状を始めた?」

「しっ……今が良い所なんですから静かに」



唐突に「自白」を始めたギャンにライオネルは戸惑うが、リリスがこの機を逃さずに質問を行う。



「貴方がケマイヌと警備隊長を殺したのは自分に関する情報を漏らさないようにするためですね」

「その通りだ……奴等を生かしておけば、儂も無事ではいられん。そう思って、兵士に命じて殺させた……自分達で自害した様に見せかけてな」

「なんて事を……自分が助かるために二人を殺したのか!?」

「それの、何が悪い!?儂と奴等では失う物が違うのだ……それに失敗した奴等は死んで当然だ!!」

「こ、この男……!!」



ギャンの言い分に尋問室の誰もが目つきを鋭くさせ、ライオネルに至っては今にも殴りつけるのではないかと思えるほどに髪の毛や顎鬚を獅子のように逆立たせる。だが、ギャンの方は自分がどうして他人の質問に嘘を吐く事が出来ないのか分からず、激しく混乱していた。


とりあえずは先の2つの事件がギャンの仕業だと判明し、その他の彼の質問はリリスに任せる事にしたレアは椅子から立ち上がる。そして困惑しているライオネルに事情を説明した。



「ライオネル将軍、今ならこの男は質問された事は全部答えると思います」

「あ、ああ……だが、奴に何をしたのだ?」

「一言で言えば……これが勇者である俺の力です」

「勇者の、力……?」

「要するにレアさんの力でこのギャンは嘘を吐けない身体にしたんです。今ならどんな質問にも答えると思いますよ」

「おおっ……!!」

「こ、これが勇者の力……「加護」なのか!!」



リリスの説明に兵士達は感嘆の声を上げ、ライオネルでさえも信じてしまう。ギャンは自分の異変の正体がレアだと気づき、彼は本当に自分の目の前に存在する少年が「勇者」だと思い知らされる。



「そ、そんな……儂は、本当に勇者に手を出したというのか」

「……言っておきますけど、貴方はもう隠し事が出来ない身体にしました。だから無駄な抵抗は止めた方が良いですよ」



レアの言葉を聞いたギャンは目を見開き、直後に怒りを抱いたように顔を紅潮させ、兵士達を振り払ってレアに飛び掛かろうとした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る