第178話 ギャンの策略

「彼等はケマイヌの口車に乗り、借金を返済する事を約束した上で従っていました。だから私は騙された彼等のためにケマイヌの代わりに借金を請け負う事を約束したのです」

「ううむ、そういう事情があったのか……」

「国王陛下、民の事を憂うのは王族の勤めです。もしも王女の話が本当ならば素晴らしい判断ですが……本当に彼等はケマイヌに従っていたのか疑問ですな」

「何を言っているギャンよ、お主は知らんが奴は儂の前で自白したのだ。疑問も何もないだろう」



ギャンの言葉に国王も流石に訝しむが、そんな彼に対してギャンはある推論を告げる。



「そもそも王女様がケマイヌに命を狙われ、借金を持つ兵士達を連れ帰って来た事がおかしな話ではないですか?王女様は本当にケマイヌに襲われたのか、もしかしたら連れて帰ってきた兵士も自作自演ではないのですか?」

「何だと……それはどういう意味だ?」

「率直に言わせて貰えば今回の王女様の急なご帰還はガオ王子を嵌めるための罠ではないか、私はそう考えています」

「罠!?」

「宰相、言葉が過ぎますぞ!!」

「そうです!!その発言は王女様を侮辱しています!!」



他の家臣達もギャンの言葉に黙っていられずに言い返すが、そんな彼等を無視してギャンは話を続けた。



「国王様、冷静になって考えて下され。そもそもどうしてガオ王子の側近であるケマイヌがここにいるのですか?王女様が連れ帰って来た兵士達も疑問があります。彼等は黒狼騎士団の恰好をしているように見えますが、実際は木造製の鎧を黒く塗った偽物の鎧を着ているだけに過ぎないではないですか」

「た、確かにそうだが……」

「陛下!!このような男の言葉を信じるおつもりですか!?」

「陛下!!私の話を聞いてください!!」



国王はギャンの言葉を聞いて悩みこみ、彼の言う事も一理ある。今回の騒動はあまりにもリルにとっては都合が良い事が起きており、その点に関しては国王も否定は出来ない。


しかし、実際にケマイヌがここにいた事も事実であり、彼が警備隊長と協力していたと自白した事は国王も耳にしていた。



「だが、ギャンよ。それならばお主はどうしてケマイヌがここに居るのか見当はついているのか?」

「実を言うと私はケマイヌが姿を消した事をガオ王子に相談されてましてな。まあ、ガオ王子にとってはただの側近の一人でしかないのですから、あまり気にしないようにしていたのですが……王女様が帰還した日に急に姿を晒した事が気になりますな」

「はっきりと申せ!!お主は何を言っておるのだ!!」

「つまり、今回の事態は全て王女様がガオ王子を嵌めるために仕組んだ罠なのです」

「な、何だと……!?」



ギャンの言葉に国王は驚いた表情を浮かべ、リルに視線を向ける。しかし、そんな国王に対してリルは即座に言い返す。



「国王様!!このような男の妄言など無視してください!!そもそも私が怪しいというのならばこの男だって怪しいでしょう!!今まで療養中だった男が戻り、私が捕縛して連れて帰ってきたケマイヌが自決したなどと言い張る!!冷静になって考えてください、怪しいのはこの男です!!」

「国王様、惑わされてはいけません!!王女様はガオ王子様を陥れようとしているのです!!自分の王位継承の立場が危ういからといって、弟であるガオ王子様を嵌めようと画策しているのです!!」

「もうよい!!二人とも、黙れ!!」



どちらの言い分が正しいのか分からなくなってきた国王は頭を抱えて黙り込まらせ、やがて彼はため息を吐きながら二人に告げる。



「お前達二人は謹慎していろ!!今回の件は儂が直々に調べる、その間はお前達は外出する事も他の人間に接触する事も許さん!!」

「陛下!!私は……」

「分かりました。それが陛下の言う事ならば従いましょう」



国王の命令にリルは食い下がろうとするが、ギャンはあっさりと引き下がる。それを見てリルは忌々し気に彼を睨み、ここで自分だけが反対すれば国王の印象が悪くなると判断して渋々と従った。


二人が自分に従うと国王は頭を抱え、どちらも信頼している人物だけに誰を疑えばいいのか分からずに思い悩む。しかし、ここで国王はリルが告げた「勇者」の事を思い出す。



「そういえばリルよ、お前が連れ帰ったという勇者はどこにいるのだ?」

「……彼は王都から離れた場所で隠れています。私が迎えに行くまでは連れて帰る事は出来ません」

「何故だ?どうして勇者は王都へ連れてこなかった?」

「王女である私でさえも命を狙われたのです。勇者殿は本当に自分を快く迎えてくれるのか警戒しているのです」

「ふん、怪しいですな……本当に王女は勇者を連れ帰ったのですかな?自分の急な帰国の言い訳として勇者を連れ帰ったと口にしたのでは?」

「では宰相はどうやって私がこんな短期間で国へ戻る事が出来たのか説明できるのか?私がヒトノ帝国へ赴き、そこからどうやって10日も経たずに戻ってこれたのか、説明できるのか?」

「…………」



リルの言葉にギャンは何も言い返せず、確かに彼女がヒトノ帝国へ向かい、僅かな日数で戻って来たのも事実だった。その事から国王はリルが勇者を連れ帰ったという報告は信じる事にした。

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