第177話 ギャン宰相

「では、リルルよ。お主の言う通りにガオの処罰は黒狼騎士団の解散とする。それで構わんのだな?」

「はい、異論はありません」

「よかろう。ではガオには黒狼騎士団の全隊員を引き入れ、王都へ戻るように通達せよ!!従わぬようであればライオネル将軍を派遣し、無理やりにでも連れてこい!!」

「お待ちください国王様!!」



リルの言葉を聞いて国王はすぐに兵士に命令を与えようとすると、玉座の間に大声が鳴り響く。驚いて全員が玉座の間の出入口に振り返ると、そこには痩せ細った老人が存在した。年齢は国王よりも10才ほど年上らしく、彼を見た国王は慌てふためく。



「ギャン宰相!?いったいどうしたのだ、お主は自宅で療養中だったはずでは……」

「国王様、ご心配を掛けましたな。ご安心ください、この通りに身体の方は治りましたので本日から業務を復帰します」

「ギャン宰相……姿が見えないと思っていたら病気だったのか?」



ギャンと呼ばれた老人は朗らかな笑みを浮かべながら玉座の間に入り込むと、リルは敵意を露わにした視線を向ける。そんな彼女にギャンは余裕の態度を崩さず、国王の隣に当たり前の様に立つ。


玉座の間に立っていた大臣たちはギャンが登場した瞬間に顔色が悪くなり、中にはあからさまに距離を開こうとする大臣も存在した。だが、そんな彼等の反応を見てギャンは笑みを崩さず、国王に話を聞く。



「国王様、先ほどケマイヌと警備隊長が地下牢に移送される途中で自決しました」

「な、何だと!?」

「自決だと、そんな馬鹿なっ!?」

「ギャン、貴様……!!」



あっさりと二人が自決したと発言したギャンに国王を含め、他の者達も動揺した。しかし、すぐにリルはギャンの考えを読み取って憎々し気な表情を浮かべる。ギャンはそんな彼女の反応を見て楽しむように告げた。



「国王様、兵士の報告によると二人は無理やりに兵士から武器を奪い、その場で首を切って死亡したのです。私はその現場を見ていたので間違いありません」

「そ、そんな……どうして奴等は自決したのだ!?」

「さあ、理由までは分かりませんな。ですが、死ぬ直前に二人は何か「王女に騙された」と言っていましたが……何かご存じはありませんかな王女様?」

「ギャン宰相!!貴様、そんな戯言で国王様と私の仲を引き裂くつもりか!?」

「お、落ち着け!!二人とも落ち着くのだ!!」



ギャンの言葉にリルは激高して立ち上がると、彼の元へ詰め寄ろうとした。それを見た国王は立ち上がって二人の間に入ると、ギャンに詳しい話を聞く。



「ギャンよ、どういう事だ?二人が自決したというのは本当の話か?」

「はい、それは事実でございます。現在、兵士達が二人の遺体の処理を行っています」

「貴様が殺したのだろうがっ!!」

「卑怯者……!!」

「たかが騎士如きが儂を愚弄するか?立場を弁えよ!!」



ネコミンとチイも黙っていられずにギャンに怒鳴りつけると、彼は不満を露わにして逆に怒鳴り返す。その態度に二人は悔しそうな表情を浮かべるが、レイナが二人の肩を掴んで落ち着かせる。



「二人とも落ち着いて……ここで騒いでもリルさんの立場を悪くるするだけだよ」

「しかし、あの男はお前が折角捕まえたあの二人を……!!」

「人の命を簡単に奪う外道……許せない」

「分かってる、でも今は落ち着いて……」



レイナはネコミンとチイを落ち着かせて座らせると、ギャンに鋭い視線を向ける。その瞳を見てギャンは訝し気な表情を浮かべるが、すぐにリルと向き直る。



「やれやれ、王女様は自分の騎士の教育がなっていないようですな。宰相である私に対して無礼な口の利き方を……」

「私の騎士達を侮辱するな、老害め!!」

「リルル、言葉が過ぎるぞ!!ギャンも落ち着かぬか!!」



仮にも宰相であるギャンを老害呼ばわりするリルに国王は叱りつけ、一方でギャンに対しても注意する。ギャンは殺気を滲ませたリルに睨まれても涼し気な表情で答えた。



「ところで王女様、外で待たせている兵士達に関してですが、彼等の装備を調べたところ、おかしな事に木造製の鎧を黒く塗りつぶしただけでのようですな」

「何だと?貴様、まさか兵士達にまで……」

「ご安心ください、彼等には何もしていませんよ。ただ、話しを聞くところによると彼等全員が借金を背負う王都の住民だと聞いております。そして彼等の借金をリルル王女様が肩代わりすると約束したのは本当ですかな?」

「何!?それはどういう事だリルル!?」



リルが連れて来たケマイヌに従っていた兵士達が借金を背負っていた事は国王も聞いていたが、その借金をリルが肩代わりするという話は初耳であり、リルに問いただす。


別に隠していたわけではないが、この状況下でギャンがそれを指摘した事に対してリルは嫌な予感を覚え、それでも問われた以上は答えねばならず、国王に兵士達の事情を説明した。

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