第166話 ケマイヌの捕縛
「馬鹿者、取り乱すんじゃない!!我々はガオ王子の命令を受けているのだ!!」
「ガオだと?貴様等、奴に何を言われた!?」
「ふんっ……我々、黒狼騎士団はガオ様の命を受けて王都近辺の見回りを行っている!!怪しい者を見つけ次第、即刻捕らえるように命じられているのだ!!」
「怪しい者だと……ならば何故、リル様に対して警戒する!!この御方は第一王女様だぞ!?」
ケマイヌの言い分にチイが言い返すと、彼は小馬鹿にしたよな態度を貫き、挑発するように告げる。
「いくら王女と言えど、貴女は予定よりも随分と早く帰還した事は事実、怪しむなというのが無理な話だ。なれば我々は職務上、貴女方を取り調べる必要がある。特にそこの少女二人は見た事がない顔だからな、じっくりと調べさせてもらうぞ」
「きゅろっ?」
「…………」
レイナとサンを見たケマイヌは舌なめずりを行い、その態度を見たリルは忌々しく思いながらもケマイヌに言い返す。
「ケマイヌ、貴様は弟の側近でありながら王女である私を疑うというのか?」
「ふん、そもそも怪しい行動を取った貴女が悪いのですよ。何、抵抗しなければ我々も手荒な真似はしません」
「そんな言葉が信じられると思うのか?」
「貴女が信じようと信じまいと我々の行動は変わりません。さあ、捕まえろ!!」
ケマイヌが命令を下すと、兵士の半分が馬から降りると、槍を構えたまま近付いてくる。相手が盗賊の類ならばともかく、仮にもケモノ王国の兵士となるとレイナも迂闊に抵抗は出来ず、サンを抱えて後ろに下がる。
レイナはリルにどうするべきなのか尋ねようとしたが、彼女はレイナを安心させるように頷き、チイとネコミンも武器に手を伸ばす。その様子を見て槍を構えた兵士達も警戒すると、ケマイヌがさらに命令を与えた。
「何をしている!!早く捕まえろ!!」
「ですが、王女様に対してそんな事を……」
「安心しろ、責任は私が取る!!さあ、早くやれ!!」
「責任だと……たかが弟の腰巾着如きが偉そうに言うな」
「な、何だと貴様!?」
リルの挑発に対してケマイヌは激高し、反射的に槍を伸ばしてリルに構えようとした。だが、その行為を利用してリルは自分に突き出された槍を掴むと、力尽くで奪い取る。
「ふんっ!!」
「うわぁっ!?」
「隊長!?」
槍を奪われた際にケマイヌは体勢を崩して馬から落ちると、周囲を取り囲んでいた兵士達は驚愕する。慌ててケマイヌは起き上がろうとしたが、先にリルが動いてケマイヌの首筋に槍の刃を押し当てた。
「動くな、下衆が」
「ひっ!?」
「た、隊長!!」
「お前達も動くな!!王族として命じる、動いた者はその場で切り捨てる!!」
リルが一喝すると他の兵士達は動く事が出来ず、ケマイヌを人質に取られては彼等は何も出来なかった。槍を押し当てられたケマイヌは怯えた表情を浮かべ、先ほどまでの威勢はどうしたのか情けなく命乞いを行う。
「ひいっ……ゆ、許して下さいリル様!!」
「お前に私の名前を呼ぶ許可は与えていない」
「ぎゃあっ!?お、お許しください王女様……!!」
「部下たちに命じろ、今すぐに全員が馬を降りて離れるように伝えろっ!!」
「は、はい……お前等、早く馬を降りろ!!」
『…………』
ケマイヌに命じられた者達は呆気に取られるが、仕方なく彼の命令に従う。全員が馬から降りるのを確認すると、今度は武器を下ろすようにリルは命じる。
「武器と鎧を外させて離れるように命じるんだ」
「はい!!お前等、武器を手放せ!!鎧を脱ぐんだ!!」
『……はあっ』
兵士達は命令を受けて渋々と武器を地面に降ろすと、鎧を外す。中には重たい鎧が脱げる事で身体が軽くなり、嬉しそうな表情を浮かべる者もいた。基本的に獣人族は動きやすい服装を好み、重量のある鎧や甲冑などは好んでは着ない。
全員が武装解除したのを確認すると、リルはレイナ達に頷き、ひとまずは武器の回収を行う。そして馬達を引き剥がすと、リルはケマイヌを縛り上げて兵士達の前に突き出す。
「見ろ!!これがお前達の上司の姿だ!!王族に逆らうとどうなるのか、これで分かっただろう!?」
『は、はい!!』
「本来ならばお前達にも罪を問うところだ!!だが、お前達はあくまでもこの男に命じられただけに過ぎない!!そこでお前達には罪を問わない、その代わりに私の質問には全て答えてもらうぞ!!」
『はっ!!』
王族としての威厳を放ちながらリルは兵士達に命令すると、彼等はその場で平伏してリルに従う。その反応を見てリルは頷くと、まずはケマイヌの背中に容赦なく刃を軽く突き刺す。
「いぎゃあっ!?」
「ケモノ王国の兵士がこの程度の事で情けない悲鳴を上げるな!!お前の愚かな行動でこの場にいる兵士全員を危険に晒した、それを理解しているのか!?」
「は、はひぃっ……!?」
「……ださい」
「愚か者め……」
「格好悪い……」
「きゅろろっ……」
「ぷるぷるっ(情けない奴だな)」
ケマイヌは涙目で鼻水を垂らしながらリルの言葉に従うと、その様子を見ていたレイナ達は呆れた表情を浮かべる。
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