第143話 高台のホブゴブリンの始末
「あの高台には銅鑼が存在した」
「銅鑼?」
「気付いていなかったのかい?恐らく敵が現れた場合、それを鳴らして仲間に知らせるつもりだろう。だからこそ高台に存在するホブゴブリンを真っ先に始末する必要がある。異変を感じて銅鑼を鳴らされたら厄介だからな」
「でも、どうやって高台にいるホブゴブリンを倒すんですか?」
「むっ……そこが問題だな。リンの奴がいれば良かったんだが」
「リン?」
「私達と同じ騎士団の「弓騎士」百発百中の弓の腕を持つ女の子」
ネコミンによるとリルの騎士団には弓の名手が存在するらしく、この場にいれば高台で見張りをしているホブゴブリンを遠方から仕留める事も出来たという。しかし、存在しない人間には頼る訳にはいかず、ここは自力でどうにかするしかない。
高台の周囲には幸いな事にホブゴブリンの姿は見えず、定期的に村の周囲の巡回を行うホブゴブリンが高台のホブゴブリンと交代を行う時ぐらいしか他の者とは接触しない。しかも巡回を行っていたホブゴブリンは既にレイナ達が侵入を行う際に排除していた。
「高台の様子はここから見る限り、まだ怪しまれてはいないようだ。随分と眠たそうな表情で見張りを行っている、もしかしたらホブゴブリンは昼行性の生き物かもしれないな」
「どうしますリル様?こっそりと近付いて高台まで登り込み、奴等を始末しますか?」
「いや、普通のゴブリンならばともかく、高台に存在するのはホブゴブリンだ。一瞬で仕留める事が出来なければ銅鑼を鳴らされて他の奴に異変を知られてしまう可能性が高い。ここは慎重に動かねば……」
高台の様子を確認しながらリルは作戦を考え、この中の誰が高台に接近してホブゴブリンを瞬時に仕留められる可能性が高いのかを考慮する。すると、必然的に隠密の技能と聖剣を所有するレイナに全員が視線を向けた。
「よし、困った時のレイナ君頼りだ。頼りにしているぞ勇者様」
「ええっ……そんなこと言われてもどうすればいいんですか?」
「とりあえずは気付かれないように高台まで移動するんだ、私達がどうにかして高台のホブゴブリンの注意を引く。その際に君は高台に登ってホブゴブリンを仕留めてくれ」
リルが確認した限りでは現在の高台には2匹のホブゴブリンしか存在せず、一瞬でもこの2匹のホブゴブリンの注意を引けば聖剣を所有するレイナならば勝てるという確信があった。状況的に考えても他の者達よりもレイナの方が適任であり、仕方なくレイナは作戦を引き受ける――
――その後、すぐに作戦を実行するためにレイナ達は移動を開始すると、まずはレイナが「隠密」を発動させて存在感を消し去り、高台の元まで移動を行う。幸いな事に高台のホブゴブリン達は村の外しか警戒していないので気付かれる恐れはなく、レイナは難なく近寄る事が出来た。
そのまま梯子に移動するとレイナは離れた位置に存在するリル達に頷くと、彼女達は小石を拾い上げて同時に高台へ向けて投げ込む。その結果、高台で見張りを行っていたホブゴブリンの顔面に3人の投げた小石が的中する。
「ギャアッ!?」
「グギィッ!?」
唐突に悲鳴を上げた相方にもう片方のホブゴブリンが驚いた表情を向け、2匹の注意が地上から逸れた。その隙にレイナは梯子を上ると、顔面を抑えるホブゴブリンとそれを心配するように腕を伸ばすホブゴブリンの姿を確認して意を決して高台へと乗り込む。
(音を立てずに……仕留める!!)
高台に移動したレイナはアスカロンを引き抜くと、背後から2匹のホブゴブリンに目掛けて刃を振り翳す。2匹は背後から気配を感じ取って驚いた顔を向けた瞬間、レイナの振り抜いた刃が2匹の首筋を通過して頭部と胴体が離れた。
悲鳴を上げる暇も与えずにレイナはホブゴブリンを片付けると、2匹の頭部が高台の床に転がり込み、それを見た嫌な汗をかく。どちらの表情も何が起きたのか理解できない様子で死んでおり、口元を抑えながらもレイナは安堵の表情を浮かべる。
(どうにかなった……よし、すぐに降りよう)
ホブゴブリンを仕留めた事で安心したレイナだったが、降りようとした寸前で不意に村の外の様子を伺うと、そこにはファングを引き連れたホブゴブリンが1体存在する事に気付く。
「グギィッ……!?」
「なっ……!?」
どうして始末したはずの村の周囲を巡回するホブゴブリンとファングが存在するのかとレナは動揺するが、ここである事を思い出す。最初に森の中で遭遇したホブゴブリンとファングが存在した事であり、村以外場所にもホブゴブリンが配置されている可能性をレイナ達は見落としていた。
――不運にも高台の異変に気付いたホブゴブリンは村の外で見張りを行っているホブゴブリンと交代のために赴いたのだが、既にレイナ達によって始末されていた最初のホブゴブリンとファングの死体を発見してしまい、その異変を知らせるために村に戻って来た所でレイナの姿を発見してしまう。
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