第139話 森の奥の廃村
「……リルさん、ここは俺がどうにかします」
「どうにか……というと、まさか倒すつもりか?」
「隠密と気配遮断を使えばぎりぎりまで近付けると思うので……」
「なるほど、確かにこの状況では君が適任だな」
「気を付けろよ、まあ吸血鬼を倒したお前なら心配ないと思うが……」
「頑張って」
「ぷるんっ(やっちゃえっ)」
レイナは腰に差していたフラガラッハを引き抜き、意識を集中させて「隠密」と「気配遮断」の技能を発動させて移動を行う。どちらも存在感を消す事に特化した技能のため、さらに用心して「無音歩行」の技能で足音を完全に絶ってから接近する。
ある程度まで近寄るとレイナはフラガラッハを握り締める力を強め、落ちていた小石を拾い上げる。そして近くの茂みに向けて投擲する事でホブゴブリン達の注意を引く。
「グギィッ!?」
「ガウッ!?」
茂みの方から音が鳴った事でホブゴブリンとファングの注意が削がれ、それを確認したレイナはフラガラッハを握り締めて一気に近付く。
唐突に姿を現したレイナにホブゴブリンは驚愕の表情を浮かべ、ファングは鳴き声を上げようとしたが、その前にレイナのフラガラッハの刃が2匹の首筋を切り裂く。
「はあっ!!」
一瞬にしてホブゴブリンとファングの首に刃が通過すると、そのまま首元から血を流して2つの頭部が地面に落ちる。時間にすれば1秒にも満たず、ほんの一瞬でレイナは2体を倒す。まるで一流の剣士のような無駄のない動作で敵を倒した事にリル達は感心した表情を浮かべる。
(見事な動きだ……そうか、これまでの戦闘でレイナ君も成長しているんだな)
リルはレイナの動きを見て、今までのレイナは魔物が相手であっても生物を殺したときに躊躇していたように感じられた。それは平和な日本で暮らしていたため、他の生物を殺す機会がなかった彼にとっては、生き物を殺すという行為に慣れていなかったので戸惑うのは仕方がない。
しかし、これまでの道中や大迷宮の一件を得てレイナも確実に成長しており、今の魔物を倒す時の動作は全くの隙が無く、剣術に関しても短期間ではあるがリルの指導を受けたお陰で様になって来た。元々、剣の才能はあったと思われ、戦技が扱えないからといって剣が扱えないわけではない。
(やれやれ、これほど心強い味方はいないな)
勇者としての能力を使わずともホブゴブリンやファングを瞬殺したレイナに対してリルは笑みを浮かべ、この調子ならば王都へ辿り着く頃にはさらにたくましい存在へと成長する事を確信する。だが、今はホブゴブリンとファングの死体の確認を行う方が先決であり、リル達はレイナの元へ駆け寄る。
「レイナ、無事?」
「大丈夫か?」
「平気だよ。それより、これを見て……こいつが馬車を襲った相手で間違いはないかな?」
死体の前で腰を屈めて様子を伺ったレイナはネコミンに確認を願う。彼女は臭いを嗅ぐと、確信した様に頷く。
「間違いない、やっぱりこのホブゴブリンから馬車を襲った奴と同じ臭いがする」
「という事はやはりこいつが馬車を襲撃した犯人という事か……」
「だが、馬車から奪ったと思われる荷物は見当たらないな」
馬車を襲撃した犯人がレイナの倒したホブゴブリンである事は間違いないが、それにしてはホブゴブリンが兵士の死体から奪った装備品や馬車に詰め込まれていたはずの荷物を持ち合わせていない事にリルは疑問を抱く。
周囲を捜索しても特に荷物らしき物は見当たらず、何処かに隠したのかあるいは別の可能性が考えられた。
「クンクンッ……ウォンッ!!」
「どうしたシロ?」
「何か臭いをかぎ取った?」
周辺の捜索中にシロが鼻を鳴らして鳴き声を上げると、そのまま地面に鼻を近づけて移動を開始した。その様子を見てレイナ達も後に続くと、クロとネコミンも同じように地面に鼻を擦りつけるのではないかという程に近づけて移動を行う。
「すんすんっ……こっちの方から何か臭う」
「クゥンッ」
「ちょ、ネコミン……パンツ見えてるよ」
「こ、こら!!お前、元は男だろう!!じろじろと見るんじゃない!!」
スカートの中が丸見えになっても構わずに移動するネコミンに対してレイナは困った風に視線を逸らし、一行は森の中を歩き続ける。しばらくの間は歩き続けると、やがてレイナ達は森の中に存在する「廃村」へと辿り着いた。
「ここは……村、か?」
「随分と寂れているな……人が暮らしているとは思えないが」
元々は人間が暮らしていたと思われる村へと辿り着いたレイナ達だが、建物はどれもさび付いており、村を取り囲む木造製の柵は至る箇所が破壊されていた。
恐らくは過去に魔物の襲撃を受けて滅ぼされた村だと思われ、半壊している建物も多い。ネコミン達は鼻を鳴らすと、この村の方から異様な臭いを感じ取ったという。
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