第127話 吸血鬼襲来

「よし、行くぞ!!」

「「ウォンッ!!」」

「う、うわぁああああっ!?」



リルの号令の下、シロとクロが動き出そうとした瞬間、唐突に城壁にて悲鳴が上がる。何事かとレイナ達は顔を向けると、そこには城壁の兵士が女性冒険者に噛みつかれる光景が広がっていた。


何が起きているのか理解するのにレイナ達は時間が掛かったが、女性冒険者は男性の兵士の首筋に噛みつき、瞳を怪しく光らせる。噛みつかれた兵士は徐々に身体が細くなり、全身の水分が干からびたかのように身体がやつれ、やがて白目を剥いて倒れ込む。



「ぺっ……やっぱり、まずいわね。駄目ね、食べるとしたら子供じゃないと……」

「き、貴様!!何のつもりだ!!」

「いったい何をした!!」



女性冒険者の凶行に周囲に存在した兵士達が槍を構えて包囲すると、女性は右手を伸ばして爪を刃物のように鋭くさせる。そして腕を振り払った瞬間に兵士達の槍が切り裂かれ、彼等は悲鳴を上げた。



「邪魔よ。餌の分際で私の邪魔をするんじゃない」

「な、なっ……ま、まさか!?」

「その瞳にその爪、吸血鬼か!?」

「死になさい」



女性は兵士の疑問に答えずに腕を振り払うと、今度は兵士達の頭部を切り裂く。その光景を見たレイナは目を見開き、黒竜の救援に向かおうとしたリル達は標的を変更させ、遂に現れた「吸血鬼」の元へ向かう。



「現れたか、吸血鬼め!!」

「貴様がアンデッドを操っているのか!!」

「シロ、クロ、近付いて」

「「ウォンッ!!」」

「ほう、今度のは上等な餌だな」



リル達が吸血鬼に接近すると相手は舌を伸ばし、駆け出す。人間離れした速度で駆け出してきた吸血鬼は両手の爪を伸ばし、まずは手始めにシロとクロの顔面に向けて刃を振り払う。


攻撃を仕掛けられたシロとクロは咄嗟に横に動いて回避に成功するが、吸血鬼は立ちどまって振り返ると、挑発するように手招きを行う。それを見てリルはシロとクロに騎乗した状態では分が悪いと判断した。



「散開!!全員、離れて囲め!!」

「了解!!」

「分かった」

「は、はい!!」

「俺達も続け!!吸血鬼を逃すな!!」



リルの指示のもとにレイナ達はシロとクロから降りると、他の兵士や冒険者も集まり、吸血鬼を取り囲もうとした。だが、相手はそれを予測していたかのように笑みを浮かべると、地上へ向けて腕を伸ばす。



「私一人だけに気にかけて大丈夫かしら?まだアンデッドは残っているのよ」

「何だと!?」

「は、はったりだ!!」

「それはどうかしら、ねっ!!」



吸血鬼が腕を上げると地中からアンデッドの大群が出現し、先ほどの戦闘で倒したときよりも大量のアンデッドが地中から出現した。どうやらアンデッドを地中に隠していたらしく、自分が登場するのと同時に出現させて襲わせる判断だったらしい。


アンデッドは城壁に迫ると冒険者や兵士達は吸血鬼だけに注意は引けず、このままではアンデッドが城壁を乗り越えて街の人間に被害が生まれてしまう。しかし、吸血鬼を放置する事など出来ず、城壁の人間達は二つの脅威に同時に相手をしなければならなかった。



「さあ、どうするのかしら?私一人に気にかけていればこの街はお終いよ」

「貴様……いったい何が目的だ!!」

「目的?そうね、言い忘れていたわ。どうせ貴方達は全員ここで始末するつもりだから、別に話す必要もないと思うけど……一応は名乗ってあげるわ。私は魔王軍の七星将、紅血のアルドラよ」

「魔王軍!?七星将だと!?」

「そんな馬鹿な……魔王も勇者も遥か昔に勇者に討伐されたはずだろう!!」



七星将と名乗るアルドラという吸血鬼は笑みを浮かべると、周囲の者達は激しく動揺した。どうやらこの世界では有名な存在らしいが、レイナはどのような存在なのかは分からず、リルに尋ねる。



「リルさん、あいつ魔王軍って……」

「ああ、確かに言った……だが、どういう事だ?どうして魔王軍が獣人国に……」

「帝国の魔王軍が獣人国に攻め込んできたのですか!?」

「という事は……黒幕は帝国の大臣?」



リル達が帝国に赴いた際、彼女達は帝国領内で暴れている魔王軍という存在は帝国の大臣である「ウサン」が作り出した組織だと暴いた。魔王軍を名乗る輩を裏で操っているのはウサンだと知ったリル達は魔王軍が復活したのではなく、かつて世界を恐慌させた魔王軍の名声を利用して作り出された組織だと判断していた。


しかし、目の前に現れた吸血鬼が魔王軍と名乗った事に動揺を隠せず、帝国領内の魔王軍が他国にも現れたという話は聞いた事がない。考えられるとしたら魔王軍を操作するウサンが獣人国にまで組織の人間を差し向けたか、あるいは本当に魔王軍と呼ばれる存在が復活を果たしたのかである。



(……いや、今はこの人を何とかしないとまずい)



現時点でアルドラの正体を見抜くのは難しいと判断したレイナは考えを切り替え、どのような手段でアルドラを倒すべきかに集中した。


ここで色々と考えても埒が明かず、アルドラの正体が本当に魔王軍であるのかどうかは分からないが、彼女を何とかしない限りは街を襲うアンデッドはどうにもできなかった。

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