第124話 魔爪術

「おい、何してるんだあんたら!!冒険者ならちゃんと戦えよ!!」

「あ、すいません……けど、アンデッドは何処に」

「下を見ろ!!」



遠くにいた兵士が城壁の外を指差すと、既に地中から抜け出そうとしているアンデッドの姿が存在し、兵士達は慌てて矢を放つ。しかし、いくら矢で射抜かれようとアンデッドには効果はなく、例え頭を貫かれようとアンデッドは怯みもしない。


アンデッドは文字通りに不死身らしく、聖属性以外の攻撃は一切受け付けない。正確に言えば聖属性の攻撃でなければ倒す事は出来ず、肉塊になろうと再生を果たして生物に襲いかかる厄介な相手だった。



「くそ、駄目だ!!こいつらにはやっぱり矢は効かねえっ!!」

「馬鹿野郎!!鏃に聖水は塗ってないのか!?」

「塗っても大して効果はないんだよ!!くそ、不良品を寄越しやがって……!!」

「泣き言を言っている場合か!!ほら、手を休めるなっ!!」



兵士や冒険者は城壁を登ろうとしてくるアンデッドに対して矢を射抜き、岩石を落として城壁から振り解く。だが、いくら損傷を与えようとアンデッドは再生し、懲りずに向かってくる。不死身の上に痛覚も疲労も感じない生物というほど厄介な相手はいない。


レイナ達の城壁にもアンデッドが迫り、それを見ていたレイナはエクスカリバーを取り出そうとするが、寸前でリルに引き止められる。



「レイナ君、その剣を使うのはまずい。それを使えば確かにアンデッドは一掃できるだろうが、吸血鬼に見られる恐れがある」

「え?」

「もしも仮に吸血鬼がこの街を狙っているとしたら、きっとアンデッドの指揮をして何処かに潜んでいるはずだ。そいつにエクスカリバーの存在を知られるときっと恐れて身を隠すだろう。そうなると厄介な事態に陥る……ここは私達に任せてくれ」

「攻撃さえ通じればこんな奴等に負けはしない!!」

「いざとなったらレイナもいる……頑張る」



エクスカリバーを使用を禁じたリル達は武器を構えると、城壁から飛び降りる。彼女達の行動にレイナは驚くが、獣人族ならではの身体能力の高さを生かし、3人は無事に地面へ着地した。


アンデッドは生命力の強い存在に惹かれる性質を持ち、リル達は冒険者の中でも特にレベルが高い事もあって真っ先に彼女達にアンデッドは迫る。しかし、それに対して最初に動いたのはネコミンだった。



「魔爪術……猫爪!!」

「おおっ!?」



城壁の上からレイナはネコミンが右手に装着したネイルリングが光り輝き、やがて青色に光り輝く魔力が纏わり、爪の大きさが変化を果たす。


外見的にはネコミンのネイルリングが青色に光り輝いて巨大化したように見えるが、彼女は右手を振り払うと一気にアンデッドの群れを切り裂く。



「ていっ」

「アアアッ!?」

「ギャアッ!?」

「オアッ!?」



力の抜ける掛け声ではあるが、アンデッド達は攻撃を受けた瞬間に身体が崩れ去り、どうやら聖水の効果も合わさって効果的らしい。その様子を見ていたリル達も動き、2人も武器に聖水を注いでいるので攻撃が通じた。



「旋風!!」

「牙斬!!」

『オアアッ!?』

「す、すげぇっ……なんだあいつら!?」

「呆けている場合か!!彼女達を援護するんだ!!」



城壁の兵士や冒険者達もアンデッドを引き付けるリル達の援護のために矢を射抜き、中には魔術師も存在したのかアンデッドに向けて杖を構え、魔法を放つ。



「下がってろ!!こいつでぶっ飛ばしてやる……ファイアボール!!」

「うわっ!?」



魔術師の男性が杖先から数十センチの火球を生み出すと、アンデッドの大群に放つ。火球は地面に衝突すると爆発を引き起こし、数体のアンデッドを粉々に吹き飛ばす。その様子を見てレイナは驚き、これがこの世界の魔法の力なのかと思い知る。


魔法自体を見たのは初めてではないが、魔術師が魔法を扱って敵に攻撃を仕掛ける場面を見たのは初めてだったレイナはその威力に驚く。これほどの威力を誇る攻撃が出来るのならば魔術師が重宝されるのも納得するが、魔法を発動した男は全身から汗を流し、その場に膝を付いてしまう。



「だ、駄目だ……もう、限界だ。少し休ませてくれ!!」

「ええっ!?」



たったの一発で魔力を相当に消費したのか魔術師の男は他の人間に運ばれ、その様子を見ていたレイナは唖然とする。だが、あれほど高火力の魔法を放てば魔力を消耗するのは仕方ない事である。



(こっちの世界の魔法って、そう何度も連発は出来ないのかな?それともあの人がレベルが低くて魔力が少ないとか……?いや、今は考えている暇はないか)



リル達の援護を行うためにレイナはフラガラッハとアスカロンを引き抜き、どちらの剣もエクスカリバーには及ばないが聖剣である事は間違いなく、自分も城壁から飛び降りてアンデッドに切りかかる。


ちなみにレイナもレベルが上がった事で身体能力も上昇し、高い城壁から落ちても無事に着地できる程度の身体能力は有していた。

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