第123話 回復薬と聖水の違い
――聖水――
能力
・自然回復力強化(小)
・効果時間:10分
・使用期限:150日
詳細:聖属性の魔力を宿した飲料水。飲用すれば自然回復力が増すが、効果時間は短い。死霊系の魔物に対抗力を強化させる効果があり、武器に注げば一時的に聖属性の魔力を宿す事が可能
――――――
視界に表示された画面を見てレイナは悩み、どうやらリル達の言う通りに聖水は回復薬とは異なり、怪我をすぐに治す事は出来ないらしい。だが、効果時間と表記されている辺り、一定時間は回復の効果が落ちないという点は回復薬よりも優れているかもしれなかった。
回復薬が即効性が高く、降り注げば大抵の怪我は治療する事が出来る。高位の回復薬ならば肉体の破損した箇所さえも再生できるらしいが、効果時間などは表示されていない。一方で聖水の場合は回復効果は弱いが効果時間は長く、時間内であれば肉体は回復し続けるらしい。
(なるほど……確かに回復薬と比べると使いにくそうだな)
魔物との戦闘時に怪我を負った場合、効果時間は長いが怪我の治療に時間が掛かる聖水よりも即効性の高い回復薬の方が愛用されるのは仕方がない。しかし、効果時間の長さを考えれば時間に余裕さえあればもしかしたら聖水の方が市販の回復薬よりも回復効果を得られる可能性もある。
例えば全身に酷い怪我を負った冒険者が居た場合、市販で販売されている回復薬では量の問題で全身の傷を治す事は出来ない。飲用すれば肉体全体に回復効果を促すが、回復薬は基本的に傷口に注ぐ事で大きな効果を発揮する。一方で聖水の場合は回復速度は遅いが、効果時間が長いのでもしかしたら普通に回復薬を使用するよりも怪我の具合が良くなる可能性も高い。
(ゲームで例えるなら回復薬はヒール、聖水はリジェネ効果があるみたいな感じかな?)
即効性の高い回復薬、遅効性ではあるが回復効果は大きい聖水、この二つの特徴を見分けることが出来れば一概にも聖水が回復薬より劣っているとは言えない。
しかも聖水の場合は聖属性の魔力を一時的に宿す事が出来るという点もあるため、今の状況では非常に心強い道具だった。
(文字数を考えて無駄に使わないように気を付けないと……)
レイナはリル達から3本の聖水を受け取ると、どのように聖水を強化させるのかを考える。その結果、やはり長期戦も考えて「自然回復力強化(小)」と「効果時間:10分」に変化を加えるのが妥当だと考えた。
(出来る限り文字数を使わずに強化させるには……こうかな?)
――聖水(高純度)――
能力
・自然回復力強化(大)
・効果時間:90分
・使用期限:150日
詳細:聖属性の魔力を宿した飲料水。飲用すれば自然回復力が大幅に強化される。死霊系の魔物に対抗力を強化させる効果があり、武器に注げば一時的に聖属性の魔力を宿す事が可能
――――――――――
3人分の聖水の強化を行う事を考慮してレイナは「自然回復力強化(小)」を「自然回復力強化(大)」に、次に「効果時間:10分」を「効果時間:90分」へと変更させる。
詳細画面が更新されると、説明文の内容も若干変化しており、無事に能力は強化された事を確認してレイナは安心すると、リルが頷く。
「……ふむ、どうやら上手く行ったようだね」
「え?どうして分かったんですか?」
「聖水の輝きが増したからさ」
レイナが渡す前にリルは聖水の強化に成功した事を見抜き、レイナは聖水の小瓶を覗き込むと、明らかに先ほどよりも液体が光り輝いている事に気付く。リル達にレイナは小瓶を返すと、効果の内容を伝える。
「一応は回復力の強化と効果時間を伸ばしました」
「なるほど、これは期待できそうだ」
「少し眩しい……でも綺麗」
「目がちかちかしてきたな」
聖水の輝きが強すぎて直視するのも難しくなったが、これほどの輝きを放つのならば十分に効果も期待できるため、リル達は聖水を懐にしまう。
それからしばらくの間は何事も起きず、レイナ達は待機していると、やがて日の光が完全に遮られ、遂に街の外のアンデッドが動き出す時間帯に陥った。
「よし、松明に火を灯せ!!奴等が来るぞ!!」
「来たか……皆、準備はいいな?」
「はい!!」
「問題なし」
「大丈夫です……って、ネコミンそれなに?」
アンデッドが地中から姿を現す前にリルは長剣、チイは短刀に聖水を降り注ぐと、ネコミンだけは「ネイルリング」と「鎖」が繋がれたような物を取り出す。見た事もない道具にレイナは戸惑うと、ネコミンが説明する。
「これが私の武器、名前は猫爪……これで私も戦える」
「戦えるって……ネコミン、前に自分は治癒魔導士だから攻撃魔法は使えないとか言ってなかった?」
「治癒魔導士でも接近戦が出来ないわけじゃない。今からそれを証明する」
彼女は右手の五本の指に鎖と溶接されたネイルリングを装着すると、そのまま自分の右手に聖水を降り注ぐ。そして何かを確かめるように頷き、彼女は右手をレイナに伸ばして自分の魔法を発動させた。
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