第113話 髪の毛

「これは……髪の毛ですか?」

「ああ、間違いない。家畜小屋を掃除している時に見つけたんだ」

「金色の髪の毛、か……珍しいな。あまり見ない髪の色だ」

「そうなんですか?」

「金髪の人は獣人王国には滅多にいない。それにこの髪の毛……妙に光り輝いている」



ネコミンの言葉通り、チイが見つけ出した髪の毛は確かに輝きが強く、光に照らすと煌めきが増す。ただの髪の毛とは思えず、試しにリルは髪の毛をクロとシロに差しだす。



「臭いは残っているか?」

「「スンスンッ……クゥ~ンッ」」

「駄目か……」



2匹は髪の毛を嗅ぐが首を左右に振り、どうやら臭いが残っていないらしい。仕方なく、髪の毛はハンカチに包んだリルは空を見上げると、もうすぐ日が暮れようとしていた。



「今日の所はもう身体を休もう。明日は村の周辺を調査した後、他に村があるのかを調べてみよう」

「分かりました」

「それがいいと思う」

「…………」

「レア君?どうかしたのかい?」

「え?いや、その……何でもないです」



レアはチイが所持するハンカチに視線を向けて何故か頭がぼんやりとしてしまい、疑問を抱いたリルが尋ねると意識を取り戻す。


レアの反応にリル達は不思議に思うが、日が暮れる前にレア達はキャンピングカーの中に乗り込む――






――その夜、レアはどうにも寝付けずに身体を起こし、キャンピングカーの外へ赴く。外ではシロとクロが寝付いており、クロミンも2匹に囲まれる形で寝息を立てていた。



「ZZZ」

「へえ、スライムも寝るのか……ていうか、ぷるぷる以外に言葉(?)喋れるんだ」



鼻提灯まで作って眠るクロミンを見てレアは驚かされるが、すぐに起こさないようにレアは移動を行い、ため息を吐き出す。何故かチイが発見した金色の髪の毛を見て以来落ち着かず、レアは座り込む。


別に体調が悪いという訳ではなく、むしろ男に戻れた事で身体は軽い気がした。しかし、今のレアの気分は妙な気分に陥り、無性に落ち着かなかった。



「くそ、何でだろう……女の身体でいた事に慣れ過ぎて、男の身体に急に戻ったせいか……?」



頭を抑えながらレアは身体が妙に火照り、今更ながらにリル達の傍にいると落ち着かない事に気付く。最初は男性の身体に戻った事でリル達の存在を異性として意識して落ち着かないと思った。


よくよく考えれば3人とも「美少女」といっても過言ではない容姿であり、しかもネコミンに至っては男の姿でも懐いてくる。そのせいでレアは彼女達を意識し過ぎて落ち着かないのだと思いこみ、ため息を吐きながら今日はもう外で過ごそうとした時、不意にクロミン達が目を見開く。



「ぷるぷるぷるっ!!」

「ウォンッ!?」

「グルルルッ……!!」

「え?どうしたの皆……うわっ!?」



レアは目を覚ました3匹に戸惑うと、足元が急に何かに掴まれたような感覚に襲われ、驚いて視線を向けると地中から人間のような手が現れて自分の足首を掴んでいる事に気付く。


慌ててレアは足元の手首を振り払い、離れようとした。だが、あちこちから地面から無数の人間の腕が伸びている事に気付き、シロとクロが避難するためにキャンピングカーの上に飛び乗り、クロミンもレアに避難するように鳴き声を上げる。



「ぷるぷるっ!!」

「くそ、離れろっ!!」

「どうした!?何事だ……これは!?」

「なっ!?」

「……おおうっ」



異変に気付いたリル達がキャンピングカーから飛び出そうとしたが、地面から生える腕を見て驚き、そしてレアが無数の手に掴まれている事を知る。即座にリルはレアの鞄を取り出すと、レアに向けて放り投げた。



「レア君!!」

「あ、ありがとうございます!!」



鞄を受け取ったレアは中に手を伸ばして「フラガラッハ」を取り出すと、地面から伸びてきた腕を切り裂く。その瞬間、聖剣に斬り落とされた腕は空中にて灰と化して消えてしまう。



「この、離れろっ!!」

『オオオオッ……!!』

「な、何だっ!?」



次々とレアはフラガラッハを振って腕を切り裂いていくと、地中からおぞましい声が響き渡り、やがて地面の中から身体が腐敗化した人間の集団が出現した。


最初にレアが地面から現れた人間の姿を見て頭に浮かんだのは「ゾンビ」という言葉だった。身体は腐敗化し、中には眼球が垂れ下がり、皮膚が腐れ落ちて骨が丸出しになっている者も居た。異様な人間達の姿を見てレアは戸惑い、いったい何が起きているのかリル達に尋ねる。



「り、リルさん……こいつらは!?」

「アンデッドだ!!こいつらを倒すには聖属性の魔法か、あるいは聖属性の魔力を宿した武器で攻撃しなければならない……!!くそ、ここに修道女がいれば……!!」

「アンデッドは不死身……弱点を突かない限り、何度でも蘇る」

「な、なんて数だ……早く戻れレア!!」



恐らくはこの村の住民だと思われる無数のアンデッドの集団が地中から姿を現し、このまま戦っても埒が明かないと判断したレアはキャンピングカーの中に急いで乗り込む。

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