解析の勇者、文字変換の能力でステータスを改竄して生き残ります

第88話 オーク

――森の周辺を巡回する帝国兵の目を掻い潜り、レイナ達は日中の間に森の中に入り込む。うまく進むことが出来れば明日の朝日を迎える前に外へ抜け出す事が出来るが、森の中では多数の魔獣が生息しており、入って早々にレイナ達はオークの群れと出くわす。

「はああっ！！」

「プギィッ！？」

「せいっ！！」

「プギャアッ！？」

「にゃうっ」

「プギギッ！？」

「ていっ」

「プギィイイイッ！？」

レイナ達はオークの群れに切りかかり、森の中に無数のオークの死骸が横たわる。大抵の力の弱い魔物はシロとクロを見ただけで戦意を喪失するが、この森の魔獣は２匹を見ても恐れる事もなく襲い掛かってきた。

「「ガアアッ！！」」

「プギィイイッ！？」

しかし、恐れを抱かないからといって普通のオークが魔獣種の中でも速度と戦闘力に優れている白狼種と黒狼種に敵うはずがなく、次々と蹴散らされる。戦闘を開始してから数分後には２０体近くのオークの死骸が誕生し、オークの群れの殲滅を達成する。

アスカロンとフラガラッハを握り締めていたレイナは敵の殲滅を確認すると額の汗を拭い、大迷宮と遭遇したオークと比べて森の中に潜んでいたオークは動作が鈍いように感じられた。

大きな違いは大迷宮にて遭遇したオークは殺意を剥き出しにして襲ってきたのに対し、こちらの森のオークは殺意というよりも人間を餌としか認識しておらず、無我夢中に飛び掛かってくる感覚だった。

「ふうっ……よし、先に進もう」

「あれ？死骸は放っておくんですか？」

「時間に余裕があれば解体して素材を回収したいところだが、今はそんな余裕はない。ここに残っていると死骸の血の臭いに反応した他の魔物がやってくるぞ」

「急いで移動した方が良い」

魔獣種の殆どは嗅覚と聴覚に優れているため、死骸の臭いに反応して別の魔獣種が現れる前にレイナ達は移動を行う。まだ森に入って来たばかりだというのにオークの群れと遭遇した事で時間を潰してしまい、移動速度を早めなければならなかった。

チイの地図製作を頼りにレイナ達は森の中を突き進み、気配感知と魔力感知を発動させながらレイナは周囲の様子を伺う。だが、森のあちこちに生物が生息しているの反応が多すぎて対処が出来ず、本当にこんな森を抜け出せるのか不安を抱く。

（この森を半日以上も移動しないといけないのか……体力が持つと良いけど）

シロの背中に揺さぶられながらもレイナは森の様子を伺い、あちこちから魔獣と思われる生物の鳴き声が聞こえてきた。先行するリルとチイもクロの背中の上で周囲の様子を確認し、警戒態勢を維持しながら移動を行う。

「妙だな、こんな森の外が近い場所でこれだけの数のオークが潜んでいるなど有り得ない事だ。前に通った時はこんな場所にオークの群れは見かけなかったはずだが……」

「何らかの理由で森の奥部に存在するオークがこちらへ移動してきたのでしょうか？」

「分からない。だが、もしも奥部の魔物がこんな場所まで住処を追われていたとしたら……森の奥にはオークが恐れる程の存在が生まれたという事になる」

以前にリル達が森を潜り抜けた時はオークは森の奥地にしか存在しなかったはずだが、こんな森の端にオークが出現する辺り、森の奥地で異変が発生した可能性が高かった。その異変の正体は現時点では分からないが、もしも森の奥地を住処にしていたオークを追い払うように住処を奪った魔獣が生まれていた場合、非常に厄介な展開に巻き込まれる。

オークは魔物の中では決して雑魚の部類ではなく、動作は鈍いが力は強く、群れを形成すれば非常に厄介な存在だった。そんなオークたちが森の端まで追い詰められたとしたら森の奥地には非常に厄介な存在が誕生した可能性が高く、森を突き抜けて進もうとしているリル達はその存在と邂逅するのは避けられない。

（……移動を急いだ方が良いが、それだと全員の体力を削る。出来る限りの戦闘を避ける必要があるが、前回のように上手く進む事は難しいな……）

リル達が前回通過したときは魔獣種との戦闘は極力避け、目立たないように通り過ぎた。しかし、今回は入って早々にオークの群れと遭遇する辺り、森の生態系が大きく乱れているのは間違いなかった。

（一応は回復薬はあるが、万が一の場合はレイナ君の力に頼らなければならない。いや、彼だけでもどうにか守らなければ……）

勇者であるレイナをケモノ王国へ連れ帰る事が出来れば王国にとって大きな利益を生み出す可能性も存在し、これ以上に帝国の暴挙を止めるためにはレイナの存在は王国にとっては必要不可欠だった。

なんとしてもレイナだけは守りぬき、王国へ連れ帰なければならない。そう考えたリルはレイナの方を無意識に振り向こうとした時、チイが声を掛ける。

「リル様！！前方から反応が……何かが近づいてきます！！」

「くっ、新手か！？」

「グルルルッ……！！」

またオークが現れたのかとリルはクロから降りたつと剣を引き抜き、チイもシロに乗り込んだ状態で短剣を構える。後方を歩いていたレイナとネコミンも身構えると、シロが皆に注意するように鳴き声を上げた。