第81話 廃村
――それから数時間後、休憩を幾度か挟みながらレイナ達は目的地である村へと辿り着く。しかし、訪れて早々に村の様子がおかしい事に気付き、まるで地震にでも起きたかの様に建物は崩壊し、人間の姿は見えなかった。
魔物の侵入を防ぐための柵も破壊され、火災でも起きたのか黒焦げの状態の建物も複数存在した。その様子を確認したレイナは戸惑いながら3人に尋ねる。
「これは……どういう事でしょうか?」
「廃村、だな。もう村人は残っている様子はないな」
「……人の臭いはしない。もう大分前にここには誰も住んでないみたい」
「そんな……」
廃村の内部には人間が住んでいる様子はなく、盗賊にでも襲われたのかと思ったが、崩壊した建物を調べていると村の中央の広場に突き刺さっている「旗」が存在した。その旗を確認すると、リル達は表情を険しくさせ、レイナは唖然とする。
「これは……」
「魔王軍の紋章だ。そういう事か……くそ、大臣めっ!!」
リルは珍しく言葉を荒げて地面に突き刺さっている旗を蹴りつけ、旗を踏みつける。この魔王軍の紋章が刻まれた旗が残されている意味はこの場所が魔王軍に襲われた事を示す。つまり、魔王軍を操作する大臣の手によって村は襲われたことを意味した。
自国の領地で魔王軍を暴れさせ、民衆を危険に晒す大臣の行為にリルは許せず、旗に剣を突き刺す。恐らく、この村は税金を納めていなかったので魔王軍を動かして村を襲わせたと考えられ、この旗はその証として残したと考えられた。
「これで君も分かっただろう。奴のやり口が……魔王軍を利用して税金を納めない村や街を襲撃させ、他の民衆に魔王軍の恐ろしさを思い知らせる。そして高い税金を払わせて警備兵を派遣してもらい、魔王軍に対する備えとして民衆は警備兵に頼るしかない。滑稽な話さ、その警備兵と魔王軍を操作している人間が同一人物である事に誰も気づいていないんだ」
「リルさん……」
「……すまない、少し取り乱した。残念だが、今日はここで泊まる事は出来ない」
村人が存在せず、建物も崩壊している以上はリル達も碌に休む事は出来ず、本日はここで泊まる予定だったが先に急ぐ事にした。レイナは廃村の様子を見て唇を噛みしめ、本当に大臣がこんな凶行を犯したのかと冷や汗を流す。
(酷い……こんな事、人間のする事じゃない)
崩壊した建物の中には白骨死体も存在し、この村に住んでいた住民の死体も多数残っていた。それらを目にしてレイナは死体に囲まれた状況ではゆっくりと身体を休める事など出来るはずがないと悟り、黙って彼等の冥福を祈って両手を合わせる。
試しにレイナは解析の能力を発動させたが、死体に対しては詳細画面は表示されず、死んでしまった人間を救う事は出来ないと暗に示していた。彼等を救う事は出来ないと悟ったレイナは拳を握り締め、文字変換の能力が決して万能ではない事を改めて思い知った。
(死ねば終わりなんだ……当たり前の話だけど)
どんなに死にかけた状態でも生きていればレイナは文字変換の能力で人を救う事は出来る。だが、死んでしまった人間を蘇らせる方法は存在せず、当然だが死ねばそこで終わりを迎えてしまう。
レイナは心の何処かで文字変換の能力があるからどんな事態に陥っても大丈夫だと考えている節があるが、死体を目にした事で改めて文字変換の能力でもどうしようもない事を知る。
「レイナ、行こう」
「彼等の事はこの国の人間に任せるしかないんだ……今は先を急ぐぞ」
「……はい」
チイとネコミンに言われてレイナは頷き、二人もレイナの気持ちは分かるので手を握り締めて連れて行く。シロとクロに乗り込むと、レイナ達は先を急ごうとした時、唐突にネコミンが鼻を引く付かせる。
「すんすんっ……待って、何か臭う」
「臭う?」
『グルルルッ……!!』
ネコミンだけではなく、シロとクロも何かを感じ取ったのか唸り声をあげ、何事かとレイナ達は2匹から下りて周辺の様子を伺う。ネコミンは自分達の進路方向に何かが待ち受けている事に気付き、警戒するように忠告した。
「前の方に何かいる。人の臭いじゃない」
「となると、魔物か……村人の死体にでも引き寄せられたか」
「レイナ、お前は下がっていろ!!」
「あ、はい……」
レイナが戦技と魔法が扱えないと知ったチイは後方で待機しているように注意すると、両手から短剣を引き抜く。
リルとネコミンもそれぞれの武器を構え、レイナも念のためにカバンからマグナムを取り出す。しばらくすると建物の残骸の中から人型の物体が飛び出す。
「ウギィッ!!」
「ゴブリン……いや、違う!?」
「こいつは……亜種か!!」
姿を現したのは全身の体色が「赤色」のゴブリンであり、通常種のゴブリンどころか上位種ホブゴブリンよりもかなり体格が大きく、筋肉質な体型をしていた。その姿を目撃したリルは敵がゴブリンの「亜種」だと認識し、即座に魔法剣を発動させた。
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