第41話 銀狼隊の制服
――数分後、全ての準備を整えたレイナは宿を抜け出すと、冒険者ギルドに向かう。既に他の3人はギルドの前で待ち構えており、姿を現したレイナを出迎えた。どうやら自分が最後だった事に気付いたレイナは謝罪を行う。
「すいません!!遅くなりました!!」
「いや、私達が早すぎただけだ。気にしないでいい。荷物を整理するといっても、私達の場合は万が一の場合を考えていつでも動けるように最小限の荷物しか持ち込んでいなかったからね」
「それよりもお前の方はもう大丈夫なのか?見た限りでは荷物を殆ど持っていないように思えるが……」
「場合によってはこの宿に戻る事はないかもしれない。大丈夫?」
「あ、はい……何とかなりました」
荷物の整理を行った割にはカバンを持ってきただけのレイナを見て3人の方が心配するが、レイナは特に問題ない事を話す。
必要な荷物はちゃんと全て運び出しており、問題なく出発できることを伝えた。集合の時間帯までは10分近くの余裕があり、その間にリルはレイナ達にある物を渡す。
「皆、これを受け取ってくれ。回復薬だ、1人1本ずつ受け取ってくれ」
「回復薬……これが怪我の治療や体力を回復する薬なんですか?」
「ああ、勇者の世界には回復薬はなかったな?この回復薬を使えば大抵の怪我は治す事ができる。純度が高い程に回復効果も増し、場合によっては破損した人体でさえも再生する事ができるぞ」
「でも、病気の類には効果はないから気を付ける……ちなみに回復魔法は傷の治療とある程度の病気の症状を抑える事が出来るけど、体力を回復させる事は出来ないから注意」
「へえっ……」
レイナは掌に収まる程度の硝子瓶に収まった緑色の液体に視線を向け、こちらの回復薬は薬草と呼ばれる植物から作り出されたらしく、帝国では貴重な代物である。
リルが持ち出した回復薬はこの王都で購入した物ではなく、ケモノ王国から出発前に持ち込んだ代物らしい。受け取った回復薬を各々が管理すると、レイナはネコミンが自分を見ている事に気付く。
「じ~……」
「え、な、何ですかネコミンさん?」
「ネコミンでいい、それよりもレイナ。ちゃんとあの服を来たの?」
「えっ!?いや、まあ……この下に着ています」
「そうか、なら確かめさせてくれ。フードを脱いで制服姿を見せてくれ」
「ここで!?」
「何を恥ずかしがっている。ほら、早く脱げっ」
フードで身を隠していたレイナに対して3人組は事前に自分達が渡した銀狼隊に所属する者ならば、着用を義務付けられた「制服」を見せるように促す。レイナは躊躇したが、諦めたようにフードを脱いで制服姿を晒す。
――リルから渡された制服は背格好が近い彼女の予備の制服であり、結論から言うと青と白を基調にした露出度が高めの服だった。スカートもかなり短く、素肌を晒す面積が多い。肌の露出が大きいのかは動きやすさを重視された機能性のため、必然的にこのような恰好に至ったという。
「ほう、私の制服だから着られるか心配だったが、意外と似合っているじゃないか」
「可愛い」
「まあ、悪くはないんじゃないのか?」
「ううっ……これ、かなり恥ずかしいんですけど、なんでこんなに肌の露出が多いのに皆は平気なんですか?」
「獣人族は軽装を好む。人間と違って私達は運動能力が高いからね、相手の攻撃に対しても防御するよりも回避に専念する。だからこそ動きにくい恰好は好まないんだ」
当然だがレイナ以外の三人も同様に露出が激しい恰好をしており、道を歩く男たちがレイナ達の恰好を見て鼻を伸ばす。
機能性重視のために仕方がないとはいえ、まさか元々は男であるレイナが自分がこのような恰好をする事に抵抗感と羞恥心を抱く。
(くっ……我慢だ俺。我慢するしかないんだ……アリシア皇女を救い出すまではこの恰好で過ごさないといけないんだ!!でも、人間の俺が獣人族用の制服を着込む必要なんてあるのかな……)
リルの制服は獣人族のために作り出された物だとした場合、人間であるレイナがそれを身に着けても性能的には考えれば相性が良いとは言い切れない。
だが、銀狼隊の一員である事を示すためにどうしても着用する必要があり、レイナは短いスカートを抑えながら他の冒険者が訪れるのを待つ。
「むっ……銀狼隊、お前達が先に来ていたか」
「イヤンか、そちらも準備は出来たのか?」
「まあな……」
「やっふ~」
銀狼隊の次に訪れたのはイヤンとマイであり、銀狼隊から少し離れた場所で待機する。レイナはマイの方を見て空中に浮揚している金魚鉢がどのような原理で浮いているのか気になり、声を掛けようとした。
「あの……」
「話しかけるな、出発前に精神を集中させたい」
「ごめんね~」
「あ、はい……すいません」
だが、話しかけた途端にイヤンは冷たく対応し、マイも彼に乗って会話を拒否する。仕方なくレイナは大人しく待機しようと考えた時、建物の方からガロと数人の冒険者が姿を現す。
「ふんっ……お前等、もう来ていたのか」
「あ、確か……ガロさん?」
「気安く俺の名前を呼ぶんじゃねえっ!!」
レイナがガロの顔を見て反射的に名前を口にすると、ガロは悪態を吐いて機嫌が悪そうに座り込むと、自分の武器の手入れを行う。
別に名前を呼んだだけでそこまで横暴な態度を取らなくてもいいのではないかとレイナは思うが、リルが彼女の肩に手を掛けて囁く。
「ガロは女嫌いで有名なんだ。前に惚れた女に酷い振られ方をして以来、もう女の事は信用できないと言い張って同行させる冒険者も男に統一したぐらいだからね。気にしなくていいよ」
「え?そうなんですか?」
「聞こえてるぞリル!!てめえ、ぶった切られてえのか!?」
「まあまあ、落ち着いてガロさん!!」
「そうですよ!!あんな余所者、無視しましょうよ!!」
犬型の獣人族であるガロは聴覚も鋭いのかリルの言葉を聞いて激高し、慌てて他の人間が抑えつけると、その様子を見てリルはわざとらしく肩をすくめる。
その様子を見ていたイヤンは苛立ちげな表情を浮かべ、マイの方はネコミンを恐れるようにイヤンの背中に隠れる。
「……じゅるりっ」
「ちょ、止めてよ~そんな肉食獣みたいな目で見ないで~?」
「こら、ネコミン!!人魚なんか食べたらお腹を壊すだろう。ほら、この煮干しをあげるから大人しくしていろ」
「むうっ……分かった」
チイが煮干しを与えてネコミンを落ち着かせ、その様子を見ていたレイナは猫の獣人なので人魚が気にかかるのかと思いながら待機していると、背後から嫌な気配を感じて咄嗟に振り返る。
「わあっ!?」
「おっと、気付かれたか。中々に勘の鋭いお嬢ちゃんだな」
「ゴイル……私の仲間にセクハラをしようとするとはいい度胸だな」
レイナの背後に存在したのは身長が120センチ程度の少年であり、どうやらレイナの尻を触ろうとしたらしいが、寸前で気付かれて避けられてしまう。少年は悪びれもせずに笑い声を上げながら肩に乗せた巨大な鉄槌を地面に置くと、リルが咄嗟にレイナの身を庇う。
いきなり現れて尻を触ろうとしてきた少年にレイナは戸惑うが、彼の周りには女性冒険者が数人存在し、全員がリル達ほどではないが容姿が優れていた。レイナの尻を触れなかったかわりなのか少年は傍に存在した女性の尻を撫でまわし、改めてレイナに対して自己紹介を行う。
「悪いねお嬢ちゃん、美人が無防備にお尻を晒しているとどうしても手を出さずにはいられないんだ。俺の名前はゴイル、こう見えても嬢ちゃんよりもずっと年上だから出来ればゴイルさんと呼んでくれ」
「ゴイル、さん?」
「レイナ君、こいつにさん付けする必要はない。セクハラ魔で有名な冒険者だからな……この男は見た目は幼いが、実年齢は30才を超えるドワーフだ」
リルによるとゴイルは外見こそは幼いが、ドワーフの冒険者であるらしく、人間よりも優れた腕力と器用さを併せ持つゴイルは何十キロも存在しそうな鉄槌を軽々と持ち上げながらレイナに笑いかけた。
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