第9話 大迷宮とは?

「では、大迷宮の説明を行いましょう。キリサキ様は大迷宮がどのような場所だと思います?」

「え?えっと……迷宮みたいな場所ですか?そこに魔物とか、宝物とかあったり……」

「はい、確かに大迷宮の種類によっては迷路型も存在します。しかし、大迷宮には迷路型以外にも複数の種類があります」




――アリシア曰く、大迷宮と呼ばれる場所がこの世界には複数存在するらしく、主に魔物が生息し、一般人の立ち入りが禁止されている区域の事を指す。だが、大抵の大迷宮は迷路のように複雑な構造の建造物の内部に存在する事から大迷宮という通称が名付けられたという。


全ての大迷宮が人工物に存在するわけではなく、中には洞窟や地下に広がる種類の大迷宮も実在する。そしてヒトノ帝国の領地内には複数の大迷宮が存在し、アリシアが部隊を率いて向かおうとしているのはこの城内の地下に存在するという大迷宮らしい。




「この帝都の地下にも大迷宮が存在します。正確に言えば大迷宮が存在する場所にこの帝都が建てられたというべきでしょうか……」

「え!?大迷宮には魔物とかも出るんですよね!?それって危ないんじゃ……」

「いえ、大迷宮内の魔物が外界へ出現する事はありません。理屈は不明ですが、彼等は外界へ進出する事を本能的に拒み、強制的に大迷宮から連れ出された場合は絶命します」

「そうなんですか?でも、どうして地下に大迷宮が……」

「元々、大迷宮というのは初代勇者様が建造された建物らしいです。勿論、全ての大迷宮を初代勇者様が作り出したわけではありませんが、彼の残した伝承では後世の時代に召喚される勇者のために建設したそうです。大迷宮内には初代勇者が残した伝説の武器、防具、あるいは特別な道具が存在します。初代勇者はきっと後世の勇者が障害となる魔物を蹴散らし、大迷宮を攻略する事でそれらの道具を手に入れると信じて逝ったんでしょう」

「どうしてわざわざそんな事を……そんな危険な場所に残さずに武器や防具を保管すれば良かったのに」



最初に召喚された勇者が魔物が潜む危険な建物を作り出したという話にレアは疑問を抱き、どうして初代勇者がそのような事をしたのか分からずに質問する。


アリシアは初代勇者が後世に召喚される勇者のため、敢えて大迷宮という危険地帯に自分達の手に入れた強力な武器や防具を残したのではないかと語る。



「恐らく、勇者様は自身の武器や防具はあまりにも強大な力を持っているため、魔物と戦う事以外に利用されるのを恐れたのでしょう。仮に誰かに預けるとしても、その人間が勇者様の道具を悪用する可能性もあります。そうなれば大勢の命が奪われる事態に陥るかもしれません。だからこそ危険性が高い魔物が生息する大迷宮に封印を行い、後世の勇者ならばきっと自分達の大迷宮を攻略して自力で手に入れられると考えたのかもしれません」

「なるほど、悪用されないためか……確かに魔物が生息する危険な場所なら迂闊には入れませんよね」



アリシアの言葉にレアは納得し、同時に初代勇者が危険な魔物が生息する場所に封印を行った理由はもう一つあると考える。


初代勇者の大迷宮はゲームで例えるならば「ダンジョン」を意識して作り出されたように感じられ、ゲームならば主人公たちがダンジョン内の魔物を倒してレベルを上昇させ、宝箱から強力なアイテムを手に入れられる。


大迷宮内に初代勇者が自分達の作り出した強力な武器、防具、道具を封印したのはこの世界の人間に悪用されないため、そして大迷宮を利用して後世に召喚された勇者たちの育成の場を残したのではないかとレアは考えた。



(初代勇者は地球人だとしたらゲームの事も知っているかもしれない。けど、召喚された勇者は何時の時代の人間なんだ?)



この世界と地球の時間の流れがどのようになっているのかは分からないが、少なくとも初代勇者が神話の世界の名前の武器を作り出している辺り、同じ世界の人間が召喚されている事は間違いない。


その辺の話をアリシアから尋ねようとしたレアだが、彼女の方が先に自分の剣を取り出してレアに見せつける。



「見てください。この剣は「フラガラッハ」と呼ばれる我が帝国の帝族のみが所持を許される聖剣です。100年前に帝国の3代目皇帝であり、武帝と崇められたバルカン皇帝が大迷宮にて発見した代物です」

「ああ……初代勇者が遺した聖剣ですよね」

「……ご存じだったのですか?」

「え、いや……その、兵士の人に聞いて」

「なるほど、そういう事でしたか」



レアが自分の聖剣を知っていることにアリシアは驚くが、事前に解析の能力で聖剣の詳細を知っていたとは言えず、咄嗟にレアは嘘をついてしまう。


だが、冷静に考えれば別に自分の能力を隠す必要はないのではないかとレアは思ったが、アリシアは納得したように頷く。



「この聖剣は私が15才になった時に皇帝陛下から賜り、以来常日頃から身に着けるようにしています。この聖剣は凄まじい力を持っており、非力な私でさえも大迷宮の魔物を圧倒する力を手に入れる事が出来るんです」

「へえ……それは凄いですね」

「本来ならば初代勇者様の残した武器は勇者様に差しだすのが筋かもしれません。しかし、初代勇者様は勇者以外の存在であろうと大迷宮を攻略し、宝を得た者ならば何者であろうと宝の所有権は与えるという伝承も残しました。最も、この聖剣が勇者様に必要な時が訪れれば私は差しだす覚悟は出来ています」

「あ、そうなんですか……」



アリシアの実力は分からないが、聖剣フラガラッハは所有するだけで「攻撃力3倍増」更に「経験値増量」他にも「魔法耐性強化」や「自動修復機能」も搭載された正にチート級の能力を誇る剣であり、これを身に着けていればアリシアでも大迷宮の魔物を相手に圧倒出来るという。


ちなみにアリシアのレベルは幼少期の頃から魔物との戦闘経験を積んでおり、更に聖剣フラガラッハを受け取ってからは「経験値増量」の効果でみるみるレベルを上昇させているらしい。現在の彼女のレベルは「40」を超え、この数値はアリシアの年齢を考慮しても非常に高いらしい。



「キリサキ様も勇者である以上、きっと私よりも才能に満ち溢れているはずです。いずれ、貴方や他の勇者の方々を支えるために私も共に戦う日が訪れるでしょう。その日を楽しみに待っています」

「あはは……頑張ります」

「では、私はこれて……キリサキ様と話せて楽しかったです」

「え?」

「その……言いにくいのですが、キリサキ様は他の勇者の方々と違い、話しやすいと思ったんです」

「そうなんですか?」



レアはアリシアの言葉を聞いて驚き、不良の茂はともかく好青年の瞬やアリシアと年齢も近い雛よりも自分が話やすいという言葉に不思議に思うが、アリシアは言いにくそうに答える。



「その、他の勇者の方々と違い、キリサキ様の場合は何となくですが普通の人のように感じられたので……あ、すいません!!失礼しました!!」

「ああ、なるほど……いえ、気にしてません」



アリシアの「普通の人」という言葉にレアは納得し、確かに他の勇者と比べてレアのステータスに関しては一般人とさほど変わらず、下手をしたら低い。恐らく、アリシアは本能的に他の勇者たちと比べてレアが普通の人間に近い事を悟り、話しやすい相手だと判断したのだろう。


その後は二言三言ほど言葉を交わした後、アリシアは大迷宮へ向かう部隊を任せているので医療室を退室する。去り際に手を振ってくれた彼女にレアも手を振って見送ると、ダガンの稽古へ戻る事にした。



「よし、頑張るか」



アリシアが自分に対して期待しているという言葉を聞いてレアもやる気を抱き、ダガンが訓練を行っている裏庭へ戻ろうとする。だが、扉を開く寸前にレアはアリシアが見せてくれたフラガラッハの事を思い出し、何かが引っ掛かる。



(何だろう……何か、凄い事を思いつきそうなんだけど、どうにも出てこない)



フラガラッハの性能を思い返しながらレアは自分が何が気になるのかを考えるが、上手く思いつかない。しばらくは思い悩むが、結局は諦めてダガンの訓練へ戻った――

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る