第6話 大臣からの嫌がらせ
歓迎の宴を終えた後、勇者達は今後自分達が寝泊まりをする部屋に案内される。しかし、他の勇者が王城の二階に案内される中、レアだけは途中で別れて一階に存在する部屋に案内された。
部屋の中には個室ではあるが、元々は物置部屋ではないかという程に薄汚れており、窓の類も見つからず、最低限の生活が出来る家具しか用意されていなかった。
「何だよこれ……」
茶色に染まったベッドにレアは視線を向け、事前の皇帝の説明では勇者全員に個室が用意されており、世話役の使用人も用意するという話を聞いていたが、彼の場合は物置のような部屋に使用人の姿も見当たらない。
「くそっ……やっぱり大臣の頭をからかったのが不味かったか。迂闊だった」
自分の割り当てられた部屋にレアは先ほどの会場でウサンを辱めた事が原因だと判断し、恐らく彼の指示でレアが用意されていた部屋とは別の部屋に割り当てられたのだろう。
確かに先ほどの彼の対応は無礼と言われてもおかしくはない行動だったが、それでも先に仕掛けたのはウサンであり、逆上して殴りかかろうとした所を引き留めたのは皇女である。
しかし、文句を言おうにも時刻が既に夜中を迎えようとしており、仕方ないのでレアは今日だけはこの部屋で過ごし、明日の朝に皇帝に部屋の事を相談して別の部屋を割り当てて貰う事を決意してベッドに座り込む。ちなみにこの世界の1日は地球と同じく24時間、1年は365日だが、うるう年などは存在しないらしい。
ベッドの寝心地自体は意外と悪くはなく、臭いさえ多少我慢すれば眠れられそうなのでレアは明日に備えて休もうとした時、視界に画面が表示された。
『条件を満たしました。これより、文字変換の使用文字数がリセットされます』
「ん?なんだ?」
意識が失いかけた瞬間に表示された画面を見てレアは身体を起き上げると、最初に能力を発動させてから24時間も経過していないにも関わらず、文字変換の能力の使用文字数が「10文字」に戻っている事に気付く。
先ほどまでは確かに「9文字」と表示されていたがはずだが、ここでレアは文字変換の能力の使用条件の事を思い出す。
「あ、そういう事か!!1日というのは24時間の事じゃなくて、日付を現していたのか……だから今はもう使えるようになったのか!」
こちらの部屋には時計が存在しないので正確な時刻は分からないが、宴は大分長引いていたので現在の時刻が既に深夜12時を迎えたのは間違いなく、文字変換の能力の「1日に変換可能な文字数は10文字」という文章は日付を迎える度に文字数がリセットされる事が判明した。
ステータス画面を開いたついでにレアは宴の時にウサンに邪魔をされてある作業を中断した事を思い出し、画面上の「加護」の項目に表示されている条件を確認する。
―――――――――――
文字の加護
・文字変換――あらゆる文字を変換できる。1日に変換可能な文字数は10文字のみ、条件は以下の通り
1.対象が文章の場合、文章として成立させなければ文字の変換は不可能
2.文字の追加や削除は不可能
3.アラビア数字を他の文字や漢数字に変換する事も不可能
4.ステータスの改竄は出来ない
―――――――――――
条件として表示されている4つの文章を確認したレアは、最後の「ステータスの改竄は出来ない」という文章にだけ違和感を覚え、この4番目の条件だけが「不可能」ではなく「出来ない」と表現されている事に違和感を覚えた。
(転移される直前、確かに聞こえたあの声……一体誰なんだろう?)
レアはこの世界へ転移される直前、確かに自分が耳にした声を思い出す。レアの記憶が正しければ女性のような声音でこのように告げられた。
『面白い名前ですね。それなら能力もレアな奴を渡してあげますよ』
結局、あの声の主が何者かだったのかは分からない。だが、ステータス画面に表示された「加護」という文字にレアは気にかかり、もしかしたらあの声の主がこの「文字の加護」という能力を与えたのではないかと考える。
別に何か証拠があるわけでもないのだが、レアは何故か文字変換の能力の4番目の条件だけが何者かの意思でわざと「不可能」ではなく「出来ない」という文字で表示されているように思う。
「文章として成立して、文字の追加や削除しなければもしかしたら……」
震える指でレアはステータス画面の条件の項目に人差し指を近づけ、ある二文字だけを変換させる。その結果、指先に触れた画面上の文字が変更され、ステータス画面が更新された。
『4.ステータスの改竄は出来ます』
「えっ……成功した?」
レアは「出来ない」という文字を『出来ます』と変える事にで条件の変更に成功した。文章として成立しているのかどうかは怪しいが、文字変換が上手く発動したのは間違いなく、ステータス改竄の行えるようになったのは間違いない。
試しにレアはステータス画面を見直し、本当にステータスの改竄が行えるようになったのかを試すため、試しにSPの項目に視線を向ける。指先をSPの項目の数値に構え、数字を別の数字に変更を行う。
(アラビア数字の場合は他の数字じゃないと変換出来ないんだったよな。じゃあ、とりあえず9にしてみるか)
文字変換の能力を発動させてSPの数値を変化させようとすると、指先が光り輝き、無事に画面上の文字が「1」から「9」という文字に変更されていた。それを見たレアは自分の指先を確認して驚いた表情を浮かべ、同時に文字の加護の真の能力に気付く。
(そうか……文字変換の能力はステータス画面を改竄して能力を強化する事が出来るのか!!待てよ、それなら他の条件も上手く文字を変換させる事が出来るんじゃないか?)
文字変換の能力の使い方を理解したレアは興奮気味に今度は1日の文字数の制限を変更させようと指を伸ばした瞬間、何故か画面に触れた瞬間に指が弾かれてしまう。
痺れたような感覚が指先に広がり、何事かと視線を向けると、何時の間にか文字変換の能力の条件項目に追加がされていた。
―――――――――――
文字の加護
・文字変換――あらゆる文字を変換できる。1日に変換可能な文字数は10文字のみ、条件は以下の通り
1.対象が文章の場合、文章として成立させなければ文字の変換は不可能
2.文字の追加や削除は不可能
3.アラビア数字を他の文字や漢数字に変換する事も不可能
4.ステータスの改竄は出来ます
5.文字変換の能力に関する条件の変更は不可能
―――――――――――
先ほどまでには存在しなかったはずの5番目の条件が加えられており、しかもレアの心情を読み取ったかのように文字変換の能力に関する条件の変更は出来ない説明文がご丁寧に表示されていた。
それを見たレアは誰かに「これ以上のズルは駄目」と言われたような気分に陥り、溜息を吐きながらベッドに座り込む。
『文字数残数:7文字』
「……なるほど、この画面もすぐに消えるのは不正が出来ないためか」
視界に数秒ほど表示された本日の使用できる文字数の画面を見てレアは苦笑いを浮かべ、どうやらこの能力を授けた何者かはそれほど甘くはないらしく、残念ながらレアはこれ以上に文字変換に関する能力の改竄は不可能になった。
だが、他の項目の改竄に関しては特に制限は掛けられておらず、試しに画面に指が触れても弾かれる様子はない。
文字の加護を与えたのは何者なのかは分からないが、少なくともレアは神仏の類というよりは人間のような存在に近いように感じられ、そうでもなければレアの名前が珍しいからといって「文字の加護」という変わった能力を与えるはずがない。
そう考えたレアは自分が許された範囲内で能力を活用し、自分自身の強化や他の勇者のサポートを行う事を決意する。
(まずは徹底的に文字変換で出来る範囲の改竄を行うか。そういえば、この解析という能力も気になるな……)
レアは自分の画面に表示されている「解析」という能力を見て疑問を抱き、宴の時に遭遇したアリシア皇女の事を思い出す。
彼女に助けられたときにレアはアリシアが所持していた長剣の事が気にかかり、観察した時に表示された画面を思い出す。しばらく経過すると画面は消えてしまったが、あの時に唐突に現れた画面にはアリシアが所持していた長剣の詳細が記されていたように思えた。
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