予期せぬ出会い

 




 ザックから広げられた素材達を目の当たりにする私達。


 そこには、綺麗な黒く艶のある木と綺麗な赤色の粉塵が置いてあった。


 この素材は私もあまり見かけた事のない素材だ、それは、同じ錬金術師であるラデンもそうである。


 目を丸くして、それを凝視している私はザックにこう問いかける。



「これは?」

「こちらは、両方とも火山の付近で取れた素材ですね。

 溶岩付近で見つけたシイサキの木の木材と、セキテイオオトカゲの皮を擦り潰してできた赤い粉塵です」

「へぇ……。シイサキの木材にセキテイオオトカゲの皮の粉塵ね」



 私は興味深そうにその素材を手に取りながらザックの説明に頷く。


 セキテイオオトカゲの皮の用途は広く、防具や防火対策が必要な物品などに使われる事が多い、だが、それはあくまで皮の状態に意味があるからだ。


 また、保温性が高いのでコートや防寒具等の材料なんかにも皮が使われたりされている事も多い。


 しかしながら、今回はそのセキテイオオトカゲの皮が粉塵状にしてあるし、皮というよりは皮に含まれている何かが重要でこの状態にしてあるんだなと私は思った。


 すると、ザックは私達に捕捉するように説明をし始める。



「セキテイオオトカゲの皮の成分の中には熱を反射するという特殊な特性がありましてね。

 厚い布の内側に使えば熱を内側に反射して篭りやすくなるんじゃ無いかと思いまして」

「なるほどな、確かに」

「ただ、成分はちゃんと考えた方が良いと思います。

 熱が篭りすぎても中があまりに暑すぎて使えないなんて事があったら本末転倒ですからね」



 ザックは私に言い聞かせるように笑みを浮かべながらそう告げてくる。


 なるほど、だからわざわざ配分を調整できるように粉塵にして渡してくれたのか、確かにこれなら下手な量を使って作るよりも試作品を調整しやすいな。


 気遣いに感謝しかない、あと、もう一つの素材、シイサキの木についてだが、これについては、まあ、なんとなくわかる。


 シイサキの木は熱いところに主に生える木で熱さには滅法強い。


 溶岩が流れてきても、なかなか着火しない木としても有名な木だ、素材としても非常に優秀だが、難点としたら重量に対する耐久性が少し弱い事くらいだろう。



「シイサキの木を使うなら…他の素材を混ぜる必要があるな」

「ですね、すいません。耐熱で耐久性を求めるってなるとこちらしかなくて。

 ですが、これの場合は他の素材を混ぜ易いですし、耐久性を上げるのに適した素材も幾らでもウチにはあるんで、良ければそちらの素材も買われていきます?」

「いや、ウチにある素材で心当たりがあるのが一つだけあるから今回はそいつを混ぜてみようかなと思う」

「そうですか、やっぱりキネ姉さんは凄いですねー」



 ザックは顎に手を置いたまま淡々と告げる私に感心したように声を溢す。


 素材を工夫するところが錬金術師としての腕の見せ所だ。


 私の仕事の腕が問われるところであるのでどうせなら、あるものでどうにかしたい。


 とりあえず買う物を決めた私は、ラデンへ視線を向けるとザックから提示された素材についてこう告げる。



「とりあえずこれ、車に積もうか」

「そうですね、手伝います」



 ラデンはひとまず、私に言われた通りに素材を車にへと運び出す。


 とはいえ、そこまで大量にあるわけではないので、素材を車に積む事自体はあっさりと済んだ。


 とりあえず、これをとっとと家に持ち帰って、さっさと家具の試作品の開発に取りかからないとな。


 この先の季節にうってつけの家具だし、きっと需要もそれなりに高まってくる筈だ。


 商品化して、販売できるようになれば客足がもっと増えるに違いない、そうなれば、私の店の二店舗目を出せるようになるかも。


 そして、車に荷物を積み終え、購入した素材の会計を済ませて車に乗り込む私達に、ザックは笑顔を浮かべたまま店先から声をかけてくる。



「じゃあ、キネ姉さん! もし、家具が出来上がったら良ければ連絡ください!」

「あぁ、もちろんだよ」

「どんな家具が出来上がるか楽しみっすねー! あ、ラデンさんも! 良ければいつでも店に遊びに来てくださいね!」

「……いいんですか?」

「何言ってんですか! 大歓迎ですよっ! もうウチの大切なお客さんなんですから」



 そう告げるザックの言葉に少し驚いた表情を浮かべるラデン。


 だが、しばらくして、彼女はザックと同じように笑顔を浮かべると小さく頷いてそれに応える。


 ラデンも錬金術師だしね、もしかしたら、何か必要なものがいるようになるかもしれない、そんな時に行きつけの店が一つくらい共和国の中にあったらだいぶ助かるだろう。


 私は二人のやり取りを見て、内心、ホッとしていた。


 ザックも前は軍人であるしね、けど、打ち解けてるみたいだし本当に良かった。



「じゃあ私達はもう行くよ、商売頑張って」

「そちらこそ、完成を楽しみにしてますよ」



 私は、あぁ、と簡単な返事をザックに返すと車のキーを回してエンジンを付ける。


 そして、ザックの店を後にした私達は早速、私の店に帰って家具の試作品を作り上げる事にした。


 楽しみとか言われたら、職人としてこれに応えなきゃならないだろうと思うのが性というものだからね。




 ――――――――――




 車を走らせた私達は無事に店に帰って来た。


 店の様子は特段、変わりはない、普段通りにネロちゃん達が接客をしている。



「これは? 何という商品ですか?」

「こちらはライトデスクと言いまして…」

「ねぇ? この椅子はおいくらかしら?」

「はい! こちらはですね大体……」



 質問してくるお客さんに対して丁寧に家具について説明しているネロちゃんとケイ。


 ネロちゃんに関して言えば元々、自分で自作していた家具を現在、お客さんに対して説明している最中だ。


 あの娘が作る家具のデザインセンスは正直言って、かなり凄い、もしかしたら私よりもかなり上手かもしれないと何度も思ったくらいだ。


 そんな自分の商品を詳しく説明している姿はとても楽しそうにも見える。


 ケイに関しては元々、社交的なところがあるのでお客さんにかなり気に入られやすい事がプラスに働いている印象がある。


 まあ、それに、家具については一通り知識は二人とも身についてきてたみたいだからね。


 これなら、このまま二人に店の表側は任せておいても大丈夫そうだ。


 もちろん、二人に任せっきりじゃなくて後々、私も店に出るつもりだ。


 仕事に慣れてきたネロちゃんにももっと錬金術を使って家具を作って欲しいからね、もしかしたら、そのうちケイからも家具を作りたいとか言われてしまうかも?


 そう考えるとちょっとだけ嬉しい気持ちになってしまった。


 さほど、店を空ける時は気にするような事もないと思ってたけど、二人とも接客に関しては立派に成長してくれたものだと感心する。


 さて、私は私の仕事をしっかりしないとね。



「じゃあ、とりあえず私達は素材を店の中に入れようか」

「そうですね」



 私の言葉に笑顔を浮かべたまま頷くラデン。


 大した荷物でもないから早く店の工房に運んでしまった方が楽だろう、私とラデンはひとまず車から次々と荷物を店の奥へと運んでいく。


 そうして、ある程度、荷物を運び下ろし、店の中へと最後の荷物を私が運んでいるの最中の事だった。


 不意に私の耳元でどこか聞き覚えのある声が聞こえて来た。



「……あの」

「ん……?」



 私はふと、声を掛けられた方へと振り返り視線を向ける。


 ラデンは先に店に入り、店外には荷物を片手で持っている私しか居ない、となれば、必然的に声をかけられたのは私という事になる。


 こんな時に誰だろう? 別に接客はネロちゃん達に任せてるからそちらに声をかけてもらった方が早いんだけどな。


 そんな事を思い、振り返った私だったが、目の前に入ってきた思いもよらなかった人物の姿に目を見開く。


 透き通るような金髪の綺麗な髪に気品がありそうな立ち姿に綺麗な瑠璃色の瞳。


 それは、忘れたくても今でも忘れられない人物だった。


 私は震える声でゆっくりと目の前に立つ人物の名前を呼ぶ。



「シル……フィア……?」



 私の目の前に立っていたのは。


 女の身体にされ、右腕と左眼を失い、ボロボロになって戦場から帰ってきた私を拒絶し、別れを告げてきた元婚約者の姿であった。

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