別荘を作ろう。

 




 シドと協力してナーガの捕獲が終わってから数日後。


 私は別荘の建設に必要な『メモリア』の製造に追われていた。


 木造の建物、そして、アルバスさんが教えてくれた要望にできるだけ近いものを作るために私は現在、徹夜中だ、正確には二徹目に突入というべきだろうか。


 眼の下にはデカい隈が出来ている。同じ女性の方はそんなの美容の天敵もいいところだと止める方もいるかもしれない。


 だが、私はやめない、何故ならば、ある種のクリエイターだからだ。


 ふふ、もう手が震えてきて色々やばいけど、別荘のことを考えたら手が止まらなくて……誰か止めて。



「これをこうして……あぁ、違う、もっとリビングは広く作らないとダメだから」



 ブツブツ言いながら『メモリア』の弾を弄る私。


 側から見れば変態だろう、まあ、基本、男は変態というものだから何の問題もない。


 あ、私、今女だったな、でも痴女なんて言葉があるから何の問題もない、いや、問題ありまくりだな自分で痴女とか言ってたら我ながら頭おかしいと思う。



 そうして、私が無事に安眠できたのは三徹した後でした。


 フラフラと隈を作った私はそのままベットにダイブ、起きたらお風呂かシャワー浴びなきゃ。


 そこからは丸一日泥のように寝ていた、その間、お店は開けないから赤字です。


 だから人手が欲しいんだけどな、なかなか来てくれない、私泣きそう、なんだか将来のこと考えたら気分悪くなってきた。


 シドに手伝って欲しいけど、彼女も本業があるからそんなことはなかなか頼めませんからね。


 そんなこんなで必要な『メモリア』が出来上がったので、あとはこれを使って錬金術を使うだけだ。


 起きた私は控えている大仕事の前にお風呂に入って、身体の疲れを一旦取ることにした。


 三徹中はお風呂入れなかったから……。うん、汚いとか言わないで自覚あるのよ。



「あー……気持ちいい。疲れが取れりゅう……」



 ブクブクと湯船に沈む私、お風呂の文化は割とこの国では根付いているのが本当に素晴らしいと思うね、考えた人、天才かよ。


 身なりは清潔にしとかないと、私は落ち着かないタチでね、お風呂が大好きっていうのもあるんだけど。


 もっと東方の地方では、なんでも温泉旅館とかいう施設があるらしい、風呂の文化というのもそこが発祥なのだそうだ。


 私も行きたい、休暇でいくなら温泉が良いな。


 身体を泡立たせながらそんなことを考える。うん、私が店に1人だけいる内は多分、無理だろう、なんだか涙出てきそう。


 それから、身体を浴槽で清めた私はタオルで髪を拭きながら出る。


 最初は抵抗があった女物の下着も今では難なく着れるようになった。


 色気ある下着かどうかはそこは大目に見てくれ、というか、別に身につけたいとも思わないし、見せたい相手もいないから別に色気などは必要ない。


 風呂場から出た私は上下が薄色の水色の下着姿のまま、タオルを首から掛けて、歯磨きをしながらテレビをつける。


 最近、世の中の事についてはあまり情報を仕入れて無かったから、今のうちに見ておこう。



『次のニュースです、……帝国の南東の都市、ガラパで爆破テロが発生しました。犠牲者は今のところ26名ほどと見られており』

「爆破テロかぁ……。また錬金術師の仕業かな、物騒な」



 私は歯を磨いたままソファに座りながら、そう呟く。


 共和国と和平を結んだ帝国は今、不安定な状態にある。というのも、戦時中は推奨していた錬金術での人体実験や生物実験が戦争終了後、全面的に禁止にされたからだ。


 それに反発する一部の錬金術師が帝国政府に対して、こうして物騒な事件を起こしているのである。


 これらのテロリストの検挙や逮捕、鎮圧や無力化については共和国も帝国に協力することを表明し、両国が力を合わせて取り組んでいる事なのだが、まだ、解決までの道のりは遠い。


 私も一応、その人体実験の犠牲者ではあるので早く捕まえて欲しいと思うばかりである。


 まあ、私は今は「ビルディングコーディネイター」を仕事にしているただの一般人だから、なんにも出来ることはないのだけれど。



「さて、それじゃ準備して現場に行くかな……よいしょ」



 私はそう言うと、着替えをし始める。


 今日はジーンズにと白の長いシャツに赤のダウンジャケットで良いだろう。どうせ、現場につけば作業服に着替えなきゃいけないし。


 私はタバコを口に咥えて一服し、必要な『メモリア』を大きなバッグにあらかた詰め込むと家から出る。


 昼食は途中に行きつけのパン屋があるのでそこで買えば良いだろう。


 私はバッグを後ろに積むと、赤い車に乗り込み、エンジンをかける。


 それから、昼食を購入してそのまま現場へ。


 現場につくと、この間、シドと暴れた場所は元どおりにしてあった。


 多分、アーデ達が直してくれたのだろう、仕事が増えなくてよかった。


 現場に着いた私はひとまず作業服に着替えて、通気性が良いヘルメット、安全靴、『メモリア』を仕舞う為のポーチを身に付ける。


 後は、この間、下見はある程度済ましているので別荘を建てていくだけなんだが。



「まずは基礎部分からだな、取り敢えず、別荘の大きさに沿って錬成していくか」



 私はそう呟くと、『バレッタ』に弾丸を詰める。


 基礎とは建築物の重量を支え、安定させるために設ける建物の最下部の構造の事だ。


 家づくりの土台となる、とても重要な部分、基礎は建物のすべてを支える土台であり、その土台がしっかりしてこそ家が傾かず、丈夫で長持ちするのだ。


 なので、丈夫な家にするために私はこの基礎を作ることを決して疎かにはしない。


 皆には話してはなかったが、前回、ナーガを倒しに来た時に地盤の調査はある程度済ませている。


 軟弱な地盤があるところを錬金術で改良する必要があるのでまずは穴を掘るところからだろうな。


 私は設計図を見ながら『バレッタ』を地面に向けると引き金を引く。



「えっと……まずはここと、次はあそこか」



 まずは基礎が必要な箇所にこうして弾丸を撃ち込んでいく。


 すると、出現したのは地面に突き刺さる木の棒、それを基礎を作る場所を明確にするためにいくつも印を付ける。


 こうする事で建物の配置が分かるようにしているわけだ。


『地縄張り』という工程なのだが、私も建築について勉強するまではこんな風に作るとは思いもしなかった。今ではこうして慣れて出来るんだけどね。


 次に行うのは『根切り』という作業、土を掘り起こす作業なのだが、まあ、皆は知っての通り私は錬金術師だ。


 地面を掘り起こすなど造作もないわけで、また、地面に『メモリア』を撃ち込み、電動ドリルを錬成すれば一気に土を掘り起こす事が出来る。


 問題は掘り起こした土はどうするのか? という事だろうがこれも安心して欲しい。


 掘り起こした土は一ヶ所に集めると、私が徹夜で作った特殊な液体によってサイコロサイズにまで一気に圧縮してしまう。


 そして、不要な土を一気にきれいに片付けた後は『砕石敷き』に入るんだが。


 これは既に『メモリア』に記憶してあるので合成術を使って大体2、3分くらいで終わる。


 工事の際の合成術は、素材と設計図の記憶を込めた『メモリア』を用いる。こうする事で誤差は早々起きる事はない。


 起きた時は起きた時で対応もできる、これは経験だが、慣れればそんなに問題はない。


『防湿シート敷き』を行い、それから、いろんな工程をかけて基礎作りを行なっていく。


 まあ、後半は大まかにすっ飛ばしだが大体こんな感じだ。



「ふぅ……やっぱり1人だといろいろ大変だな、せめて後、4人いれば楽なんだけど」



 私は昼食を取りながらコーヒーを啜り1人呟く。


 土木作業をするガテン系女子錬金術師、何というかそんな物好きな女の子ってなかなかいないものだ。


 なんだったら私の錬金術なら手取り足取り教えるし、新しい『バレッタ』や『メモリア』だって作ることはできる。誰かいい人が来てくれないものか。


 そんなことを考え、コーヒーを飲みながらほのぼのと川を見つめていると背後から車のクラクションの音が鳴り、声を掛けられた。



「おー! 早速作ってんなー、差し入れ持ってきたぞー!」

「あ、シドじゃない。……貴女、仕事は?」

「今日は非番だ、この間、臨時収入入ったからな」



 そう言いながら、上機嫌に私の隣にやってくるシドは私にある物を手渡してきた。


 それは、ケーキ、しかも、街で人気のスイーツ店のケーキである。この身体になってからというもの、私は甘いものに目がなくなっていた。


 そんな中、なかなか並んでも買えないスイーツ店のケーキをシドは持って来てくれたのである。私のテンションは爆上がりだ。



「あの店のショートケーキ!? ずっと食べたかったんだぁ! うわぁ……ありがとう!」

「この間、部屋掃除してくれた礼だよ」



 そう言いながら、私はショートケーキを取り出すと早速食べる。


 昼食後にすぐ甘いものを食べると太るぞ、と言われるかもしれないがケーキは別腹だ。女の子にはお腹は二つあるのだ。どうせカロリーはこの後消費するし、プラマイゼロである。


 そして、自慢ではないが私は太りにくい身体なのでね、身体も鍛えてるからなんの問題もない。


 満足そうにケーキを頬張る私を見ながら嬉しそうに笑みを溢しているシド。


 シドは基礎作りの途中の別荘の予定地を見つめながら私にこう問いかける。



「この別荘、あとどんくらいでできるんだ?」

「そうだなぁ、大体、一ヶ月くらいかな? 私以外に人手がいればその半分くらいで終わるかも」



 そう言って、ため息を吐く私。


 それもインテリアを売ってるお店を半日開けて午後から仕事って具合になるのだけれど、もう1人いればもうちょっと早めに終わる事が出来るかもしれない。


 まあ、無いものを強請ったところでどうしようもないので現状で頑張るしか無いんだけども。



「そっか、大変だな……」

「でも、楽しいから良いんだけどね。……前よりは」



 私はそう言って、シドに微笑みかける。


 こうして、人の為に役立つ事に錬金術を使えてることがとても誇らしいし、何より楽しい、仕事はやっぱり楽しいのが大切だと思う。


 もちろん、お金も大切なんだけどね。


 軍にいた時はいろいろありすぎたから、やはり、私は今の生活が1番気に入っているのだ。



「さてと、それじゃ仕事に戻ろうかな、ケーキありがとね」

「おう、また、なんかあれば呼べよ」

「うん、ありがと」



 私はそう言って、休憩を終えて仕事に戻る中、車に乗り込むシドに片手を上げてお礼を述べる。


 さてと、ここからまたいろいろと手を加えなきゃな。


 私は錬金術を扱いながら、別荘の基礎を丁寧に工程を守りつつ作っていく。


 まあ、当然ながら泥だらけになるのだが、土木の仕事をしている以上は仕方がない、こういうものだ。


 販売するインテリアも作らなきゃいけないし、家も作らなきゃいけない。


 両方やらなくっちゃあならないってのが「ビルディングコーディネイター」のつらいところだな。別に両方とも楽しいから良いんだけどね。


 それから大体、日が落ちつつあるくらいだっただろうか。


 別荘の基礎作りはあらかた完成する事ができた。


 とはいえ、まだ、いろいろと修正する箇所はあるんだけど、初日にしては上々だろう。



「うーん! 頑張った! 家帰ったらお風呂入ろう!」



 あと、明日から別荘に飾り付けるインテリア作りを始めようかな。


 まだ期間的にもかなり余裕はあるし、少し骨休めもしないとね、午後から服を買いに行くのも良いかもしれない。


 変な仕事が増えなきゃ、シドに話した通りの期間でくらいで家は作れる筈だ。


 また、ナーガとか出てきたら話は別だけどね、あと、災害とか。


 川が近いからそこが心配ではある。それをモロに受けたら今日作った基礎が全部おじゃんだ。


 今は冬だし、そんな事もないだろうけどね。


 一仕事を終えて、懐からタバコを取り出すと一服する。なんだろうね、まだ別荘完成してないけど、謎のやり遂げた感がある。


 私はそのまま車に乗り込むと現場から立ち去っていく。


 また、現場に来たら基礎に手を加えて家を作っていく事になるんだろうけど気長に作ろうと思う。



 しばらく車を走らせると、仕事終わりの私を出迎えるように光る街の街頭が目に入ってくるのだった。


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