それでも魔女は毒を飲む

タニオカ

庭師と魔女の出会い


初めて僕が彼女を目にした時の印象は

簡単に手折る事ができる弱々しく可憐な花

というものだった。


華奢な身体、青白い肌、綺麗に波打った金髪、庭に咲いている花に笑いかける可憐な笑顔、春の日差しを受けて輝く瞳。


ふわりと白いワンピースを揺らしながらこの2日間で僕が手入れをした庭を散歩している姿はどこか現実離れしたような印象を与えた。


「珍しく魔女が外に出てるじゃないか」

「不吉な事だ。あまり見ないほうがいい」


僕と同じくこの屋敷の手入れのために雇われた庭師達が眉の顰めながら、彼女のいる庭から離れていった。


僕も彼らに続こうと思ったが、どうしても彼女から目を離す事が出来なかった。

そんな僕に気がついた彼女が、辺りをきょろきょろと見渡してからちょいちょいと手招きをしてきた。僕はその手に操られるようにしながら、いつの間にやら歩みを進めていた。


間近で見てもやはり彼女は美しかった。

「ごきげんよう。あなたのおかげでこの庭はとても綺麗になったわ。ありがとう」

「…あ、いえ。仕事ですから」

「そう仰らずに…。本当に見違えたわ」


うっとりとした表情ですぐ側に咲いた赤い薔薇の花をそっと撫でながらそう言った。


「どなたも、私の…魔女の庭なんか丁寧に扱って下さらなかったもの」

本当にありがとうとお礼を言う彼女はとても悲しげで。


「い、いつでも呼んでください。僕があなたの庭をいつも綺麗にしてみせますから!」

僕はどうにかして彼女を励ましたくて気がついたら大声を出していた。


彼女は初めのうちは面食らっていたが次第に笑い始めた。僕も自分の行為に驚いてつい笑ってしまった。


2人して一頻り笑った後に彼女は、涙をぬぐいながら

「お願いするわね」と言った。


それが僕と彼女の出会いだった。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る