第23話 めぐ、占いの館へ
通さんは「占いの館」へ行き恋愛について話を聞き、占い師に本当は私の事が好きなのだと言われたと言っていた。自分の気持ちに気付かなかっただけだと。私も占ってもらったら自分の本心がわかるだろうか。でも、自分の本心を占いで知るなんて変な話だ。通さんはどんな思考をしているんだろう。私も試しにそこへ行って占ってもらおうか。駅の近く、裏通りにあるということだけど探してみようか。信じるか信じないかは自由だし。
私は仕事が終わってから目的の場所を探して歩いた。帰宅時間は六時ごろになり、かなり以前よりは早く帰れるようになった。これは通さんが引き抜いてくれたお陰だ。路地はいくつかあり、いかがわしいホテルや男性客を相手にするクラブなどが軒を並べていた。女性一人で歩くには勇気がいるし、場違いな気がする。本当に「占いの館」があるのだろうか。
そんな通りの奥を覗いてみると、小さな看板が掛けられた古めかしい店が見えた。狭い路地を歩き、店の前にたどり着いた。看板の下には小さなドアがあった。
ドアに手を伸ばし、そっと開けて中を覗いた。薄明るい店内の奥に女性が一人座っていた。水晶玉を前に紫色のベールをかぶっている。神秘的な雰囲気を醸し出していた。
「いらっしゃい。こちらへどうぞ」
「あ、あのう」
「占って差し上げます。迷わなくても大丈夫よ」
「は、はい……」
私は一歩一歩先へ進み、女性の前に立った。
「迷っていらっしゃるのね。怖がることはないわ。信じるか信じないかはあなた次第」
「そ、そうですね」
占い師は、迷っている様子を察知し、安心させるようそう言ったのだろう。私は水晶玉の前に座った。
「リラックスしてくださいね。緊張していると心にバリアを張ってしまいますので、見えないんですよ」
「はい」
私はふーっと深呼吸をし、肩の力を抜いた。
「何を占って差し上げましょう」
「どんなことを占っていただけるんですか」
「運勢全般、恋愛、仕事、どんなことでもよろしいですよ」
「では、恋愛と仕事でお願いします」
「お二つですね。恋愛というとどなたか思い浮かべる方がいらっしゃるの。それともこれからの出会いかしら?」
「考えている人がいるので、その人と今後どうなるのか、自分はどうしたらいいのか知りたいです。仕事もその人絡みなので、ついでにお願いします」
「その方との出会いはいつですか?」
「三か月ほど前です」
「その方はあなたにとってどのような立場にあるの?」
「以前は部下でしたが、今は上司です」
「一番の悩みどころは何ですか?」
「その人に愛猫の魂が乗り移ってしまって私にデレデレしていたのだと思っていたら、その人自身も私の事が好きだというのです。いつからそうなってしまったのかと訊くと、かなり早い段階からだと。私にとって、彼の第一印象はイケメンで自意識過剰で、かなり格好つけて、内心嫌な奴だなと最初は思っていました。愛猫が憑りついたのがわかりデレデレし始めたので、仕方なく自分の生活範囲に入れてあげていたんです。そして次第に愛猫だか本当の彼なのだかわからなくなってきていた矢先に、告白されてしまって……」
いきさつを話しだしたら、結局事の成り行きをすべて話してしまっていた。占いというよりは人生相談の域だろう。人生経験豊富そうなこの人の年齢が自分にそこまで話させてしまったようだ。
「では、目を閉じてください。そして手をそっとこちらへ置いてください」
「はい」
私は両手を出して彼女に見せた。そして目を静かに閉じた。
「もう目を開けてよろしいですよ」
「はい」
私は彼女の言葉を待った。彼女は水晶玉に手をかざし、その周りに手をかざし動かした。何回かそんな動作を繰り返し、両手がぴたりと止まった。
彼女は私の目をまっすぐと見据えて言った。
「あなたは迷っているわけではないようです。あなたの心はその方に傾いています。愛猫が乗り移って猫の様に甘えられている時から、あなたはちっともその人にいられることが不快ではなかった。それどころか、その状況を楽しんでいたのです。それは最初からその方を受け入れていたということ。あなた自身もその方を好きだということに気付かなかったのです。今は混乱しているようですが、冷静にその方の真実の姿を見てください。あなたはどんどんその方に引かれていくでしょう」
あなた自身も! ということはやはり彼も同じ気持ちだった! この占い師私の事を通さんの相手だと気がついたんだわ! 私が話しすぎたせい……。
「では、私はその人と相思相愛……ということですか? それから仕事もそのまま続けるべきなのですね?」
「事はそう簡単ではありません」
「というと、何か障害があるのですか?」
「ええ、何かが邪魔をしています……これから、それが現れるでしょう」
「それは?」
「はっきりとはわかりません。でもお気を付けください。彼の事が好きなのでしたら、障害を降り超えることです。仕事もその先に光が見えるでしょう」
ああ、もどかしい。そこまでわかったのに、一つ課題が与えられてしまった。
「では、占いはこれで終わりです」
「あっ、ありがとうございました。お代は?」
「三千円頂きます」
私は、三千円を財布から取り出し「占いの館」を後にした。結論はうまくいくようでいかないんだ。その時は、やっぱり私の気持ち次第って事。それはそうだ。占い師だって本当のところはわからないんだもの。わたしは、少しだけからりとした気持ちで家路を急いだ。
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