第79話「サイカの説得」

「サイカ、出来るなら、僕はキミの意思を尊重したいと思っています」


 ロメロはサイカと2人になると、そう切り出した。


「あなたのおかげで僕は四天王にまで登りつめることが出来たと言っても過言ではないですし、強さを手に入れるという僕の目的も果たされました。また、骸骨巨人と骸骨装備のおかげで、今、あなたが抜けても、それなりの戦力は有するでしょう。ですが――」


 ロメロは一度イチコの方を向いてから、話に戻る。


「先ほどのイチコさんのスキルを見たでしょう。あれは魔王様と同じスキルです。そんなスキルを持つイチコさんをそのままにしておくのは危険です。今回のように悪用しようとするものが知ったら、僕だけの戦力では敵わないかもしれない。だから、もう少しだけ、イチコさんの安全が確保されるまで僕を手伝ってくれませんか?」


『いやいや、戦力なら、ロメロの旦那だけで充分過ぎるだろ。俺が居た方が楽かもしれないが、勝敗という意味なら大差ないさ』


常人にはカタカタとしか聞こえないが、ロメロにはサイカが何を言っているのか全て聞き取れる。


「いや、ですが、あなたとセシリーさんが居れば、墓地に監視しに行くのも容易になるでしょう?」


 その言葉を聞いた骸骨兵士のサイカは深いため息と共に、がっくりと肩を落とした。


『あのよぉ、ロメロの旦那。あんた、俺の想像以上にヘタレで奥手だな』


 サイカはイチコの方を手で指し示す。


『まずは、旦那が、イチコを好きだって気持ちを自覚するべきだと俺は思うぜ』


「はい? 僕がイチコさんを好きですって?」


『ああ、そうだよ。さっきのセリフも俺を戦力というより、イチコと会う口実に使いたいって魂胆が見え見えだしな。いつもの旦那なら、監視対象がいれば、近くの死体でも使って適当に監視するはずだし、わざわざ自分の足や俺をわずらわせないはずだからな』


「いえ、それとは話が別でしょう? 取るに足りない監視対象と、イチコさんみたいな最強スキルを持つ相手の監視じゃ重要度が違うのは当然です」


『ここまで言ってまだ言うか。そもそも、このスキルを見る前から足しげく通ってたじゃねぇか! それだって墓地なんだから他に監視する手段は腐る程あったはずだぜ』


「それは、あなたがセシリーさんに逢いたいかと思って……」


『俺は一度も頼んでいない!』


「うぐっ!」


 言葉に詰まるロメロを前にサイカはさらに言葉を続ける。


『確かに、忌み嫌われる死霊術師で、エルフの中ではブサイクだもんなロメロの旦那は。まぁ、普通の人間なら上の下くらいなんだろうけど。そんで今まで言い寄って来てくれた女なんかいなかったから困惑するのも戸惑うのも分かるが、いい加減自分の気持ちに正直になろうや。俺はそれでセシリーと付き合えた』


「ま、まぁ、では、仮に、仮にですよ。僕がイチコさんを好きだったとしましょう。で、この僕が好きな相手と上手く過ごせると思いますか? 同時に監視し、悪用されないように守れると思いますか?」


『おっと、そう来るか。確かにいままで女っ気のなかっただけに説得力がすごいな。全く、女関係に関しちゃ、俺の圧勝だな。しかも、予想のはるか下って思うほどの雑魚さだぞ、ロメロの旦那よぉ』


 再びサイカはため息と共に、肩を落とした。


『ちょっと、セシリーに聞いてくるわ。あいつがOKなら、まだ居てやるよ。というか俺が色々助けねぇとマジでヤバそうだしな。まったく……』


 サイカは項垂れながら、セシリーの元へとトボトボと向かっていった。

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