第77話「2人の相談」

 サイカはセシリーをしっかりと抱きしめてから、しばらくすると、体を離した。


「カタカタ……」


 何かを喋ろうと口を動かすが、聞こえるのは歯が当る音だけだった。

 意思疎通のできるロメロは言葉を通訳しようと口を開きかけたが――。


「またそんなこと言ってっ!! 骨なのに良いかって、それなら私はレイスですし、そもそも、サイカの事は顔で好きになった訳じゃないのよっ! 元の顔の良さだけで言えば、ロメロ様の方が10倍は良いし、サイカなんて中の下くらいよ。そりゃ戦っているときはカッコイイけど。とにかく、私は顔とか、骨とかそんな事を気にするように見えるっ?」


 言葉を理解してくるセシリーに驚きを隠せないでいると、


「私のスキル、テレパシーがあれば、あなたの考えていることくらい容易にわかります! というかサイカの考えくらいスキル使わなくても簡単に分かるわよ」


 歴戦の戦士であっても、彼女には弱いのか、うろたえるサイカは、再び助けを求めるようにロメロの方を見る。


「あ~……、とりあえず、僕らはお邪魔みたいなので、イチコさん、先に戻っていましょうか」


 ロメロはサイカを見捨てた。


 珍しく、イチコはロメロからの言葉を受けても不機嫌そうな顔をし、頬を膨らませていた。


「アタシ、どうしても納得できないのよね。これって、どう見てもセシリーがヒロインじゃない! 異世界に来てまでヒロインになれないとかどういうことよっ! この物語はアタシが主人公じゃないの?」


 愚痴を垂れ流すイチコを見て、ロメロはふっと笑みを浮かべた。


「そうですね。ヒロインじゃなかったかもしれませんね。でもセシリーにとってもサイカにとってもイチコさんはヒーローだったはずですよ」


 いつの間にか、セシリーとサイカもその言葉を聞いており、2人仲良く、頷く。


「そうですよ。イチコさんがいなければサイカとこうして逢えることはなかったと思います。ありがとうヒーロー」


「ま、まぁ、今回はそういうことにしておいてあげるわ!」


 感謝されなれていないイチコは露骨に顔を緩めながら、言葉だけはツンケンしていた。


 サイカは一歩前へ出ると、イチコの前で膝まずき、最敬礼でもって礼を尽くす。

 そして、立ち上がると、今度はロメロへと向かい、じっと目を見つめると、カタカタと何かを喋る。


「……サイカの意思は尊重したいのですが」


 ロメロは困った風に頬を掻く。


「ロメロ様、なんて言っているんですか?」


 ロメロはイチコに、サイカの言葉を伝えた。


「こうして、セシリーと再びお互い会え、2人とも未練はないから、成仏してもいいかって」


 イチコは数秒考えると、「いやっ、ダメでしょ!」と大声を上げた。


「えっと、ロメロ様、すこ~し、セシリーと話しをさせてもらっていいですか?」


「ええ、僕もちょうどサイカと話したいと思っていました」


 様々な思いが錯綜する中、ロメロとイチコは2人を引き留めるという本日最後の勝負に立ち向かうこととなった。



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