第70話「サイカVSシルバーリッター その3」

「いやーーーーーっ!!」


 イチコの叫び声が響き渡る。

 ロメロの姿に今すぐにでも駆け寄りたいと思っていると、ロメロはイチコを制止するように手を挙げた。


「大丈夫です。なんとか骸骨装備エンドスケルトンが防いでくれました」


 しかし、胸には赤い染みが広がり、吐血も見られ、痛々しい姿になっていた。

 よろよろとした足取りで、シルバーリッターから距離を取ると、そこで膝を付いた。


「ふむ、さすがに四天王を名乗るだけはありますな。今の攻撃を防ぐとは、しかし、その状態ではもう何もできないでしょう!」


 ロメロの首筋に向かって、手刀を振り下ろす。

 

 ガキンッ!


 鈍い金属音が響くと、その手刀はロングソードによって受け止められていた。


「不死だかなんだか、知らぬが、しつこいぞっ!」


 方向を変えた攻撃は骸骨兵士スケルトンサイカを三度粉砕する。

 

 カタカタカタカタ……。


 すぐに骨は組みあがり、サイカは起き上がると、ないはずの目から涙が零れる。

 ぐっと、剣のグリップを握る手に力が入る。


「やめろっ! サイカっ!!」


 サイカはシルバーリッターの首目掛け、剣を振るった。


「ぬぅうっ!」


 閃光のごとき速度で放たれた一撃はシルバーリッターの首を捉えた。

 普通の相手ならば、致死性の攻撃だったが……。


「今のは、完全にワタシを殺しにきた一撃だった。危なかったあと少し、本当にあと少し身を逸らすのが遅ければ、ワタシの首は地面へと転がっていたところだった」


 サイカはロメロとセシリーの命を天秤にかけ、そして、ロメロを取った。

 その決断は容易なものではなく、究極の選択だったのだろう。

 それは、本来ありえない涙を流すまでに。


 サイカは尚も涙を流しながら、シルバーリッターへと向かう。


 腕を砕かれようとも、頭を割られようとも、胴体を穿たれようとも、サイカの足は止まることなく、シルバーリッターの命を狙い続けた。


「雑魚ではないのは認めるが、いくら、このレイスを見捨てる覚悟をしたところで、ワタシの魔道具の力の前には無駄なのだよっ!!」


 サイカは人間であれば死んでいる攻撃を、すでに10を有に超えるほど受けていた。

 しかし、それでも決して崩れることのない相手に、シルバーリッターは苛立ち始めた。


「この凡骨がっ!! さっさと消え去れっ!!」


 大振りの攻撃、それはヴァンパイアの心臓を貫く最大の好機であった。

 サイカは目を光らせ、剣を構える。

 そして、突き刺そうと腕を伸ばした。


 ザクッ!


 しかし、その一撃はシルバーリッターの心臓を貫くことはなく、代わりに――。


「だ、ダメですよ。サイカ。こいつを殺しては……。セシリーさんは、僕がなんとかしますから……。あなたは、あなたの大切な者を諦めちゃあいけない」


 貫いたのはロメロの腹部。

 そして、シルバーリッターの拳も、ロメロへと襲い掛かる。


 頭部を確実に捉えたと思った、その手はギリギリでピタリと止まる。


「なんだ? 何が起きた? 腕が、ワタシの腕が動かんっ!」


 シルバーリッターの手加減という訳ではなく、ロメロは九死に一生を得た。


――イチコさん。……イチコさん。


 そのとき、いつの間にか録音に入り込んだような囁き声がイチコへと届いた。

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