第270話 勝利へ進め一直線!
「行くわよパトリック!」
「いつでもオーケーさ!」
「「超剣術合体〈グレートブレイズホーク
完成したのは合体形態中最速のスピードを誇る白銀の女騎士姿。その
「頼むわよ……! ライナスの予想が当たっていますよーに!」
「おや、レイナは信じていないのかい?」
「信じているわよ、当たり前じゃない! そういうパトリックはどうなの?」
「あのインドアライナスがあそこまで言い切ったんだ。もちろん信じるさ」
ライナスは私たちの中で一番優れた感性を持っている。それは彼の芸術家としてのセンスでもあるし、持って生まれた優しさかもしれないわね。だから私たちは信じる。ほんの少しの可能性でもかけてみる。それが信頼。それが友情。それが愛情よ。
「レイナ、強化はバッチリだ! 光の速さで戦場を駆けるよ!」
まずは作戦の一手目。私とパトリックが合体し、〈インペラートルリオート〉の足元をかき乱す。
「凍りつきなさい、《絶対凍結》!」
「「《
大地からウネウネ生えてくる氷の腕を、片っ端から叩き斬る。こんな攻撃、私とパトリックの前には無駄よ! しびれを切らした女帝が次にとる手は――、
「煩わしい羽虫です。《豪雪――」
――早すぎる私たちを捉えようとするのはやめ、あたり一帯ごと吹き飛ばすことだ。左手に持つ宝珠が眩く輝き始める。
「アリシア!」
「任せてください、レイナ様!」
飛び出たアリシアの〈ミラージュレイヴンV〉が、新装備のバインダーを展開する。――〈リューヌリュミエール〉。さっきざっと説明を受けたアスレス語で”月の輝き”を意味する名の装備は、アリシアの闇魔法を広域あるいは収束して放つことができるそうだ。
アスレス王国が極秘裏に試験していた開発途中のものが反乱によって流れて、サンドバル家が回収し完成させたらしい。事後承諾になったけれど、アスレス王家の承認も得ている。
「《魔力奪取》!」
新たにアリシアが得た力――《魔力奪取》が炸裂する。これは対象の魔力を奪う魔法で、LLユニットの力により奪った魔力をプールし使うことができらしいわ。そして今狙ったのは宝玉に集中する魔力! アリシアの魔法によって、発生しつつあった強大な吹雪の渦の中に一筋の道ができる。
「行けるわ! パトリック!」
「了解、分離!」
「ライナス!」
「ああ、オレの所へ来いレイナ!」
「「超芸術合体〈グレートブレイズホーク
作戦は順調と判断した私は即座に分離、今度はライナスと合体する。合体形態中もっとも強靭で、その怪獣みたいな見た目に反して器用な機体だ。
「見えたわよ! 勝利へ続く一直線!」
攻撃準備。狙いはアリシアに魔力を吸われて隙のできた、宝珠そのものよ!
「「《
私の魔力を使ってライナスによって造形された巨大な炎色の拳が、一直線に宝珠目掛けて突き進む。そしてその一撃はオーロラの様なバリアに阻まれることなく――、
「やった! ライナス、あなたの予想通りだわ! 宝珠を壊せた!」
――パリ―ンと宝珠は粉々に砕け散った。
「やはりな。女帝を護るあのオーラは美意識の表れ、つまり自身が永遠に不変不滅の存在だと信じているからこその魔法。だから本体ではなくその装具までは護られない!」
――ライナスが語った「
女帝は魔力サーバーから受けた膨大な魔力を、氷の巨体にまとうことで保持している。というのがルークとエイミーによる科学的魔術的見解の一致だった。
そしてライナスの考察曰く、美魔女皇帝ことレオーノヴァは自分を不滅の存在だと信じている。そう思い込んでいるし、自分が傷つくのはあり得ないと思っている。それが彼女の美意識。それこそがこの絶対防御の正体。そうであると信じるという原初の魔法。
だから防御魔法として放つまでもなく、効かないのが当たり前。下々の様にバタバタと防御魔法を唱えるのもその美意識に反する。その絶対的な自信は、羽織ったオーロラのマントを通して全身を護るオーラと化す。つまりあれは《
敵を狙うのなら急所や関節、そしてそれは人の形を模した魔導機でもそう。特殊な戦法でもない限り、ドカッと構えている巨体を無視して武器や装備に攻撃する人はいない。その常識が仇となっていたわ。
だけどこのバリアが女帝の美意識からきていると感じたライナスの意見を聞いたディランは、この作戦を即座にまとめ上げてくれた。彼らの予想通り、《美魔女オーラ》は彼女が不変不滅と信じている自分自身以外を護らない!
「オーッホッホッホ! 《美魔女オーラ》破れたり!」
「何を……! たかだか装備一つを壊したくらいで!」
「くるわライナス、分離を!」
「後は任せたぞ!」
迫る女帝の猛攻を分離して回避。私は作戦を次の段階へと進める。
「次、行くわよルーク!」
「言われるまでもねえ!」
「「超魔導合体〈グレートブレイズホーク
完成するのは青と赤、二色に彩られた最強の魔法使い。その魔力の奔流は
「レイナ・レンドーン! 我が永遠の礎に……!」
「誰があんたの健康食品になるものですか!」
「「《
連打連打連打ァ! 炎と氷、私とルーク。競い高めあってきた二人の魔法使いによる際限の無い魔法の連打をお見舞いする。
知ってる? あのモンスター捕まえゲーム、捕獲する時に連打しても意味ないんだって。いや、誰だって連打するでしょあれ。私のダブルスクリーンなゲーム機のボタンへこんだわよ!? そしてキッズの時の私もへこんだ……。
「そんなもの効きは――」
「それはどうかしらね!」
「何ッ……!?」
「宝珠が壊されたあんたは、間違いなく動揺している。自分が不変不滅の存在だということに、自分で疑問を抱き始めている。ほうら、右手の王笏もそろそろ危ないのではなくて?」
「……ッ!」
「くっ……ううっ……! 申し訳ありません、我が神よ! お助けください!」
「「「まったく、世話の焼ける」」」
女帝リュドミーラの助けに応じて、ハインリッヒ軍団がこちらに向かってくる。わらわらと戦場から親衛隊機の〈ドラグツェン〉が結集する。だけどこれも想定通り――。
「アリシア!」
「準備万端です!」
この盤面を構築した目的は、散っているハインリッヒ軍団をなるべく集めること。そして奴らの向かう先には、〈リューヌリュミエール〉ユニットを展開したアリシアがいる。付け加えて言えば、LLユニットにはさっき女帝から奪った膨大な魔力がプールしてある。
「「「――まさか!?」」」
「もう一度くらいなら! 範囲極大! 神級魔法《厭離穢魂》! 浄化!」
「「「ぐわあああああっ!?」」」
夜明けを迎えつつある戦場で、一瞬月の輝きが増した気がした。その次の瞬間、力を失った親衛隊機の〈ドラグツェン〉が力を失って次々に地に墜ちた。
「ああっ、我が神……!」
「あんたももう終わりですわよ! 《獄炎火球》アーンドッ!」
「真の氷魔法の使い手、“氷の貴公子”様を舐めるなよ! 《氷刃氷嵐》!」
高熱のビームと化した私の魔法、そしてルークの怒りが形となったような鋭い氷の刃が王冠へと吸い込まれるように飛んでいき、ついには破壊する。
「ああ、魔力が!」
破壊したと同時に〈インペラートルリオート〉の巨大な氷の身体が崩れていく。読み通りあれが魔力受信のアンテナ!
「中から普通サイズの魔導機が……! あれが本体!?」
「みてえだな。最後までバシッと決めてくれ、分離!」
いくらルークと言えども、この規模で魔法を放つと限界が来るわ。それはパトリック、ライナスもそう。つまりこれは全合体作戦という名の私酷使作戦。仕方ないわね!
「というわけでディラン!」
「どういうわけかわかりませんが、行きましょう!」
「「超王道合体〈グレートブレイズホーク
完成するのは半人半馬のような姿。戦場に立ち矜持と
「私は……こんなところで……! 《氷弾》!」
逃げる女帝から無数の《氷弾》が飛んでくる。追尾も効いているみたいですし、腐ってもそれなり以上の使い手なのね。でも――!
「《
雷の弓を構え、射る。すると無数の稲妻が矢のように空を奔り、氷弾を一つ残らず破壊する。
「女帝レオーノヴァ! 王を名乗るのならしかるべき敗者の在り方というものがあるでしょう!」
「うるさいですわよ青二才がッ! 私は永遠、私は絶対!」
もはや錯乱しているわね。私と会っていた時に感じた余裕は、ハインリッヒという偽りの神に全ての判断を任せていたゆえの余裕。つまり自分では何も考えていない人形だったわけだ。だから依存や崇拝は脆いのよ。
「レイナ・レンドーン、女としてあなたならわかるでしょう? 永遠の若さ、永久の美しさを手に入れたという願望が! い、今からでも遅くはないわ、私に協力すれば――」
「悪いですけれど、ちーっともわかりませんわ」
「……何ですって!?」
「まったく共感できないって言ったのよ。ありきたりだけれどね、年をとるって素敵な事よ? 年をとったらその年相応の楽しみを見つけなさいな」
前世では年もとらずに死んでしまった。この世界だとたっぷり長生きしたいわ。子や孫に囲まれて、王国料理界の重鎮として君臨するの。おもしろおばちゃんとして普通に長生きするんだから!
「楽しい青春が儚く終わってしまうより、永遠に続いてほしいと思うのは自然ではなくて!?」
「儚いからこそ人は一生懸命一瞬に生きるのよ! 誰かが言っていたわ、人の夢って書いて儚いって。あ、漢字じゃないから伝わらないか」
終わるからこそ青春の
「つまり! あんたの夢はここで終わりってことですわ! 現実を見なさい、お目覚めの時間よ!」
「「《
これが私の――いいえ私たちの最終決算総攻撃よ! 紅い風、紅い雷の強烈な一撃が、醜態をさらす美魔女皇帝を地に叩き墜とした――。
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