異伝その5 永遠の大宇宙帝国


 まさに大宇宙艦隊としか言いようがない規模の戦力を集結させたテオは、ワープ航法によって一挙に反乱勢力の元へと殴りこむ。私はネオスズキ帝国の旗艦にして皇帝テオの座乗艦、〈クレオパトラ二世〉に乗り込んでとりあえず一緒に来てみた。ワープって初めてね私。


「ねえテオ、あなたってじゃないのよね?」

「……転生者? 若くして才気煥発な者を指して『まるで人生二週目の様だ』と形容することがあるけれど、それでなくてということよね?」


 テオの問いかけに、私はうなずく。八歳でこの世界の宇宙を統一したって言うしスズキってお名前だし、転生者って言われても納得できるわ。


「答えはノーよレイナ。私は今現在九歳まで生きたその記憶しか保持していないわ」


 天才というものが存在する――というのは、マギキン世界での魔法の天才ルークや、万能の天才と呼ばれるディランの存在で心得ていたわ。けれど宇宙を統一する天才とはさすがに驚きね。


「陛下、ワープアウトします!」


 マルティナさんが叫び、私とテオは雑談を打ち切る。光が流れるように見えるワープ空間を抜けて、通常空間に出現する。


 視界に映るのは赤い星。たぶんあれが惑星エクサスね。周囲には敵艦隊の姿が見える。反乱軍って言ってもすごい数だ……。


「ロリコン側艦影多数……数は大小合わせて五千を超えます! 機動兵器〈ドラゴンフライ〉等も多数確認!」

「艦隊一斉掃射! 三十秒の後に機動兵器部隊を発進させなさい!」


 テキパキとテオが指示を下し、艦隊が七色のビームと数えきれないほどのミサイルを撃ち込む。当然敵の艦隊も撃ち返し、漆黒の宇宙はすぐにアイドルのコンサート会場の様な鮮やかさになった。


 なお、宇宙だけど爆発音は聞こえる。これは安全や戦場認識の為にコンピューターで再現されたもので、この世界の標準装備らしい。便利ね。私も風魔法で再現できるかしら?


「敵艦多数撃破! こちらが押しています!」


 帝国側の大艦隊による統制された砲撃と、イナゴの様に敵を襲うロボット兵器〈ローカスト〉の群れによって、反乱軍は次々と撃破されていく。


「すごいわね、テオ」

「いいえまだよ。こんなに簡単なら先遣艦隊は返り討ちにあっていないわ」

「――だ、第十一機動兵器大隊壊滅!」

「来たわね! 映像を出しなさい!」


 即座に艦橋のスクリーンに現状が映し出される。……虫? いいえ、カニ? どちらかはわからないけれど、そんな感じの醜悪で巨大な化け物映っている。それも数えきれないほど沢山。


甲殻獣こうかくじゅう……」

「知っているの?」

「宇宙の辺境に住んでいる強力な生物よ。そうか、ロリコン共はあれをコントロールして戦力差の穴埋めを……!」


 完全に押していた戦況は、甲殻獣の出現によって五分五分まで戻される。それくらい現れた生き物は強靭で、魔導機よりも大きくて丈夫そうなロボット兵器をバリバリと砕いている。


「こうなったら私が出るわ。マルティナ、後の指揮はあなたが執りなさい。プランラムダを基本に、戦況の変化に応じてプランイプシロンに切り替えなさい」

「はっ!」

「それなら私も出るわよテオ」


 ブリッジから出て行こうとするテオの背中に声をかける。


「レイナ? あなたは客人なのだから、心配しなくてもここでお紅茶を飲んでいていいのよ? ここについてくる必要もなかったわけだし。それに宇宙戦も慣れていないんでしょ?」

「一宿一飯の恩義は返さないとね。宇宙戦なんてお茶の子さいさいよ。テオの臣下じゃなくて客将――ううん、友人として手助けをしたいの」

「フフ、わかったわ。ただし私の機体よりも前に出ないこと」

「わかったわ!」


 皇帝専用機? テオはなんでもできる天才って話だし、前線に出て活躍して、兵士の皆さんを鼓舞するのかしら?



 ☆☆☆☆☆



「いや、でっか……」


 私の目の前には、皇帝テオの専用機〈カエサリオン〉がいる――いえ、いるらしい。というのも、大きすぎて私からすると壁があるようにしか思えないのだ。


 でも落ち着いて全体を見て見ると全長1キロに迫るその巨体は確かに人型で、コアユニットとして〈ブレイズホーク〉よりも大きいこの世界のスタンダードである20メートル級の機体が搭載されているらしい。


「ポジトロンレーザー、亜空間ミサイル発射!」

「いや、火力……」


 私が言うのもなんだけれど、とんでもない火力だ。その巨体の全身に搭載された火器が火を噴くと、瞬く間に敵が溶けていく。一機で複数の艦隊に匹敵し、三日もあれば単機で惑星を制圧可能らしい。ボディの中に自律ドローンの生産工場があり、歩兵や航空機など様々なタイプを生み出せるそうだ。なんというSF的化物兵器。


「私も戦場に立った以上は! 《獄炎火球》!」


 飛来する甲殻獣を、魔法の一撃で葬り去る。わけのわからない化け物も、燃えるのなら私の敵じゃないわ!


「それが魔法……。やるわねレイナ! 私も負けていられないわ、ソルギャラクシーキャノン!」


 〈カエサリオン〉が右手を掲げ、その手から超極太の熱線が放出された。手を動かせば、その手をかざされた物質は全て消滅する。恐ろしい威力だ。


 なにあのバーっとするやつ。結構気持ち良さそうね? 新しい〈ブレイズホーク〉を造るとしたら、エイミーにお願いしてみようかしら?


 そんな無双を続ける〈カエサリオン〉の動きがピタリと止まった。テオの目の前に、一機の20メートル級ロボットが現れていた。砂色のローブを纏っていおり、手には銃身の長いライフルが握られている。


「出たわね重犯罪人001号――いえ、エルダー」

「久しぶりだな、テオ」


 エルダーと呼ばれた方は男で、歳は二十から三十といったところかしら?


「まさかガルカトラズから脱走するとはね……。たいした執念だわ」

「俺にはやるべきことがある! なあそうだろテオ……?」


 テオとは随分親しそう――いえ、親しかった感じだ。私がテオと呼んだ時、彼女は一瞬昔を思い出すような瞳をした。それはこのエルダーを懐かしんだから? それじゃあ彼はなぜ重犯罪人と呼ばれるまでに? 反乱の理由は、もしかして独裁者のテオを諫めようとして……?


「俺には――俺たちにはんだ! わかってくれ、テオ!」

「ふん、戯言を……」


 すごいシリアスな感じ。部外者の私は口を挟めないわ。これがスペースオペラ! 大宇宙を舞台にしたシリアスな大河ドラマなのね! ポップコーンとコークを持ってきてちょうだい! ポップコーンはもちろんキャラメル味よ!


「エルダー、よく聞きなさい。私は来月で十歳になるわ」

「ふ、だと……!? いや、まあ遅くはない。今すぐ年齢凍結処置をして、俺と暮らそう!」


 ん?


「黙りなさいロリコン! あんたみたいな異常な小児性愛者をこの宇宙から駆逐するのが私の使命よ!」


 あ、ロリコンってやっぱりそっちの意味なのね。組織名の通称みたいな方に僅かばかりは期待していたわ。……んん?


「テオ、信じてくれ! これは純粋な愛なんだ!」

「テオ、なんかその男危険だわ!」

「なんだ女。俺とテオの間に割って入りやがって!」


 青少年にこれ以上の会話は危険と判断して割って入った私に、エルダーとかいう男が呼びかけてくる。


「私は“紅蓮の公爵令嬢”レイナ・レンドーン。テオの友人よ!」

「テオの友人……! 年は!?」

「十八だけど……」

「なんだ、ババアじゃねえか」

「はあ!? はあ!? 十八がババアってどこの世界の基準よ!」

「俺の友達はみんな言ってるぜ」

「あんたの友達みんなおかしいんじゃないの?」


 なんだこいつ。女の敵――いえ、確かに宇宙の平和の敵だわ。


「レイナ、このエルダーは反乱軍の首魁よ。見せしめに生きたまま捕えたいんだけど、手伝ってくれるかしら?」

「当然!」

「この俺を舐めるなよ!」


 エルダーは手に持つライフルを撃ちかけてくる。言うだけあって狙いは正確ね。だけど――。


「《光の壁》よ!」

「な、なんだ!? 光学バリアか? いや、そんな装置どこにも……!?」


 ――私には魔法がある。


「《氷結》!」

「今度は氷だと……!? 冷凍兵器か? クソっ……」


 エルダーは完全にペースを乱している。この状況で混乱を最小限に抑えているあたり、かなりの手練れだとも思うわ。けれど科学的な知識と、実戦で培った勘。たぶん今の彼の中ではその二つが強烈に矛盾を引き起こしている。魔法という非科学的な存在の挙動を読めず、次の一手を打てずにいる。


 エルダーがこれだけのロリコ――反乱軍をまとめ上げる歴戦のつわものなら、時が経つと対応してくるはず。だからこの隙を狙う――!

 


「テオ、準備は良いかしら?」

「ええ、科学と魔法を合わせましょう!」


 テオが放った大量のビームを、私が《旋風》の魔法でまとめドリルの形にする。オーホッホッホッ! このドリルは銀河を貫くドリルよ!


「「《ギャラクシードリルアタック》ッ!!!」」

 

 後はオプスクーリタースの巨人からルシアの操縦席だけを引き抜いたのと同じ要領で、風魔法でエルダーの安全を確保。そのまま一気にぶち抜いた。首魁は逮捕で一件落着ね。


「これで宇宙は平和になるわね、テオ」

「ええ、私の一挙手一投足に宇宙中の人々の幸せがかかっている。民が千年後も万年後も幸せに暮らせる世界を私は作るわ」



 ☆☆☆☆☆



 数日が経った。あれからは実に平和なもので、私は銀河の粋を集めた素晴らしいアクティビティの数々を堪能した。久しぶりの高度文明世界って実に良いものね。私ったらクーラーですら感動しちゃうのに、大宇宙だもの。


「神級魔法《紅蓮火球》!」

「次元歪曲率、空間安定率、ともに陛下の予想の範囲内です」

「わかったわ。レイナ、私の予想が正しければ、あなたはすぐにそのマギキン世界とやらに帰れるはずよ」

「そうなのね。ありがとう、テオ」


 どうやって計算したのかわからないけれど、テオによるとこの時間、この場所に次元の裂け目へと飛び込むと元の世界に帰れる確率が高いらしい。天才ってなんでもありなのね。


「それからあれを。マルティナ」

「はい。どうぞレイナさん」

「これは……?」


 マルティナさんから渡されたのはどこか懐かしい感じのする紙袋。中を開くと、これは――、


「駄菓子!?」


 ――駄菓子だ。私が元の世界で親しんだような駄菓子が沢山入っている。パッケに書かれている言語はわからないけれど、確かに私の記憶にある駄菓子だ。


「貴女が食べたいと言っていたから、宇宙中を探して似たものを集めさせたわ」

「ウヒヒ、ありがとうテオ! 本当に嬉しいわ!」


 もう食べられないと思っていただけに、本当に嬉しい。これを元に量産するわよ、ウヒヒ。


「それじゃあ、もう行くわねテオ」

「ええ、レイナ。貴女から聞いたお話は、この宇宙で広く知られるファンタジーになるわよ」

「ウヒヒ、照れちゃうわね。テオドーラ・スズキ皇帝陛下、貴女の知世が平和であらんことを」


 この心配りのできる幼くも優しい皇帝なら、きっと良い国を築くと思う。嗚呼、大銀河ネオスズキ帝国よ永遠なれ。


 こうして私は天才幼女が宇宙の皇帝として君臨する世界を後にし、再び次元の裂け目へと飛び込んだ。



―――――――――――――――――――――――――――――――

異伝 了

next

第9章 【5月6日(木)】開始予定


読んでいただきありがとうございます!

新作宣伝に異伝もう1話書こうかと思いましたけど転換

皆さん覚えていますか?レイナとルシアin修羅の国福岡からスタートです!

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