第236話 君臨するは超ド級の巨人
「「合体完了! 超芸術合体〈グレートブレイズホーク
超芸術合体が何を示すか自分でもわからない。だけど今はそんな気分だ。
「これは……恐竜……?」
合体完了した機体は、騎士を等身大に大きくした様な他の機体とは違う。どこか恐竜――ティラノサウルスを思わせる、どっしりとしたフォルムだ。前傾姿勢で長い尻尾が生えていて、重装型の巨体なのにお手々は小さい。
「レイナ、行くぞ!」
「ええライナス――ってうわっ!? ああ、そうか。女装してらっしゃいましたね……」
「あ、あまりジロジロ見るな!」
そうやって顔を赤くして照れるライナス。なんかこう……、ピンクのドレスが似合っていますわね?
「敵は!?」
「一機はブリジットですわよね? とすると残りの二機は?」
「おそらくアルトゥーベとオスーナだ」
ええっ!? あの粗野で暴力的な方と、緑髪の陰湿な方ですっけ? でもブリジットが敵である以上、不思議な話でもないか。三機の〈ワルキューレ〉が立ち上がり、体勢を立て直した。
「だが、どうにも様子がおかしい」
「どういうことですか?」
「動きに意志を感じられない。オレは人物画も描くからわかるが、人というのは行動する際、何か意志が動作に表れる者だ。たとえそれが無意識な状態でもな」
「ということは?」
「あの二人の精神は、なんらかの支配下に置かれている可能性がある」
つまりは催眠や洗脳の類ってことね……。禁書を奪ったのがブリジットならそういうことも可能か。
「ありえると思いますわ」
「そうか。美しい行いとは言えないな。であるなら、オレはあいつらの命を助けたい。甘いと思うか?」
「いいえ、ライナスらしいと思うわよ」
原作のライナスも、ぶっきらぼうだが優しい性格だった。私が知っているライナスも、優しさと強さを併せ持つ。たぶんこれこそが彼の戦い方であり強さだ。
「ありがとうレイナ――来るぞ!」
「《光の壁》よ!」
二機の〈ワルキューレ〉が接近戦を仕掛けてき、最後の一機が黒い炎を撃ちかけてくる。
「ええっと、とりあえず遠距離攻撃は防ぎましたけれど、接近戦は?」
「任せろ! 《大地の巨腕・黒》!」
ライナスの魔法によって、巨大な黒い腕が生えた。でもこれ一本じゃ足りませんわよね? 剣を振り回せる体形じゃありませんし、ええっと――。
「ライナス! 私の魔力を使ってちょうだい!」
「――そうか! もっと《大地の巨腕・黒》!」
私の無尽蔵に近い魔力を使って、ライナスはどんどん腕を造っていく。その数じつに五本。つまり最初のと合わせて六本腕だ。
「これって発射できるんですっけ?」
「その通りだ!」
「よし、それなら!」
私は硬い腕を使って〈ワルキューレ〉の攻撃を防ぐ。相手はそれぞれ槍と剣だ。けれど硬い《大地の巨腕》は貫けない。
「そして、《レイナロケットパンチ》乱射!」
六本の腕を全部発射。しかも私の火属性魔法でブーストしてだ。接近してきた二機はもとより、奥のブリジット機も吹き飛ばす。なにこれ楽しいわね? そりゃみんなロケットパンチしたがるわけよ。
「追撃の《獄炎火球》!」
うわびっくり。口から出た。私が放った魔法は、怪獣映画さながらに機体の口から出る熱線となる……と言っても、私って怪獣映画もあまり見たことありませんけれど。
「舐めるなあ! 黒き炎よ、《獄炎火球》!」
「打ち消した!? やるわね!」
ブリジットが黒い炎で出来た《獄炎火球》を放ち、私の魔法と当たって爆発する。これは打ち消し。つまりブリジットの魔法は私レベルまで強化されている。
「私は……いえ世界はお前を許さない! 異物であるお前を!」
「うん、それはさっき聞いた。そして私の中で折り合いはつきましたわ。何週にもわたって思い悩む、少年漫画の主人公じゃなくてよ?」
スポーツ漫画のスランプ克服とかバトル漫画の葛藤とか、そういう展開をあんま長く続けられてもだれる。いえ、リアルなイップスとかって克服は困難な道のりと知っているんですけどね。
「わけのわからないことを!」
「別にわかってもらおうと思って話をしていませんし。というかいいんですの? ぶりっ子喋り忘れていません?」
「うるさい! 行け、下僕たちッ!」
ブリジット機は飛びのき、入れ替わって二機の〈ワルキューレ〉が向かってくる。下僕だとか人形だとか、なんとまあ典型的な悪役セリフですこと。ブリジットの妄執に付き合わされた残りの二人は大変ですわね。
「意志のない動きなど、捉えるのは容易だ! 《大地の巨骨・黄》! レイナ!」
「わかりましたわ! 《熱線》!」
ライナスが魔法で造り出した肋骨のようなユニットが、磁力をもって二機の〈ワルキューレ〉の動きを封じた。そんな動けなくなった二機に、私は魔法を放つ。殺す目的ではないわ。目的は魔導機の中心、魔導コアよ!
「よし、命中ね!」
私の放った魔法は綺麗に二機のコアだけを撃ち抜き、その機能を停止させた。私だって散々魔法の精密操作の練習をしてきたのよ。
「あとはあなただけよ、ブリジット!」
「アハハ! その下僕共と違って私は負けない。ルシアちゃんへの想いがある限り、この力がある限り!」
「こ、これは……!」
黒い炎がブリジットの〈ワルキューレ〉を包み込む。それはどんどん大きくなり、まるで黒い炎でできた巨大な鳥のようになる。これは“オプスクーリタース”の時と同じ、禁書の魔力の暴走! このまま放っておくと、きっとアラメの街はもっと大変なことになっちゃう!
「ライナス、ブリジットを止めるわよ!」
「わかった! 《大地の巨腕》、《大地の巨脚》、《大地の巨骨》、《大地の巨翼》フルセット!」
デカい敵にはデカい身体でよ! ライナスの魔法によって、〈グレートブレイズホーク〉はその巨体をさらに巨大にさせる。それは実にあの巨大魔導機〈リーゼ〉よりもまだ大きい。
「とりゃああっ! ――!」
殴る。けれど相手の炎で出来たボディは、散ってもすぐに再生してしまう。
「まるで不死鳥ね。でも不死身なんて幻想よ。この世界にそんなものありはしない!」
「ああそうだ! 《大地の巨骨・青》!」
青色の《大地の巨骨》の能力は魔力の分散。黒い炎の全てはつまり魔力。分散させて力を弱める。
「今だレイナ!」
「わかったわライナス! 《
手の先はドリル。そして私の魔力で炎の旋風を巻き起こす。そんな《大地の巨腕・紅蓮》が、黒い炎の鳥を粉々に消し飛ばし、コアとなっていたブリジットの〈ワルキューレ〉を破壊した。
☆☆☆☆☆
「アレクサンドラとキャロルわぁ?」
「意識を失っているけれど、無事みたいよ。一応身体を拘束しているけれどね」
私は魔導機を降り、ブリジットと対面する。もう既に拘束は済んでおり、禁書も没収したわ。ディランたちもブルーノを追っ払って、こちらに合流するみたいだ。
「いつも助けてくれる紺色の魔導機は、今日は来ないのかしら?」
「紺色ぉ~? ああ、〈
〈クロノス〉……それがあの紺色の魔導機の名前。確かギリシャ神話だったかの時間の神ね。やっぱり時を操って? でもそれだと私の時間操作で対応できるはず。いや、それより今は――。
「あなたは連れ帰る。聞きたいことは山ほどあるしね」
「それはどうかしらぁ?」
「――!?」
「レイナ! 《土壁》!」
突如、ブリジットが盛大な黒い炎に包まれ炎上しはじめ、私はライナスの助けで巻き込まれずに済んだ。まずい、このままでは大切な証拠が……!
「ブリジット! 《水流》!」
「アハハ! 無駄よ無駄無駄! 私の命はここで綺麗に燃え尽きるの! ルシアちゃん、私は永遠にあなたのお友だ――」
私が放った魔法の水は全く効果を示さず、狂ったように笑っていたブリジットは黒い炎で燃やされ、最後はボンっと爆発して燃え尽きた。
「燃え尽きて消えた……。死んだの?」
「おそらくな。たぶん禁書だったりオーバースペックの魔導機を使ったり、身体が限界だったんだろう」
そこまで――命尽きるまで私を恨んで……。いえ、こうなったのはブリジットの勝手だ。紺色の魔導機を始め、まだまだ敵は残っている。それに水の神の件も。私は異物かもしれない。けれど私はこの世界の為に戦い抜く。
☆☆☆☆☆
「皆さま、見事な戦いぶりでした。アスレス王国を代表してお詫びを申し上げます。そして、疑ったことを謝罪します」
「いえ、王妃様。王妃様の懸念は国を護る者にとって当然のこと。賊の頭目も逃がしてしまい、申し訳ございません」
感謝するアスレス王妃様、受け答えるディラン。ただし女装。視覚の違和感はともかく、戦いは終わった。
「レイナさん、我が国を救っていただきありがとうございます! “紅蓮の公爵令嬢”のご活躍、とくと拝見させていただきましたわ!」
「アンジェリーヌ第一王女様、ありがとうございます。けれどパーティー会場は焼け落ち、街にも少なくない被害がでましたわ」
「あなた方が戦ってくださらなかったら、今頃アラメは
アンジェリーヌ様はそう言って、それこそ花の様に微笑まれる。やっぱ本物の王女様は違うわねえ。アリシアにも負けていないわ。
「バルシア帝国の皆様、そしてドルドゲルス王国の皆様もご助力ありがとうござます。この一件の話が広まれば、我が国とドルドゲルスの関係も改善しましょう」
ユリアーナさんも過重労働の中戦った甲斐があったわね。そう言えば生意気なヒルデガルトちゃんの魔法、どこかで見たような……?
「よし、みんなお家に帰りましょうか!」
戦いは終わった。後は帰る。帰るまでがパーティーだ。お母様たちもみんな無事でよかったわ。
「女装している理由は帰りの船でたっぷり聞かせていただきます!」
未だに女装なディランたちから、魂が抜けるような溜息が聞こえた。
☆☆☆☆☆
「……そう。ブリジット、あなた綺麗に燃え尽きたのね……」
自慢の黒髪を撫でながら、今はこの世に亡き友に語り掛ける。聞こえるのだ、今の私には。神の力を手に入れた私には、あの桃色の髪をした愛らしい友人の声が聞こえるのだ。
「大丈夫よ、貴女の仇は必ずこの私が討ってみせますわ。それが派閥の長としての務めですもの。だからもう、涙をお拭きなさいブリジット……」
幼少の頃の思い出がフラッシュバックする。良い友人にして忠実な配下だった。彼女を庇護下に置いた事が私の貴族としての発芽だ。そう、私こそが生まれながらの派閥の長。貴族の中の貴族。
「レイナ・レンドーン……」
もはや憎すぎて
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