第223話 襲い来る神々

「レイナ、いつの間にそんな手品を覚えたんだい?」

「一度死んだときですわ。さあ、いきますよパトリック!」

「ああ。君の力があれば怖いものなしさ!」


 私とパトリックは、背中合わせで襲撃者と対峙する。先ほどまでの攻防を見る限り、敵の三人はいずれも手練れ。それに数も敵が多いとなれば苦戦は必至だ。特にあの黒銀の魔導機は、アリシアと合体して初めて倒せた強敵。


 アリシアの主人公補正に期待して、三度かけつけてくれることを祈る? 南部のバットリー領にいるはずのアリシアが偶然王都にいて、これまた偶然魔導機格納庫におり、ついでに危機を悟って駆けつけてくれる?


 アリシアのあふれ出るヒロインオーラを考えればなくもないでしょうけれど、ここは私たちだけでどうにか切り抜けることを考えた方が良さそうね。幸いにもディラン達の誘導で、避難はスムーズに進んでいるみたい。あとは前の前の敵をどうにかすれば……!


「いったいどこから魔導機を出したのかてんで検討のつかねえが、さすがは“紅蓮の公爵令嬢”と言ったところか」

「まあ、お褒めいただき光栄ですわ」


 話しかけてきたのは、さきほどからじゃんじゃか景気よく雷を落としている、おデブな機体の操縦士だ。


「だが俺はお前を許さねえ! 俺の相棒を殺ったお前をな!」

「相棒……? 失礼ですがどなたでしょうか? 生憎この私、恨まれることが非常に多いのでいちいち覚えていませんの」

「忘れたとは言わせねえぞ! 俺の相棒、“旋風”イェルドの事をな!」


 ああ……、“旋風”イェルド。夏休みの終わり、ルビーとルイを誘拐した一味の魔導機乗りだ。確か事後調査によるとイェルドは本来、あのブルーノと同郷の三流傭兵だったらしいわ。


 三流傭兵が謎の特別魔導機〈フウジン〉に乗ったらあら驚き、私をあそこまで苦しめる強敵になったというわけだ。そう言えばイェルドは傭兵時代、ある人物とコンビを組んでいたというわ。確か名前は……。


「俺の名前はヘルゲ! “雷雲らいうん”のヘルゲだ! そして操る魔導機の名前は――」

「〈ライジン〉……」

「……? 〈ライジン〉で合っているがなんで知っていやがる? 俺もいつの間にか有名になったみてえだな」


 そりゃまあバンバン雷撃っていて、〈フウジン〉の相方を名乗るって言うなら〈ライジン〉でしょうけどお……。はあ……、まったくどこの誰よ私の同郷? ハインリッヒだけでもお腹いっぱいなのに、まだ転移者でもいるの? でもおとぼけ女神はそんな事言ってなかったし……?


 クリフやビアジーニは所詮捨て駒。少なくともこれでルイの報告にあった“あのお方”ってのは、こいつらやブルーノの裏にいる人間で間違いないわね。まあ、私と同郷の存在がそいつかさらなる暗躍する者なのかは検討つきませんけれど。


「まあいい。お前はここで終わりだ“紅蓮の公爵令嬢! 俺の操る〈ライジン〉、”地崩じくずれ“ラーシュの〈アポピス〉、黒仮面の騎士の〈ワルキューレ〉。この三機に勝てはしまいよ!」


 まあまあペラペラおしゃべりになること。それにしても日本にエジプトに北欧? この前の〈アグニ〉はインドですし、まったく統一感のないわね。設計者は中二病かしら?


「喋り方はアホっぽいですけれどパトリック……」

「ああ。油断大敵だ。来るよレイナ!」


 パトリックが警告するように、私には〈ワルキューレ〉が、パトリックには〈アポピス〉が攻撃を仕掛けてくる。


「――くっ!」


 〈ワルキューレ〉の振り回すハルバードの一撃は重い。私も〈フレイムピアース〉を抜き放ち対抗する。パトリックの方はというと、三本の剣が爪のように生えている〈アポピス〉の猛攻を〈ジャッジメントソード〉を駆使して捌いている。


「はっはっは! 身動きがとれまい! 《雷う――」

「させないわよ! 〈バーズユニット〉たち、《熱線》!」

「――ぬおっ!? 小癪な!」


 二機に前衛を任せてこそこそ動いていた〈ライジン〉に牽制をいれる。やっぱり数の不利がストレートに影響してくるわ。目の前の〈ワルキューレ〉を相手するのに精いっぱいで、〈ライジン〉にはなんとか魔法を妨害する程度にしか攻撃できない。


「レイナ!」

「え!? くっ……、《炎のマント》!」


 今度は私の方へシュルシュルと〈アポピス〉が襲い掛かった。パトリックが逃したんじゃないわ。彼はいつも間にか〈ワルキューレ〉と打ち合っている。どういうこと……!?


「キシャシャ! お前は俺の手柄になれえッ!」

「ああもう! 初めて喋ったと思ったら変な口調!」


 確か“地崩れ”ラーシュとか言いましたっけ? さっき私をあやうく落下しさせようとしたことは忘れていませんからね!


「……!」

「――え? 今度は〈ワルキューレ〉!?」


 〈アポピス〉と数合打ち合ったと思ったら、今度はいつの間にか〈ワルキューレ〉と相対していた。なんで? こいつらワープでもしてんの!?


 〈ワルキューレ〉は一撃一撃が重いタイプ、対して〈アポピス〉は細かい連撃を叩き込んでくるタイプだ。同じ格闘戦でもタイプが違えば対処方が違う。こうも小刻みに相手が変わると、やり辛いったらありゃしない。


「ええいっ! 《火球》! ……やっぱりだめね」


 近接ぎちぎちで自慢の魔法を放とうにも、蛇みたいな機体の〈アポピス〉には回避されるし、〈ワルキューレ〉には黒い炎で打ち消されてしまう。〈バーズユニット〉は〈ライジン〉への牽制につかっているし、何か、何か策は……?


 敵は二人が前衛で残り一人がサポートするオーソドックスな陣形? 本当にそうかしら? だって敵の魔導機は、これまでのエイミーの分析やこれまでの機体を考えると、一芸に秀でているはずだわ。


 お空から《雷雲》を放とうとしている〈ライジン〉は、間違いなくあの雷に特化した機体。 黒仮面の騎士の〈ワルキューレ〉は、運動能力かしら? それとも黒い炎?


 残る〈アポピス〉もあの素早さを考えると運動能力? いえ、私が落下した時に使ったのは石造りの建物を砂に変える魔法。砂……“地崩れ”……いつの間にか入れ替わる敵……。


「そうだわ! パトリック、飛びましょう。空へ!」

「空へ!? でも大丈夫かい? 飛ぶとあの〈ライジン〉とかいう機体に狙い撃ちにあうよ」

「〈バーズユニット〉で牽制していますし、致命傷にはならないはずですわ」

「わかった。君を信じようレイナ!」


 それまで地上で戦っていた私たちは、空へと上がる。敵も当然飛行能力を有しているので、追撃してくる。


「《光子剣》!」

「ぐえっ!?」

「――!? 敵の動きが遅くなったのか?」


 パトリックの一撃は、それまで素早くて捉えることのできなかった〈アポピス〉を的確に捉えた。


「そうです! あの“地崩れ”ラーシュとかいう男は、私たちの足場を少しずつ操って、自分たちの戦いやすいフィールドを構築していた。違いますか?」

「キシャシャ……、気がついていやがったのか!?」


 あのラーシュとかいう男の得意技は、たぶん砂を操る魔法だ。そして〈アポピス〉はその能力を活かすための機体。あいつは私たちに気がつかれないように、足元を砂漠みたいな細かい砂状にしたうえで操っていた。


 だから実際以上に早く感じたし、私たちの魔導機はいつの間にかあいつらが有利なように動いていたってわけ。さながら中華テーブルみたいにね。砂地で爬行はこうしやすい蛇みたいな機体の〈アポピス〉と、強力な運動性能を持つ〈ワルキューレ〉。その二機だからこそできた入れ替わりのマジック!


「それを気がついたところでえッ! 〈流砂りゅうさ〉!」

「砂に乗って!?」


 相手の魔法なのか、〈アポピス〉は雪崩のように吹き上げる砂の流れにのって、パトリックへと迫る。――早い!


「パトリック! ああ邪魔よルシア!」


 私の方へと向かってきた黒仮面の騎士――たぶんルシアの一撃を受け止める。あの勢いの攻撃。受けたらひとたまりもないわ。パトリックは!?


「キシャシャ! 死ねえッ!」

「おっとごめんよ」

「――!?」


 パトリックの〈ブライトスワローV〉は私も気がつかないほどのスピードで、〈アポピス〉の真後ろに移動していた。


「悪いね。でも僕も“神速の貴公子”なんて呼ばれているんだ。君に速度で負けるわけにはいかない。僕を好きな女の子たちが悲しむからね」

「キシャ……!」

「あと一つアドバイス。笑い方って人は見てるから気をつけた方が良いよ。特に女の子はね。……それでは、輝け〈ジャッジメントソード〉ッ! 《光子大剣》ッ!!!」

「す……《砂の壁》!」

「無駄だあああああああああッ!!!!」

「キシャアアアアアアアアアッ!?!?」


 パトリックの一撃は、形成されつつあった《砂の壁》もろとも切り裂く。あれだけの質量の砂を打ち破るなんて、なんて威力かしら……。


「まずは一つ。さあ、レイナ。僕のカッコいいところをもっと見せてあげよう」

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