第222話 私の願いに世界は応える
襲撃してきたのは三機の魔導機。黒銀の魔導機、雷を放った重装型の丸い機体、腕部から剣が生えているひょろ長い機体だ。いずれも大量生産品とは違う独特なフォルム。まったくこの世界の警備はどうなっているのよ!?
「味方の魔導機は……来た!」
現れたのは六機の〈バーニングイーグル〉。会場の周辺に警備として配置されていた、ここら一帯の領主の軍よ。旧型だけれど、数はこちらが倍。いけるかしら?
動きから見るに〈バーニングイーグル〉隊の練度は高くないわね。後方地域の格好だけの警備任務と考えればこんなものかしら? がんばって、皆さん!
「お客様をお守りしろ! ヴァーミリオン隊全機、魔法発射! 《火球》!」
『雑魚がしゃらくせえ! 《雷雲》!』
――あ、これ無理だわ。警備部隊の魔導機が放った魔法は、易々と弾かれて、お返しとばかりに敵の強力な魔法が飛んでくる。
最初の攻防で警備部隊は二機が大破、さらに一機が半壊だ。対して襲撃者側は重装型の一機が片手間に攻撃した感じ。力の差は歴然。というか何なのあのおデブな機体? 天気を操る魔法なんてチートではなくて?
『…………!』
おデブな機体に呼応するように、黒銀の機体はハルバードを構えて弾けるような勢いで接近し、警備の魔導機を二機まとめて容易く撃破する。
剣が生えているひょろの長いのは、まるで蛇のようにシュルシュルと迫ると、一瞬で〈バーニングイーグル〉を切り刻んでしまう。
「うそ……、もう全滅……?」
ヴァーミリオン隊とかいう警備の魔導機部隊は、一瞬で全滅してしまった。厳しい戦いだとは正直思っていたわ。でももう少し頑張ってよ!
「うわっ! こっち来た!?」
フルフェイス改め黒仮面の騎士が乗った、黒銀の機体がこちらを見据える。援軍の魔導機も頼りにならないし、魔法の一つでも撃たれたら防ぎようがない。
考えろ、考えろ、考えなさいレイナ。せっかく一度エンディングを迎えたのに、こんなところでデッドエンドなんて冗談じゃないわ!
――黒銀の魔導機の手に、どす黒い炎が渦巻く。
防御魔法は……この相手のレベルを考えたら防ぎきれないかも。じゃあ撃たれる瞬間に風魔法で……二発目は避けられない。いっそ時を止めれば……いいえ、生身でこの範囲の魔導機を止められるほど万能じゃない。
どうする? どうしたら? どうにかしないとの三段活用!? 迫る死の予感に、考えるよりも先に身体が動く。私は防御魔法を――。
――どす黒い炎の奔流が迸り。
「《光の壁》よ! ――くうっ!?」
あ、これ無理だわ。本日二回目。私の《光の壁》は確かに黒い炎を抑えている。けれどもうもたない。さすがに高性能魔導機の魔法は威力が高すぎる! もってあと五秒。その間に周囲の人が逃げてくれたら……。
四、三。
お父様、お母様、みんな……。
二、一。
ありがとう……。
「レイナ!」
突如、空から
「これは……〈ブライトスワローV〉――パトリック!」
「大丈夫かいレイナ? 約束しただろう、君のピンチには必ず駆けつけるって」
私を護るように立っているのは、白銀の魔導機。“神速の貴公子”パトリック・アデルの操る〈ブライトスワローV〉だ。その騎士然とした正統派なフォルムは、おとぎ話の騎士様を思い浮かばせる。今の私にとってはまさしく救いの騎士だ。
「助けていただきありがとうございます。でもどうして〈ブライトスワロー〉を……?」
「最近情勢がきな臭いじゃないか。万が一を考えて準備させていたんだ。どうやら万が一が起きてしまったようだね……」
「でもそのおかげで助かりました! 〈ブレイズホーク〉は?」
「準備していたのは僕の機体だけさ。ごめんね」
まあそうですわよね。〈ブレイズホーク〉を準備させるとなったら、事前に私に連絡がくるはずですし。心強い援軍だけれど、パトリック一人でこの敵と戦えるの……?
『ごちゃごちゃ話しやがって。まったく騎士様気取りかこの野郎?』
「気取りではなくて騎士さ。僕の名はパトリック・アデル。アデルの武名、ここに示す。白百合のように美しいレイナを汚そうとした、君たちを許さない!」
『うるせえ! 《雷雲》!』
迫る雷撃。しかしパトリックは、その攻撃を回避するでもなく腰から剣を抜き放った。
『なに!? 俺の雷を斬っただと!?』
「我が〈ジャッジメントソード〉に斬れぬものなし!」
パトリックは腰から抜き放った剣、〈ジャッジメントソード〉で雷を切り払った。魔法に対する特殊な技法で造られた剣だけど、剣の達人のパトリックにかかれば、こんな魔法の雷さえ易々と切り払ってしまう。
「敵を斬った、海も斬った、そして怨念すら斬り伏せた。雷を斬れない道理があろうか? いやない!」
『舐めるな!』
「舐めてなんていないさ。これが僕の実力さ。――おっと!」
今度は黒銀の魔導機がパトリックに襲い掛かる。パトリックはそれをまさに猛獣をいなすが如く体術で対応する。
『お前が粋がったところで、三対一なのは変わりないぜ! そして!』
「――!? きゃあああ!」
「レイナ!」
突如私がいたテラスが崩れ去る。また古いお城ゆえの崩落? ……いいえ違うわ。立派な石造りだったものが砂になったのだ。見ればにょろにょろ動いていたヒョロ長い魔導機が、こちらに手を向けている。これはあいつの魔法!? 直接攻撃系かと思ったらこんな搦め手を!
とにかく、私は真っ逆さま。これでロスリグレス城から落ちるのは三回目ね。私恒例年末落下? みょうに冷静な自分が嫌になるわ。
「レイナ!」
パトリックが助けようと動いてくれるけれど、敵の魔導機に邪魔されてしまう。大丈夫よパトリック。いえ、だいじょばないんだけど。ともかく、私は守られるだけのお姫様じゃない。なにせ私は悪役令嬢。ヒロインなんかじゃありませんからね。
ま、そういうメタ的な事はともかく、私は泣き叫んで助けを待つだけの女じゃないのだ。さらわれたら自力で脱出を試みるし、立ちふさがる壁があればぶち壊す。例え転生先がデッドエンド待ったなしの最悪悪役令嬢でも、泣いて叫んで助けを待たず、とりあえず自分でやれることはやってみた女だ。
するとどうでしょうか? 破れかぶれながらも、意外にどうにかなったのだ。当然周りにみんなには助けてもらったけれど、それに頼り切りになるのと自分で歩んでみようと思うのは別よ。
つまり、私は人に頼ってばかりの女じゃない。ヒステリックに泣き叫ぶだけのか弱い少女じゃない。きっちり自立したレディ。それが私。どうにかできる事は……自分でどうにかする!
「でしょう、おとぼけ女神?」
地面は迫ってくるけれど、私は極めて冷静だ。クリア。クリア。クリア。すっきりしている。走馬灯もない。大丈夫。私ならできる。大丈夫。あの子なら来てくれる。私の心に燃える情熱の炎。その灯はまだ消えてはいない……!
「来なさい! 〈ブレイズホークV〉!」
――刹那、炎に包まれる。
熱くはない。これは炎であって炎ではない。手に握りしめるのは、慣れ親しんだ感触の操縦桿。まるで馬の鞍の様な、バイクのシートの様な操縦席に腰を下ろし、準備完了。
『なんだ……!? 何が起きていやがる!?』
何がもつっぱったもない。応えてくれたのだ、私の愛する世界が。魔法という世界が――。
炎はやがて魔導機の形となり、ご丁寧に〈バーズユニット〉まで形成される。その名はヴィクトリー。勝利をその手につかみ取る為の私の翼。バンっと炎がはじけて、私のドレスと同じ深紅の魔導機の姿が現れる。この子もドレスには変わりないわ。戦いという名のダンスを舞いましょうか!
『馬鹿な……! その機体は……!?』
前回は新しく造り出したけれど、これは召喚に近いかしらね? たぶん王都の魔導機格納庫から飛んできてくれた? まあ、そこはどうでもいいか。
「勝利を我が手に、〈ブレイズホーク
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