第207話 勇気と友情は不滅の合言葉
前書き
ライナス視点スタートです
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「行くぞ」
王命に従って、オレ――ライナス・ラステラは部隊を率いて街道を進む。ラステラ伯爵家は西部貴族であり、オレに従う兵士も当然西部出身者ばかりだ。つまり相手となるレンドーン派閥の中に家族や知り合いも多い。皆あえて口には出さないが、その心の内は推して測るべしだろう。
「ライナス様、お父上の軍団も侵攻を開始したようです」
「そうか」
本来であれば、我がラステラ伯爵家もレンドーン側に与していたかもしれない。だが、我が領内には王国騎士団の魔導機部隊が駐留している。迂闊に賊軍とならば公爵領の中心は容易く焼き払われてしまう。レンドーン領の後方を脅かす先陣を切らされているのも、一種の踏み絵だろう。
もちろんグッドウィン王国への――王家への忠心は揺るぎない。だが、唐突にも思えるレンドーン公爵への嫌疑は何を意味しているのか。
確かにレンドーン公爵は力を持ち過ぎていた。九年前、オレが――ボクがレイナと出会った年から、全ての事態はレンドーン家に有利するように進んでいた気がするほどに、急速的に王国随一の勢力となっていった。
ジェラルド王にとっては、信頼できる臣下から目の上のたんこぶに容易く変化したというのも無理はない。けれどオレは――ボクは――、本当にレイナに剣を向けることができるのか?
「あっらー、私の相手はナヨナヨライナス様じゃありませんの」
「その声――!」
街道を進むオレの部隊の前に、魔導機部隊が立ちふさがった。先頭の一機は見慣れぬ機体だ。だがこの声は――、
「エイミー・キャニングか……!」
「あら、それ以外のどなたかの声に聞こえましたか? レイナ様に会おうなんて百年早い。ライナス様の道は、このエイミー・キャニングとKKX516〈ブリーズホーク〉ちゃんが阻ませて頂きますわ!」
☆☆☆☆☆
「さあて、そろそろかな?」
そろそろレンドーン派閥との領境だ。無実を訴えるためとは言え挙兵した以上、迎撃の部隊は用意してあるだろう。僕――パトリック・アデルの軍勢を足止めできるだけの部隊が。
それにしてもこの戦い、いくつか疑問がある。先日レイナの助太刀で参上した、タッカー騎士候領での戦いで感じたきな臭さはやはり勘違いではなかったというわけだ。
そもそもタッカー騎士候自体が、レンドーン公爵とたびたび意見をぶつからせているビアジーニ子爵のお仲間というのは知られている。出てきたという証拠の書類の真偽も、おのずとわかるというものだ。
だがこの僕の剣に迷いはない。例えレイナが立ちふさがろうとも、迷いなく先制をとれる自信がある。なぜならば僕はこの王国に仕える一本の剣であるからだ。
それにレイナなら僕が全力で斬りかかろうとも、幼きあの日の様に難なく対処するだろう。それをためらうと言うのは、強い彼女に対する侮蔑の他ならない。
ま、それとこの戦いに疑問があるというのは別の話しだ。さあて、レンドーン公爵とジェラルド王が激突して一番利益を得るのは誰かな? 邪魔者を排除できるジェラルド王? 違う違う。例えレンドーン公爵を討伐できても、王国の力はかなり削がれる。
仮にレンドーン公爵が挙兵せずに黙したまま処刑されていれば、レンドーン一門という王国の優秀な要を失い王国は弱体化。現在の様にレンドーン公爵が挙兵した場合、戦闘で多くの魔導機や人間が失われやはり王国は弱体化。この対立構造を造り出せただけで、
「パトリック様、前方に魔導機部隊が!」
「はいはい了解。さあて、どう出て来るかな?」
進行方向に魔導機部隊を発見。即座に攻撃態勢を指示する。敵の戦力はこちらよりも劣る。ならば戦力を集中させて一挙突破し本丸を狙うか?
いや、ラステラ伯爵家が王国側についている以上、後方が脅かされてその余裕もないか。まさか本当に外国勢力を呼び込んではいるまいし、となるとレンドーン公爵家の狙いは――。
「おや……?」
目に映った敵の魔導機の一団。王国軍の主力機である〈バーニングイーグルⅡ〉は当然ながら、レンドーン公爵家独自カスタマイズの〈イグナイテッドイーグル〉。そして見慣れぬ一機が混じる。レイナの〈ブレイズホーク〉に似ながらも格闘戦用らしき装甲配置。掲げられた紋章から判別するにあの機体の操縦者は……、
「それに乗っているのは、リオかな?」
「ひゅー、ご明察。いかにも、リオ・ミドルトンだよ。あんたとは一度やってみたかったんだ、イケメンチャラ男」
リオ・ミドルトン。ミドルトン男爵家のご令嬢で、レイナの友人。いや、その肩書は他人行儀か。レイナを通じて幼い時より僕とも友人関係だ。
「女性には手をあげたくないんだよねえ」
「お嬢には強い女性がどうとか言って遠慮しないのに、私との勝負は避けるのかい?」
「それもそうか。なら女の子に人気の者同士、よろしくやろうか。《光の加護》よ!」
魔力は既に込めてあった。僕は抜刀し、〈ブライトスワローV〉を急加速させ突っ込む。
「《光子剣》!」
「そうこなくっちゃな! 《流水脚》!」
「――! 受け流したか!」
光の魔力をまとった〈ジャッジメントソード〉の一撃を、リオの水色の魔導機は脚部に流水をまとった蹴りで受け流す。
「だが一撃では終わらない! 《光子剣》デュアル!」
僕は腰から二本目の剣〈パニッシュメントソード〉を引き抜き、今度は二本の高速のコンビネーションで連撃を叩き込む。元来アデル剣は王国流の剣術とは異なり、流れるような動作からの自由自在の連撃が特徴だ。二刀になったからと言って、一撃一撃の威力は弱まらずむしろ増す。
「ほう、これを受けきるかい?」
「当然!」
今度は脚部だけではなく腕部にも水をまとい、こちらの攻撃を受け流してくる。もちろん全ての攻撃が防がれているわけではないが、明確なダメージは見受けられない。
「ならもっと攻撃を叩き込むまで!」
「しゃらくせえ! 《激流掌》!」
「――おっと!」
流れる激流の様な鋭い拳の一撃が放たれ、僕は回避するべく大きく後方にジャンプした。
「君ってなかなかやるんだね」
「当然だよ。知らなかったのか?」
知らないかと問われれば、知っていたとなるか。王都の庶民街で遊びながら鍛えられた彼女の身体能力はかなり高い。実際、一年生の時は運動系の部活で彼女の争奪戦がおこなわれたほどだ。剣術という貴族的なものを嗜まないリオに、剣術部の先輩が入部を断られたという話も聞いた。
「イケメンチャラ男、あんたには恨みはない。けれどお嬢への友情の為に、このリオ・ミドルトンとえーっと……、ああそうだ、〈ブレイブホーク〉があんたを倒す!」
「友情のためねえ。ならば僕も僕の信じる剣の為に、君を倒させてもらうとしよう!」
「いいねえ来な。あんたのお貴族剣術と、私の街で培ったケンカ。どっちが強いか試してみようぜ!」
☆☆☆☆☆
「《大地の巨腕・黒》!」
「ほほ、当たりませんわよ」
エイミーの機体〈ブリーズホーク〉を狙ったオレの攻撃は、容易く避けられてしまう。戦い始めてしばらく経つが、いまだに一度もあの若草色の機体を捉えることができていない。
「なんで当たらないのか不思議そうですわね?」
「……そうだな」
「そのKKX418〈ロックピーコック
つまりこちらの攻撃は計算しつくしているということか。エイミーの魔力はせいぜい中の上、そして剣の腕は低い。それでもここに立ちふさがっている理由がこれか。
事実彼女はオレの攻撃を避けながら、こちらの部隊の〈バーニングイーグルⅡ〉の弱い部分をピンポイントに攻撃し、二体を行動不能に陥らせている。
「あらあら、ナヨナヨライナス様はお悩みなら降伏した方がいいんじゃありませんの?」
「その名前で呼ぶな! 《大地の巨翼・赤》!」
また外れた。クソっ……。昔からこの女は苦手だ。
「さあ西部貴族なのに敵についたライナス様。レイナ様との友情に殉じるこの私とのふかーい絆、その身に教えてさしあげますわ!」
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