第178話 お嬢様と双子
「お久しぶりです、レイナお姉様ー!」
「ウヒヒ、久しぶりねルビー」
馬車を降りるなり、両手でスカートをつまんで駆け寄ってくる少女。勢いよく抱き着いてきた彼女を受け止める私。夏の花々が鮮やかに咲き誇る中、その花々に負けじと満点の笑顔で再会を喜ぶ二人の美少女。
うん、我ながら実に絵になる光景ね。……え? 美少女はルビーひとり? 失礼な。私だって今世ではちょっと顔立ちがキツイのとツインドリルな髪型が特徴的な事を鑑みても美少女です! 証明終わり。
「レイナお姉様、お話したいことが沢山ありますわ!」
「ええ、聞かせてちょうだいルビー。さあ、中へと入りましょう」
「はい、レイナお姉様!」
私に向かって満面の笑みを浮かべるこの美少女の名前はルビー。別に“お姉様”といっても、お父様お母様ががんばった結果コウノトリさんが運んできた実の妹でもなければ、ましてや百合りんな関係でもない。
彼女のフルネームはルビー・サイス・レンドーン。サイス領を治めるお父様の弟、レオナルド・レンドーン叔父様の娘だ。つまり私の従妹にあたる。年は今年で十六。私の三つ年下になる。そして――、
「あれ? 今日はルイと一緒じゃないの?」
「いえ、来ていますわ。こらっ、ルイ! 早く馬車から降りてきやがりなさい!」
「まってよ姉さん。本が良いところなんだ。それに言葉遣い……」
「レイナお姉様を待たせるなんて偉くなったものねえ……! それに! 私の! 言葉は! 立派に丁寧! ですわ! ぶちのめしますわよ!? 早く降りてきてご挨拶なさい!」
「いや、だから言葉遣い――わ、わかったよ、ルビー姉さん。だから拳を降ろして……」
ルビーにすごい剣幕で怒られて、本を片手にやれやれと馬車から降りてきたのはルイ・サイス・レンドーン。考えるよりも先に身体が動くタイプのルビーとは対照的に、自分の知識と理論を組み立てるのが好きなタイプで見ての通り本の虫だ。
年齢はルビーと同じく十六歳。そう、彼らは双子の姉弟なのだ。普段はレオナルド叔父様の治めるサイス領に住んでいるのだけど、時たまこうやって遊びに来ると言うわけだ。
「お久しぶりです、レイナお姉様」
「久しぶりねルイ。元気にしてた? さあ、中へ入りましょう。美味しいお菓子も用意してあるわよ」
☆☆☆☆☆
「レイナお姉様、この絵は?」
「ライナスから貰った絵よ、ルイ」
「ライナス・ラステラ様の……! 情動と理性、相反する二つの心を感じます。素晴らしい絵です」
ライナスの絵を見ながら、感嘆の声をあげるルイ。
ライナスからは定期的に彼の描いた絵をプレゼントしてもらっている。今見ている絵は初めて彼とデートした時に行った、あの湖を描いた物だ。深い青と突き抜けるような爽やかな青、二つの青の色遣いが特徴的で、見る者を楽しませる。ライナスの作風である二面性を持った絵だ。
「ライナスが聞いたらきっと喜ぶわ。ルイはライナスと直接会ったことはないんだっけ?」
「ええ、僕が西部諸侯会議についていった折には、もうエンゼリアにご入学されていて」
「そう、なら会う機会を作るわ。きっと話が合うと思うわよ?」
「お話、ですか……。ライナス様は力強く孤高な方だと聞きます。僕なんかと話しが合うとは思えませんが」
うん、まあ今のルイみたくちょっと斜に構えたところはないけれど、ライナスも昔からインドアタイプですし、あれこれ考えるタイプだから話しは合うと思うわ。
「そうよエンゼリア! レイナお姉様、絵の説明はよろしいからエンゼリアのお話を聞かせて頂けますか?」
ルビーがここまでエンゼリアに興味を抱いているのには訳がある。彼女と弟のルイには時がやってきたのだ。そう、二人はもう十六歳。特待生として既に合格を決めており、この秋からは私の後輩としてエンゼリアに通うことになる。時が経つのは早いわね。
「ええ、沢山話をしてあげるわよ。そう言えば、入りたい部活はあるのかしら?」
と問いかけてみたものの、二人の入りたい部活には察しがついている。
――それは我がお料理研究会!
昔から私のことを慕ってくれている二人のことだわ。まず間違いなく私が終身名誉会長を務めるお料理研究会に入りたいはず。どこで覚えたのかパワフルな言葉遣いだけれど元気で活発な姉のルビー、ひねたところがあるけれど本が好きで知識が豊富な弟のルイ。二人が入れば私が卒業した後のお料理研究会も安泰だわ!
「はい、私は武術部に!」
「僕は文芸部あたりに席をおこうかと。いえ、興味というよりもそれが学院生活で有効に働きそうだからですが」
な、なんんですってぇぇぇぇぇぇっ!!!
まさか……、崩れ落ちる……!?
私の深淵なる計画がッ……!!!
「そ、そうなのね。……試しに一つ質問だけれど、二人ともお料理研究会には興味ないのかしら?」
「ないですわ」
「ないですね」
ぐふっ! そ、そうなんだ……。
私の後ろを二人して「お姉さまー」と言ってついて来ていたのがもはや懐かしく感じるわ。二人とも、成長したのね。これが親離れというやつかしら? いえ、親じゃないけれど。そんな年でもないけれど。
「武術部はパトリックがいるし、文芸部にもペネロペさんって知り合いがいるわ。見学したいのなら入学した後セッティングしてあげるわよ……」
「さすがお姉様、顔がお広い」
「でしたらご紹介を! あれ、お姉様は元気がないようですが?」
言われてみれば私も顔が広くなったものだ。原作のレイナなんて取り巻きのエイミーとリオ含めて、子分以外の人間関係は希薄そうだし。
「あ、でも私は魔導機を動かせる部活があるならそちらが良いです!」
「ま、魔導機ッ!?」
「はい、私も早くお姉様みたいにバンバンドーンと活躍したいです!」
ま、まさか私が妹のように可愛がっているルビーすらお料理より魔導機なんてー!?
「……あ、あなたも以前会ったことがあるエイミーを覚えているかしら?」
「はい、お姉様のご友人のお綺麗な方ですよね?」
「そう。あの子が魔導機研究会という会の代表を務めているわ」
魔導機研究会はもはやエイミーの手足だ。エイミーがすると言ったら一週間徹夜でも作業を行う。なんという姫に対する忠誠心。
「ええ!? じゃあもしかして『魔導機理解の為の手引き』や『発展的魔導機概論』、『最新魔導コア研究』の著者のエイミー・キャニングさんって、
「え、そうよ? 他にいないでしょ、あれだけ魔導機に詳しいエイミー・キャニングさんなんて」
驚きの声を上げたのは、意外にも読書家のルイの方だった。エイミーと言えば魔導機、魔導機と言えばエイミーだわ。あれ? ルビーも驚いているけれど、有名な話じゃないのかしら?
「驚きますわ。だって私は社交界での優雅なエイミー様しか存じ上げませんもの」
なるほど。擬態女子ここに完成せりね。魔導機のあれこれって一応軍事機密ですし、一般にはあのエイミーが重要なポジションって知られていないのかしらね?
「ということはお姉さまの〈ブレイズホーク〉もエイミー様のお手製ですの?」
「そうよ。言っていなかったかしら?」
「聞いていません! よし、決めました。私もきっとエイミー様から専用機を貰えるくらい魔導機を乗れるようになってみせます! 群がる敵をぶちのめしますわ!」
そんな感じでゴゴゴと効果音がつきそうなくらい燃え上がるルビー。ルイはルイで知識欲が刺激されているみたいだし、やっぱり双子ということで根っこのところは似ているのかしらね?
その理由が魔導機ってのが、エイミーには悪いけれど癪なんだけれど。おっけーぐぐるん、お料理が魔導機に勝つ方法で検索!
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