☆最終話 →私が本当に望んだもの
「おかしいでしょおおおおおおぉぉぉ!!! 明らかに私をマギキンの世界に戻す感じの流れだったじゃないのおおおおおおぉぉぉ!?!?!?」
「そうかしら~?」
「そうよ! 無理ならさっきの問いかけ無意味じゃないの!」
まったく、だったらなんのために私を挑発してスローライフへの幻想を捨てさせたのよ。おとぼけ女神だとは思っていたけれど、まさかこの土壇場でこんなムカつくボケをかまされるとは思わなかったわ。中々の大物ね!?
「確かに私は無理っていったわ~。
「それってどういう……?」
「ここまできて神様に頼るのかしらレイナ・レンドーン。あなたはいつも自分の力で必死に壁を乗り越えてきたじゃな~い」
そうだ。このおとぼけ女神から魔法の才能を貰ったとはいえ、私はあの世界で目の前の壁をよじ登ろうと必死こいてあがいてきた。
気難しい男の子がいた。運命の収束で生まれた悪役令嬢がいた。出る作品間違えているような強敵達がいた。そして愛する作品をクソ改変するこじらせロボヲタがいた。その全てを私は、自分の力と私自身が関係を築いた仲間たちと突破してきた。
「おとぼけ女神、あんたに言われるまで忘れていたわ。人間みんな誰しも自分という物語の主人公なのよ。私は私だけの物語を紡ぐわ。ましてや数々の困難を乗り越えてきたこのレイナ様に不可能はありませんわ。オーホッホッホッ!」
私のお嬢様高笑いが不思議死後空間に響き渡る。そうよ、マギキン全ルートで敵として出るようなレイナ様がそう簡単に諦めてなるものですか。私は世界を愛している。ならば世界――魔法もきっと私に応えてくれる!
「来なさい! 〈ブレイズホーク〉!」
私の求めに応じて、私専用の深紅の魔導機〈ブレイズホーク〉が虚空より現れる。大勝負をしようという時には、やっぱりこの子がいなくっちゃしまらないわ。
「それじゃあおとぼけ女神、やっちゃっていいのよね?」
「いいわよ~。けれどおとぼけ女神じゃなくて私の名前は――」
「――グッドウィン王国で言う所の風の神シュルツ。他にも旅人の守護者ワンダ、ロゴバグ族の春の女神フリ。一番イメージが近いのは
「……気がついていたの?」
「当然。私これでも優等生で通っていたのよ。だから途中から風魔法を使うの
飛行の魔法は仕方ないけれど、できるだけこのおとぼけ女神に借りを作りたくなかったからだ。このすっとこどっこいなおとぼけ女神が、この世を創造せし偉大なる六大神の一柱――風の女神シュルツなんて笑っちゃうわね。
「それじゃあ、あなたの本当の得意属性が風ってことも気がついているのよね?」
「そうね。でも他の属性に比べて火属性は明らかに強い威力で使えるわ。それこそ風以上と感じるくらいに。それはなんでなの?」
「う~ん。私も気になったから火の神に聞いたんだけれど、あなたの心の情熱がそうさせているんだって」
「心の情熱?」
「世界を護りたかったり、愛する人の為だったり、そういった青春的な心よ」
なーるほど。つまりは私のマギキンに対する作品愛。それは誰にも負けないはずだわ。私の燃え上がる作品愛は永久不滅よ。だって死後の転生先に選ぶくらいだし。
「火の神様にはお礼を言った方が良いのかしらね?」
「良い闘いを見せてもらったから礼はいいって言っていたわ。あの子そういうの大好物だから」
げっ、
「聞きたいことは聞けたわ。それじゃあ私そろそろ行くから」
「許可は出したけどどうやって行くつもりなの~?」
「簡単よ。すんごい火力でこの次元に穴をあけるの。ここって一種の異世界なんでしょ?」
火力。火力こそ最高よ。ビバ火力。火力はいつだって私の味方だ。
「えっ……、もう少しスマートな方法で――」
「さあ行くわよ〈ブレイズホーク〉!」
魔法に必要なのはイメージだ。私はイメージする、次元の壁さえぶち抜けるような最高の火力を。そして私の心に沸き立つ愛を。
「燃え上がれ私の作品愛、
練り上げられた膨大な魔力は、灼熱の業火となった。そして強力なビームとして放たれ、次元の壁すらも穿つ。超級をも凌駕した
「ウヒヒ、上手くいったわ。さあ戻りましょう〈ブレイズホーク〉、私が本当に求めたものがある場所へ!」
待ってくれている人たちがいる、会いたい人たちがいる。もう私は立ち止まらない。安寧たる死よりも刺激的な生よ。この気持ちこそがきっと恋。ためらいはない。開いた次元の裂け目に勢いよく飛び込む。
「私のお部屋に穴をあけて……、このバ火力令嬢おおおおおおおおおおおおお!!!!!」
☆☆☆☆☆
「よっと」
次元の壁を破って世界に侵入し、〈ブレイズホーク〉を着陸させる。
「ここは……、エンゼリアのホールの前? 帰って来たということでいいのかしら?」
似て非なる世界ということでなければ間違いないわ。ここは王立エンゼリア魔法学院の敷地内、その大ホールの前だ。時間軸とかも大丈夫よね?
「な、なんだ……!?」
「魔導機……? この赤い機体は……!」
物音に気がついたのか、何が起こったのかとホールの中からわらわらと人が出てくる。
「これは……まさか〈ブレイズホーク〉!? レイナ!」
「あらディラン、みんな。お久しぶりですわ。ごきげんよう」
私が〈ブレイズホーク〉から降り応えると、ディランが、ルークが、ライナスが、パトリックが、みんながその瞳に涙を浮かべながら駆け寄ってくる。
「レイナ様!」
「うわっと、アリシア!? どうどう」
高速で抱き着いてきたのはマギキンの主人公であるアリシアだ。マギキンのレイナルートだとこんな感じではなかった。やっぱり私は運命を乗り越えることに成功したのだ。後ろにはサリアたちお料理研究会のみんなもいる。
「レ、レイナ様……! 本当にレイナ様なのですね!? 私は心配で……いえ悲しくて悲しくて。こんな世界なんてって思って……」
「ごめんねアリシア、みんな。心配かけたわ」
「そうだよレイナ、僕もだけどみんな心配したんだ。今までどこで何を?」
パトリックは涙を浮かべながら、当然の疑問を口にする。
「話せば長いのよね~。本当はもっと早く帰ってこようと思ったんだけれど、途中いろいろな世界で世界を救うお手伝いをしていて……。ほら私って世界救済の経験者じゃない?」
ここに帰ってくるまでちょっと寄り道をしてきた。まあノリで飛び出してきたから迷ったとも言うわ。でも私は経歴に「世界救済の経験有り」って書ける女だから、各世界で魔王だとか悪の科学者だとか侵略宇宙人だとかひっぱたいてきたってわけ。
「おいレイナ。いろいろツッコミたいんだが、まずはその手に持つ袋は何だ?」
ルークはそう言って私が手に持つ袋を指さす。
「ああ、これは駄菓子屋の袋よ。世界を巡るついでに駄菓子を手に入れて、女神に持ち込み許可を貰って持ってきたの。これで美味しいお菓子のバリエーションが広がるわ!」
これを元にこの世界でも駄菓子を量産するの。そして甘いお菓子が世界を包むのよ。夢が広がるわ。ルークは私の言っている単語がまるでわかってないみたいだけれど、お菓子ということはわかったのか目をキラキラ輝かせている。それでこそお料理研究会会員よ!
「ところでこれって何の集まりなのかしら? 卒業式?」
「
「リオ、エイミー!」
「レイナ様、よくぞご無事で!」
「ありがとうエイミー、あなたの造ってくれた〈ブレイズホーク〉がいつも私を護ってくれたわ」
「お嬢は強い女だし生きていると思っていたよ」
「ま、超えてきた死線が違うのよ。ところで
「いやいやあんたのだよ、お嬢」
ええー!?
あ、そうか。私って死んだことになってたんだから当然よね。
「今からお別れの言葉を私が読むところだったんだ。だがもう必要ないな」
そう言ってリオは手に持っていた紙をビリビリに破り割いた。紙片が夏風に巻き上げられて、紙吹雪のように舞う。というか私の追悼式ということは――、
「ああ……あ……、レイナさん……?」
「お父様、お母様!」
今度は自分から駆け出して二人の下へと向かう。久しぶりに触れ合うお父様とお母様の身体は温かくて、なんだかほっとする。
「心配をおかけして……レイナは悪い娘です」
「そんなことはないよ。レイナは私たち夫婦の自慢の娘だ。お帰り、レイナ」
「はい、ただいまお父様、お母様。……ところでお母様が持っている肖像画は遺影なのですか?」
疑問形で聞いたけれど、間違いなく遺影でしょうね。
「オレが描いたんだ。中には超巨大なやつもあるぞ。最高傑作だ」
と、ドヤ顔で語るライナス。超巨大な私の肖像……。こうして私は生きていたわけだし、この後どこに飾ればいいのかしら?
「通るぞ、ちょっと通してくれー!」
人でごった返すホールの入り口から声が聞こえる。あの声はシリウス先生だ。泣いている誰かを助けながら歩いている。あれは、あのメイド姿は――、
「――クラリス!」
「お嬢様!」
アリシアの時と変わらないくらい強くがばっと抱きしめられる。ウヒヒ、元はクールで通っていたメイドがこんなに感情をあらわにしちゃって。
「まったく、お付きのメイドも連れないでどこをほっつき歩いておられたのですか?」
「ごめんなさい。でもこうして帰ってきたわ」
「ええ。お帰りなさいませお嬢様――いえ、お帰りなさいレイナ」
「うん、ただいまクラリスお姉ちゃん」
それ以上は喋らない。だって喋らなくてもお互いの言いたいことはわかる。クラリスはもう一度ギュッとした後私を離した。
「ところで私ってエンゼリア卒業できるの? まさか私だけ留年?」
「いいえ、レイナ。みんな留年です」
「みんな?」
ディランの返答に疑問が浮かぶ。みんなってどのみんな?
「学院に残っていた生徒も満足に講義を受けられていませんからね。僕たちの世代は特例として、基本的に全員留年して四年生です」
四年生!? つまりまるっと一年間はこのエンゼリアでみんなとマギキンみたいな青春を送れるってこと!? それって最高じゃない!
「ウヒヒ、それじゃあまたみんなと楽しく過ごせますわね」
「そうですね、レイナ」
「なら今ここであの夜言いかけた続きをお聞かせいただきますか?」
「ええっ!? 今ここでですか!? それは……」
とたんにディランは顔を真っ赤にしてしどろもどろになる。
「ディラン、君が決めないのなら僕が決めようかな」
「……パトリック!」
「王子、レイナは渡さないからな」
「……ライナス!」
「おいおいディラン、抜け駆けか?」
「……ルークまで!? う、うーん……」
ディランはみんなから何事か詰められて、悩みに悩んでいる。ウヒヒ、ちょっと意地悪し過ぎたわね。
「レイナ様、そういうことは将来の側付きである私の意見を参考にしてもらわないと困ります」
と、アリシア。エイミーやリオも見て笑っている。お父様やお母様、シリウス先生やクラリスも幸せそうに笑っている。焦ることはない。ゲームになかった四年目も、そしてその先の人生だってずっと続いていく。恋だってなんだってたくさんしてやるんだ。だってそんな刺激的な日々こそが私の望んだものだから。
――だから“紅蓮の公爵令嬢”と呼ばれる私と、私の愛する人たちの物語は続いていく。
☆☆☆☆☆
――そして奇跡は起こった。
「神の使徒」「エンゼリアお料理研究会終身名誉会長」「王国料理向上の会理事」「魔法騎士団名誉団員」「エース魔導機乗り聖戦士勲一等受章」と数限りないほどの称号を持つ彼女だが、一番有名なのは当然「紅蓮の公爵令嬢」だろう。
そう呼ばれた彼女は炎の様な苛烈さで波乱の生涯を歩み、幾度も王国の危機を救った。後年さる貴公子と結ばれた彼女は、多くの子や孫に囲まれ長い人生を送った。
我が一族も何度彼女に危機を救われたかわからない。その敬意と称賛の心で私は
エリオット・エプラー著、「紅蓮の公爵令嬢レイナ・レンドーンの伝記」より引用――。
☆☆☆☆☆
英雄だなんだって言われるけれど、レイナは少し変わったところがあるだけの本当に普通の女の子でした。
レイナは必死にがんばるうちにいつの間にか“紅蓮の公爵令嬢”なんて呼ばれて、困難な道を歩むことになりました。だから私は彼女によくがんばったねと伝えたいです。
著者不明、「本当のレイナ」より引用――。
※本著はレイナ・レンドーンの姉なる人物が書いたとされるが、周知の通りレイナに姉はいない。
その為
一説によるとレイナがもっとも信頼した人間の一人であるクラリス・レンドーンが書いたと目されるが、真偽は今後の研究次第である。
―――――――――――――――――――――――――――――――
後書き
全175話に渡る長いお話を読んでいただきありがとうございました!
半年間気合で毎日投稿しました。楽しんでいただければ幸いです。世界観的に気に入っているのでいくらでも書ける勢いですが完結です→だったのですが第6章以降の第二部が生まれました。レイナが自分という存在と向き合うお話です
☆評価、感想いただけたら嬉しいです!
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