第144話 仲間のピンチに駆け付けるのは主人公の特権

 巨大な魔導機、〈リーゼ〉は六体。対して、迎え撃つのは私やディランたちにシリウス先生を加えた六人。他の一般魔導機部隊は、陣を敷いている町の人々や非戦闘員の避難、そして物資の後方輸送に回しているわ。


「いいか、時間を稼ぐんだ。決して無理はするなよ!」


 そうシリウス先生はおっしゃるけれど、こちらより何倍も大きい巨人を相手にするには、多少以上無理をしないと時間を稼ぐことすら出来ない。


「時間って、どれくらい稼げばいいのでしょうか!?」

「避難が終わり、魔導機部隊が集中砲撃の陣形を形成するまでだ。すまんが耐えてくれ!」


 シリウス先生に頼まれてはしょうがないですわね。ひとつ頑張ってみますか!


 それにあのハインリッヒのにやけた顔をぶん殴る……オホホ、お下品でしたわね。あのハインリッヒのにやけた顔を、この世から消し去る為にはこの戦いも乗り切りませんとね!


「――くっ!」


 と、やる気に満ちたのは良いものの、やっぱりこの巨人の相手は難儀だわ。振り下ろされる拳を、踏みつけられる足を避けるだけで精一杯よ。


「時間稼ぎということなら……《泥沼》!」


 私の発生させた泥沼に足をとられて〈リーゼ〉がよろめく。その隙をついて、私は追撃の魔法を叩き込む。


「あの時よりも火力は上がっていますわよ! 小鳥ちゃんたちも一緒に強火で行くわよ! 《獄炎火球》そして《熱線》六連!」


 私のハインリッヒへの怒りは、灼熱の炎となって〈リーゼ〉の左腕を燃やし尽くす。かつてルシアの造り出した巨人に中級魔法の《大火球》は通用しなかった。けれど今回は上級魔法の《獄炎火球》、それに〈バーズユニット〉から発射された《熱線》という名の鋭い六条のビームが追撃をいれる。


「オーホッホッホ! ハインリッヒ秘蔵の巨人も、この私の火力の前には文字通り手を焼くようですわね!」


 私の魔法を受けた〈リーゼ〉の左腕は破壊されている。当然よ、私は日進月歩で成長する女レイナ・レンドーン。淑女三日会わざらば刮目かつもくして見よって言うじゃない?


「こいつ、再生を始めている!? 相変わらずデタラメな性能ですわね。追撃を――」

「避けろ、レイナ!」

「――ッ! ちょっとルーク、自分の担当はちゃんと抑えておきなさいよ!」

「悪い! だけどこいつらを見ろ」


 ルークに言われて巨人を見る。手前にルークが担当の割り込んできた〈リーゼ〉、奥に私が左腕を破壊した〈リーゼ〉だ。まるで再生している仲間をかばう様な立ち位置だ。


「さっきから疑問に思っていた。以前のようにただ暴走するだけなら、一人一体ずつ相手をして誘導してやればよかっただろう。だがこいつらは明らかに違う……!」


 言われて気がついた。こいつらはルシアの時みたいにただ闇雲に暴れているだけじゃないわ。連携して、組織だって動いている。つまりこいつらを操縦している人間は意識があるということ!


 これは厄介ね。一体だけ切り離して各個撃破という戦法は難しいし、少しダメージを与えても交代して回復されるんじゃ攻撃する意味がない。私たちに不利な消耗戦だわ。


 ヒットポイントも防御力も高いボスキャラが、パターン化された動きをせずに連携し攻めてくる。おまけにヒットポイント回復機能付き。厄介極まりないわ!


「シリウス先生、こいつら」

「ああ、そのようだな。だがこちらも魔導機部隊の配置が完了した!」


 言われてあたりを見渡すと、巨人たちを囲むように一般魔導機が待機していた。レンドーン公爵家の部隊もマッチョな隊長さんの指揮の下、配置についている。


「前衛各機、敵を拘束する魔法を使って退避。一斉射を加えるぞ!」

「わかりましたわ! 沈みなさい《泥沼》!」


 目の前の二機をまとめて《泥沼》に落とし込んで距離を取る。すぐに抜けられると思うけれど、魔法を撃ちこめるだけの隙ができれば問題ないわ。


「今だ! 魔導機隊全機、一斉射!」

「火の神よ! 《火球》十二連!」


 数十機の魔導機から各属性の魔法が一斉に放たれて、色とりどりの光が夜の暗闇を切り裂く。さながら花火大会ラストの百連発ね。


「……やったか?」


 誰かがつぶやいた。ちょっとやめなさいよそれってフラグじゃない!? でもまあこれだけ色んな属性の魔法を浴びれば無事では……、


「何!? 六体とも健在!?」


 破壊の閃光と嵐が過ぎ去り、後には敵の残骸が残るはずだった。けれど未だ六機の〈リーゼ〉は、その巨躯をゆうゆうと誇っていた。


「防御魔法か……!」


 魔法の反応に敏感なルークがポツリと言葉を発した。防御魔法。それもあの巨大な機体で増幅された防御魔法を、ご丁寧に六属性分きっちりと。だから全ての属性の魔法が軽減された。


 私たちが甘かった。操縦者の意識がしっかりしているということは、適切な魔法を発動して対処ができると言う事。例えそれが魔導機数十機を擁した総攻撃と言えども、質量的には六体の〈リーゼ〉はあまりにも巨大。押し切ることはできなかった。


 もっとも、中の操縦士は相当無理して動かしているでしょうけど。


「呆けるな! 反撃が来るぞ!」


 シリウス先生がそう叫ぶのと、空を幾条ものビームが覆いつくすのはほぼ同時だった。


「くっ……! 《光の壁》よ!」


 私はなるべく多くの魔導機を護れるように、可能な限り大きな《光の壁》を形成する。なんて攻撃!? まるで暴風の様なビームが過ぎ去り、私は損害を確認する。


「レンドーン公爵家各機、損害の報告を!」

『大破が一、中破が三、他の機体もいくらか損傷を確認』

「大きくした分いくらか抜けたのね……。わかりました。あなたたちは撤退を」

『しかしお嬢様……!』

「これは命令です! それに別動隊がいるかもしれません。そちらの警戒を」

『……わかりました。ご武運を』


 SP部隊の皆さんはお強いけれど、この相手は生半可な攻撃力と防御力ではどうしようもないわ。ここはさがってもらう方が得策だ。


「さあて、結局また六人だけですわね」

「この六人でもやれないことはないさ。ディラン殿下、僕たちで切り込みましょう!」

「承知しましたパトリック。みなさん、援護をお願いします」


 そう言ってディランとパトリックの二人は突っ込んでいく。


「轟け雷! 《雷霆剣》!」

「魔を断て! 《光子剣》!」


 機動力のある二人が切り込みかく乱することによって、〈リーゼ〉たちに隙ができる。


「今度こそ! 《火球》十二連!」

「《氷弾》! 《氷弾》! 《氷嵐》!」

「《大地の巨腕・黒》!」

「《旋風砲》!」


 私たちはその隙をついて威力の高い魔法を集中的に叩き込む。けれど……、


「くっ……! 倒しきれない!」


 倒しきれないなら敵は再生する。六体の巨人は損傷個所をかばいあい、すぐに元の万全な状態に戻る。


「一手、あと一手何かあれば……!」


 シリウス先生が悔しそうに吐露する。私も頭を悩ませるけれど、良い案は思いつかないわ。状況はジリ貧、そして絶望的だ。マンガやアニメならここで何か良い案が閃いたり、眠っていた力が発揮されて新必殺技の一つでも放てる展開よね。


 けれどここは現実。そんなご都合主義な展開なんて起こりっこない。そう絶望しかけた時、漆黒の夜空に月の光に照らされた新しい一機の魔導機が見えた。


 ――新しい敵!?


 不安がよぎる私たちの心を晴らしたのは、鈴の音のように綺麗な声だった。


『レイナ様、みなさん、大丈夫ですか!? お役に立てるかは分かりませんが、お力添えに来ました!』


 世界は残酷だ。願おうが祈ろうがご都合主義なんておこらない。そう、主人公以外には――。


 モレノソフト謹製「マギカ☆キングダム~恋する魔法使い~」の主人公ヒロイン、アリシア・アップトン。彼女はその主人公補正を最大限に発揮するように、ピンチの私たちの前に颯爽と現れた――。

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