第55話 私が知るあなたの努力
「ねえクラリス。ルーノウ公爵家という貴族に聞き覚えはあるかしら?」
「当然存じ上げております。王国東部の大領主にして、旦那様のレンドーン
ルーノウ家というのは私のマギキンの知識にはないわ。そしてゲーム中、悪役であるレイナとさらに対立する悪役令嬢キャラというのは存在しなかったはずよ。
つまり彼女たちは完璧にイレギュラーな存在。どういう結果で対立しているかはともかく、私とアリシアや攻略対象の友人達との安定している関係を、壊されるようなことは阻止しないといけないわね。
「ルーノウ公爵家と言えば、ご息女ルシア様もこの学院におられましたね。……もしや?」
まったく、クラリスは察しが良いわ。
小さな頃から一緒にいて、もはや使用人というより姉のような立場のクラリスに隠し事は無理みたい。
「多少……ね。以前の件同様、お父様への報告は無用です」
「……かしこまりました、レイナお嬢様」
私が振りまいた火の粉は私の手で、だ。
実家を引っ張り出して、いたずらに対立の炎を煽る様なことはしない。
「お天気もいいし、少し散歩に行ってくるわ」
「では私もご一緒に」
「付き添いは無用よ。クラリスは他の仕事もあるでしょう?」
「かしこまりました」
☆☆☆☆☆
良く晴れた休日。
私は広い学院の敷地内を一人で探検してみる。
ゲーム中で描かれていたところを見るのは、マギキンファンとして実に嬉しい。
そしてゲームでは描かれていなかったところを見るのもまた楽しいわ。
「さてと、問題はルシアだけではないのよね……」
彼女の後ろに控えていた三人の令嬢達、彼女らのプロフィールもエイミーは把握していた。
さすがは
まず私が散々に罵倒した赤髪の子は、同じクラスのアレクサンドラ・アルトゥーベ子爵令嬢だ。
どうも
次にアリシアに魔法を放ったピンクツインテぶりっ子。彼女はブリジット・ブレグマン伯爵令嬢。
同性からの評判最悪なぶりっ子。極度のイケメン好きで、あの子が狙っていたライナスと仲良くしていたアリシアが気に食わなかったみたい。
そして虚偽の証言をしていた、陰気なオーラの緑髪令嬢は、キャロル・オスーナ侯爵令嬢。
実家は陰謀家で有名な貴族みたいだけれど、彼女もその気風を受け継ぐともっぱらの評判。
私も前世では目立つタイプじゃなかったし、色眼鏡で見たくないけれど嘘はNGね。
うーん。
私に恨みを持った子たちを、あの黒髪令嬢のルシアがまとめ上げたってかんじかしらね?
というか一度に四人も出てこられても私は名前が覚えられない。
取り巻きの子たちはイニシャルが
はい、これで前世的に馴染みのある感じの名称になったわ。
少しバトル漫画っぽいのが欠点だけれど……。
はあ……。
あのおとぼけ女神め、今度会った時はもう少し有益な情報を喋らせてやるわ。覚悟しときなさい。オーホッホッホッ!
「気を取り直して、今度のお料理研究会の品目でも考えましょうかね。……ん? あれはライナスかしら?」
目線の先、そこには膝をついて何かを集めているライナスがいた。
私は考えながら歩いてきたから、だいぶ学院の僻地にいる。こんなところにいったい何の用でしょうか?
「こんにちはライナス」
「――レ、レイナっ!?」
「そんなに驚かなくても。何をしていたのですか?」
「すまない、集中していたからな。
「陶芸用……ですか?」
陶芸ということはお皿や壺なんかを作るのでしょうか?
新しい芸術の路線かしらね。
「ああ、芸術に対する幅を広げようとな。それにレイナ、オレの得意属性は知っているな?」
「ええ、確か地属性でしたわよね」
「そうだ。こうやって土に触れ、その特性と性質を知ることによって魔法の上達もできるかと考えてな。オレは前回の実技試験、推薦入学生の中では悪い部類の結果を出してしまったからな」
なるほど。強い貴族を目指すライナスにはその悪い結果を出した自分が許せなかったのね。
ウヒヒ、ほんとあなたは昔から努力家よね。
「水の無いところでの水魔法は威力が激減するのと同じように、地属性の魔法は発動する場所でその威力を変える。知っているだろう?」
「もちろん」
「だからこうやって地質に関する知識を得ることは一石二鳥というわけだ」
地属性の魔法は地面や砂を操る。
だからライナスの言う通り、その威力や効果は発動する地質次第で変わる。
例えば私の使える地属性魔法《泥沼》は、固い地質では発動しづらく、威力も弱くなるわ。
「なるほどね。きっとグッドな結果が出るわよ」
「……そうだな! レイナに言われると心強――このオレがしているのだから、良い結果が出るのは当然だ!」
「ウヒヒ。はいはい」
確かマギキンではライナスも一流の魔法の使い手だった。つまりこのライナスも順調にいけばもっと魔法が使える……はず。
ゲームだと他人に努力を見せるようなキャラじゃなかったですし、裏ではきっと同じように努力をしていたのでしょうね。
「そうだライナス。良いお皿が焼けたらそれに合うお料理を作りたいわ! ね? 素敵だと思わない?」
「別に構わんぞ。……それに、その時は最初にオレが食べられるんだろう?」
「当然よ。腕によりをかけて作るわ!」
器に合わせたお料理作りというのもレパートリーが広がりそうで楽しそうよね。
ライナスは新しいことに挑戦しているんだし、私も挑戦しなくちゃね!
「あっ、そうだライナス。その話とは別なんだけれど、今度のお料理研究会のお題は何が良いと思う?」
「そうだな……。オレはあまり料理には詳しくはないが、暖かくなってきたし冷たい物がいいんじゃないか?」
冷たい物……。
少し早いけれど
かき氷……はお料理要素が薄いかな。
前にルークが作って来てくれたアイスクリーム。あれは美味しかったわ。
食べ過ぎてお腹壊しちゃったけれど……。
アイスとかかな? うん、いいわね!
でもそこからもうひとひねり加えて、
アリシアにビスケットを焼いてもらって、ビスケットサンドのアイスも用意したりね。
「うん、決まったわ! ありがとうライナス」
「参考になったようなら良かった――ありがたく参考にしろ」
ウヒヒ、油断したわね。やっぱり昔から知る私の前だと、お坊ちゃまなライナスが出ちゃうのかしら?
まあそこも良いところよ。
「そういえば伯爵令嬢のブリジット・ブレグマンって子は知っている? ピンク髪の」
「知っているぞ。ブレグマンはいつもオレが集中したいときに現れてな。奴にその気はないんだろうが、どうも邪魔をしてくるように感じて苦手だ……」
あらら、悪役令嬢B子ちゃんは脈がないみたいね。まあ、あんなぶりっ子はライナスに相応しくないから良かったわ。
アリシア、どのルートに進むのか知らないけれどあなたのライナスは無事よ!
さあて、悪役令嬢四天王皆様方。あなた達はアリシアのヒロイン力に勝てるかしらね?
もちろんこのレイナ・レンドーンも手加減しなくってよ。オーッホッホッホ!
「レイナ、なんだか悪そうな顔をしているぞ……」
「あら、ごめんあそばせ。ウヒヒ」
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