第40話 結成!お料理研究会

「ごきげんようルーク」


 明くる日。

 私は入会を決めてくれたアリシアちゃんを連れて、ルークに会いに来ていた。


「ようレイナ。それにアップトンか?」

「はい、こんにちはルーク様。このたび私もお料理研究会に所属させていただくことになりました。よろしくお願いします」

「そうなのか、お前の料理美味かったからな。まあよろしく頼む」


 むむむ。これはルークルートかしら?

 いいえ、マギキン原作にお料理研究会がなかった以上判断するのはまだ早いわね。


「ところでルークも会員候補を見つけてくれたのかしら?」

「いいや。貴族で自ら料理しようなんて変わった奴そうはいねーよ。特に男はな」


 まあそうですわよね。

 でも困ったわ。私の知り合いは一通り聞いたし、普通にビラ配りでもする事を考えるべきかしら?


「あ、あの……」

「どうしたの、アップトンさん」

「その……、私誘ってみたい子がいるんですけど……」


 誘ってみたい子?

 アリシアちゃんの交友関係にそんな候補がいるのかしら?

 少なくとも私のマギキン知識には存在しないはずだ。


「どういう子なの? その子のお名前は?」

「寮で私と同部屋の、サリア・サンドバルという名前の子です。サンドバル男爵家の娘さんで、そうですね……普通の子って感じですよ」


 サリア・サンドバルという名前に聞き覚えはない。エイミーやリオの時と違って名前にも家名にもさっぱり思い当たる節はない。


 クラリスみたいにマギキンには登場していない人物の可能性大ね。なら問題ないか。

 一応イレギュラーには気をつけておきましょう。


「大丈夫よアップトンさん、ぜひ誘ってみてちょうだい」

「はい! ……でもその子、同室というだけでお友達というわけじゃないんです。話しかけたら返事はいただけますが……。なのでレンドーン様、ついてきていただけますか?」

「私が? ええ、大丈夫よ。大事なメンバー勧誘だもの、一緒に行きましょう」

「ありがとうございます!」



 ☆☆☆☆☆



 というわけで私はアリシアちゃんと一緒に女子寮へとやってきた。


 エンゼリアは支払える学費によって寮のグレードが変わる。

 アリシアちゃんの入居している一般寮は、エイミーたちが入居している寮よりもまた一段グレードが劣る。その分家賃もリーズナブルなんだけれどね。


 この寮にいる生徒たちは、アリシアちゃんの横を歩く私を見るたびにギョッとする。

 ドリル? ドリルかしら? 私のドリルな御髪おぐしが目立つのかしら? そこまで驚かなくてもいいじゃない……、ちょっと傷つくわ。


「なにか私って目立つみたいね……」

「レンドーン様は有名人ですから。それにこの寮は平民や裕福ではない貴族の方が多い寮。なおさらです」

「自分で言うのもなんですけど、私の噂って多いものね……」

「うふふ、確かに怖い噂もありますね。でも皆さんすぐにレンドーン様が良い方だってわかってくれますよ。着きました、ここが私の部屋です」


 なんだこの良い子。天使かな?

 流石は百戦錬磨ひゃくせんれんまの乙女ゲームのヒロインね。


 私たちがたどり着いたのは一番奥の奥にある部屋だ。

 アリシアちゃんはノックをしてから中に入り、私もそれに続く。


「サンドバルさん、読書中ごめんなさい。ちょっとお話を聞いてほしいんですが」

「何か用、アップトンさん……?」


 アリシアちゃんに呼び掛けられたサンドバルさんは、気だるげな声で返事を返すと、ゆっくりとこちらを振り向いた。


 サリア・サンドバルはアリシアの言う通り普通の子だった。取り立てて美人でもなければ不器量でもない。普通に可愛らしい感じね。特徴の無いのが特徴といった感じで、この学院にはよくいるタイプのモブ系ご令嬢だ。


 そのサンドバルさんの瞳が私を見つけて、みるみる驚愕の色へと染まっていく。


「ええ―――――っ!? あなたはレイナ・レンドーン様!? ど、どうしてここに!?」

「初めましてサンドバルさん。今日はあなたを勧誘に来ましたわ」

「勧誘!? なんのですか?」

「私が今度設立する――」

「入ります! 入らせてください!」


 何その食い気味の入会希望。いえ、入会してくれるにこしたことはないんだけれどね。誘いにきたわけですし。でもまだ何も説明していないのだけれどいいのかしら?


「サンドバルさん、なんとその会にはルーク・トラウト様も参加されるのです」

「ええ―――――っ!? ルーク様も!? 入ります! 入らせてください!」


 アリシアちゃんの追撃に再び驚愕の声をあげるサンドバルさん。

 この子内容を聞かずに契約書にサインしちゃうタイプかしら?

 保険や宗教の勧誘に気をつけなさいな。


「それにディラン殿下も入会はしないけれど顔をだされるそうですよ。ですよね、レンドーン様?」

「ええ、そうですわ。ディラン殿下はぜひ呼んで欲しいとおっしゃいましたし、それにライナスやパトリックも呼ぶ予定ですわ」


 ディランは試食には絶対呼んでくれと念を押していた。そうなるとライナスやパトリックも呼ばなければ不公平でしょうね。みんな昔から私の料理を楽しみにしてくれているから。


「あわわわわディラン殿下たちまで……! ど、どうしてそんな素敵な会に私を誘ってくださるのですか!?」

「アップトンさんの推薦ですわ。ぜひともサンドバルさんを誘ってほしいと」


 私の答えを聞くと、サンドバルさんはアリシアちゃんに向き直った。

 その瞳を彩るのはもはや驚愕ではない。涙で潤んでいる。感涙というやつね。


「アップトンさん……、あなたは一生の友よ!」


 サンドバルさんはそう言ってアリシアちゃんに抱き着いた。

 そんなにお料理に興味があったのかしら?


「ところでレンドーン様、その会の名前は何というのですか? 薔薇ばらの会とか金鷲会きんわしかいとかですか?」

「いいえ、お料理研究会よ」

「お……、お料理?」



 ☆☆☆☆☆



「会員希望者四名、書類の形式も間違っていない。お料理研究会、確かに受理しよう」

「ありがとうございますシリウス先生!」

「火の扱いにだけは気をつけろよ」

「はい! ……って先生、今の私の異名にかけましたよね?」

「ハハハ、がんばれよってことだ」


 ついにお料理研究会正式発足!

 これで私の学園生活は潤うし、アリシアちゃんとも仲良くなってデッドエンド回避よ!


「やりましたねレンドーン様!」

「そんな他人行儀な呼び方じゃなくてレイナで良いわ。同じ会の仲間なんだから。私もアリシアって呼ぶから」

「はい、……ではレイナ様とお呼びします」


 モジモジしながら頬を赤く染めて言うアリシアちゃんはすごく可愛い。

 これね。幾多いくたの乙女ゲーの攻略対象キャラ達はこうやってヒロインに敗れてきたのね。


「わ、私も良いんですか?」

「もちろんよ、サリア」

「あわわわわ。レ、レイナ様!」


 サリアは料理をしたことないみたいだけれど無事に入会してくれた。ルークと話している時も終始しゅうし緊張していたし、もう少し慣れてもらわなきゃね。


 同じ男爵家令嬢のリオとはこうも違うものなのかしら……?


「これでお前は会長だな。いや、初心に戻って師匠と呼んだ方が良いか?」

「どっちも呼ばなくていいわよルーク。今まで通りただのレイナでいいですわ」


 会長はともかく師匠とか呼ばれたら学園を歩けませんわ。というかルークの中で師匠呼びって生きていたのね……。


 何はともあれ、祝お料理研究会結成よ!

 いざ進まん、遥かなる無限のお料理道!

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