第30話 お嬢様たちのお受験勉強

 エンゼリアからの入学推薦状が来て数日。私は王都に滞在していた。


 デッドエンドへと繋がるエンゼリアの入学が嬉しいかはこの際置いておいて、受験勉強が無いって素敵ね。エイミーとリオも王都にいるっていうし、遊びに行こうかしら。


「というわけで、来たわよエイミー。あれ? あなたたち何をしているの?」


 意気揚々とやってきた私を迎えたのは、小難しそうな本や資料を広げた二人だった。エイミーの大好き魔導機関係の本でもなさそうですし、何よりリオが本を読んで何か熱心に書き写している光景は驚天動地よ。


「いらっしゃいませレイナ様。何って受験勉強ですわ」

「受験勉強? あなた達には推薦状は来なかったの?」

「レイナ様ならともかく、流石に私たちは推薦状なんていただけませんわ」

「そうだぞお嬢。あれって毎年十人もいない枠だろ」


 ええーっ! 知らなかった……。ゲームだと主人公のアリシアも推薦入学だから受験シーンなんてなかったし、てっきり条件を満たす人全員に推薦状が来るものと思っていたわ。エイミーもリオも、マギキンだとそんな努力をしている光景のイベントはなかったしね。


 というかゲームでのお父様はそんなにすごい物を不正に取得したの!? レンドーン家の力すごっ! お父様ったらだいたーん!


「ところでレイナ様、いつも一緒の側付きのクラリスはどうしたのですか?」

「クラリスなら休暇よ、用事があって三日ほどいないわ。それもあって遊びに来たんだけどね……」

「私もレイナ様と遊びたいですわ。でも一緒の学校に通うために今は勉強しなくては……」

「というわけだ、悪いなお嬢。私だってお嬢やエイミーと同じ学校に通いたいのさ」


 二人の邪魔をしちゃ悪いわね。私だって二人と同じ学校に通いたいし。マギキンを参考にすると二人とも無事に合格するはずだけれども、どうなのかしら? がんばって、二人とも!



 ☆☆☆☆☆



「とは言ったものの、どうしましょうかねー」


 エイミーとリオとは夕食を一緒する約束を取り付けたから、夕方にはミドルトン邸へ戻る予定だ。それまでどうしましょうか?

 

 特に当ての無い私は、一人で王都をぶらつくことにした。厳密には一人じゃない。クラリスはいないけど、護衛のマッチョな方々は距離を置いて見守ってくれている。誘拐されたこともある私の護衛は、以前よりも強化されているわ。


「でもマッチョな方々じゃ遊び相手にはねー」


 レンドーン家が誇るマッチョSPエスピー部隊の方々は、護衛対象とはむやみに触れ合わない。彼等、彼女らは黒子に徹する護衛のプロなのだ。


 こんなことならクラリスの代役の側付きメイドを連れて来るべきだった。たった三日だから大丈夫と言った昨日の自分が呪わしい。


「レイナ・レンドーン様ですか?」

「はい、そうですわ。何か御用かしら?」


 突然呼び止められて、私は立ち止まる。私を呼び止めたのは、同じ年頃の貴族の少年だった。以前パーティーで見かけたことがある。


「あの……、その……」


 モジモジとしてなんのようかしら――いえ、待ってこの感じ……。


 ――まさか告白!?


「これを……」


 消え入るような声で渡してきたのは、綺麗な花束だった。ウヒヒ。ノーマークな相手だったけれど、突然の告白なんてレイナ困っちゃう!


「これを私に!? まあ綺麗ですわ!」

「いえ、エイミーさんに!」


 ……ああ、そういうことね。エイミーったら最近ますます可愛いものね。


 彼曰く、綺麗なお花を手に入れたのに肝心のエイミーが見当たらない。当然ね、エイミーは受験勉強中よ。自宅に押し掛ける勇気もなくて王都を彷徨っていたところ、私に出会ったという。


「……ええ、確かに渡しておくわね……」

「ありがとうございます!」


 貴族の少年は何度もお礼を言うと、早足で去っていった。”紅蓮の公爵令嬢”をメッセンジャーになんて舐められたものね……。



 ☆☆☆☆☆



「レイナ・レンドーン様ですか?」

「はい、そうですわ。何か御用かしら?」


 再び呼び止められて、私は立ち止まる。今回私を呼び止めたのは、年下の貴族の少女だった。


「あの……、その……」


 なんのようかしら――いえ、待ってこの感じ。


 ――まさか告白!?


 女の子からとは予想外だわ!


「これを……」


 消え入るような声で渡してきたのは、綺麗に包装されたお菓子だった。ははーん、騙されないわよ。どうせ私から誰か意中の男の子に渡してほしいんでしょ。今度は誰かしら?


「誰に渡したらいいの? ディラン? ライナス?」

「いえ、リオ様に!」


 ああ、そっちかー。リオったら最近ますますカッコいいものね。彼女曰くお菓子を焼いたけれど……以下略。


「……ええ、確かに渡しておくわね……」

「ありがとうございます!」


 ぬわーっ! 渡してあげるけれど! 渡してあげるけれど!


 向日葵ひまわりのような笑顔でお礼を言う彼女に、私は文句は言えなかった。救国の乙女をメッセンジャーなんて舐められたものね……。



 ☆☆☆☆☆



「……ただいまー」

「あっ、レイナ様お帰りなさい! え? これを私に、ですか?」

「おう、お嬢。なんだ? くれるのか? サンキュー」


 どういう経緯か説明してあげたら、二人とも最近よくこうやって貰い物するんだって。二人とも人気者なのね。良いことだわ。でも私はそういう事ないんだけれど、一体どうゆうこと?


「ねえ、私ってエンゼリアの推薦状が来るくらいすごいのよね? 救国の乙女ってもてはやされているのよね?」

「ええ、レイナ様は類稀なる才能と人を惹きつける魅力ある素晴らしい女性ですわ」

「ああ、お嬢は人気あるぞ。平民からも貴族からも羨望せんぼうの的の高嶺たかねの花ってやつだな」


 なんか納得いかなーい! 私のファンレターとかプレゼントってどこー?



 ☆☆☆☆☆



☆エンゼリア王立魔法学院

 マギキンゲーム中の主な舞台。三年制。グッドウィン王国最難関の魔法学校で多くの優秀な生徒が集う。男女共学の寮制という和製中世風ファンタジーでよく見るタイプの学校。

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