第28話 お嬢様は運命を乗り越えたい
魔導機による式典襲撃事件から数日。襲撃は多数の負傷者と王宮への大きな損害を出したけれど、
私の《泥沼》の魔法によって捕虜となった魔法使いは、黙秘を貫いているらしい。
襲撃に使用された機体はエイミー曰く最新機種。おのずと背景に潜む黒幕がうかがい知れるけど、大ドルドゲス帝国側は「機体は流出した物」の一点張りだ。
それに、どうやって王宮の近くまであんなに目立つ魔導機を近づけることができたかという疑問も残っている。
ま、私には関係ないんだけれどね! 後のことはお偉い方たちに任せましょう。
目下私の課題は、今回の事件を解決したことにより巷で“
悪役令嬢、紅蓮の公爵令嬢、救国の乙女。そのどれもが私の望むスローライフと対極の位置に存在している気がする。いえ、事実として私は対極へと向かっているんだわ……。
来年からはいよいよエンゼリア王立魔法学院に入学してのマギキン本編スタートだ。デッドエンドの回避と、将来的なスローライフの確立。何としても目指すのよ!
☆☆☆☆☆
「お嬢様、最近何を熱心に調べられているのですか?」
「オホホ。私も来年から学園生活、多くの知識を得ないといけませんからね」
「……そうですか。何か企むときは事前にご相談ください」
……クラリスの中の私はすっかりいらんことを考えるキャラみたいね。
しかし! 私には調べなきゃいけないことがあるわ。
その為にお父様の書斎だけではなく、王宮の書庫にも通い詰めているのよ。
その理由は、あの
今までもゲームとのズレでいろいろ問題が起きたけれど、今回の事件は一味違った。
私の行動がなければ、みんな仲良くデッドエンドでマギキン本編は始まりすらしなかったわ。
そこで私は本格的にあの女神様を問い詰める為に、こうやって神話関係の書籍だとか宗教の成り立ちだとかの分厚い本を必死こいて読んでいるのだ。
――そして見つけた。神との対話方法を記した一冊の古びた本。
試す価値はあると思うわ。でも必要な物が……まあ分かってくれるでしょう。
「クラリス、ディラン殿下の所へ行くわよ。手配を」
「ディラン殿下の所へですか? かしこまりました。すぐに手配いたします」
☆☆☆☆☆
静寂が支配する夜の教会。
レンドーン公爵領最大のこの教会で、私は目的を果たす。公爵令嬢パワーで貸し切りよ。クラリスには入り口から誰も通さないように言いつけてあるわ。
私が見つけたサティナ・ウルシェラ著「神との対話、その崇拝」には、神との対話の為の三つの準備が記されてある。
著者のウルシェラ氏はこれを
条件その一、神を降ろすのに相応しい聖地。
これは私がこの場所にいるように、レンドーン公爵領最大の聖堂を使うわ。
本には降ろす神との縁が大事と書かれている。けれど私はあのおとぼけ女神の名前を知らないし、どこと縁があるかなんてわかりようがないのよね。
そこでダメ押しとして、私のイメージを元に職人に作らせた女神像を安置しているわ。イメージを渡したとき変な顔をされたけど、本当にこんなのなんだって。
条件その二、神を呼ぶ巫女。
神様にはそれぞれ相性の良い人間がいるらしくて、そういう人間が呼びかける方が望ましいそうだ。
私は前世の死後にあの女神と会って話をしている。この条件に当てはまるはずよ。
条件その三、神が喜ぶ
これも準備は万端だ。
あの女神はイケメンの男が好き。なのでディランからパンツを貰ってきたわ。あのおとぼけ女神のことだから、このくらい思い切った供物じゃないとダメね。
「さあ、準備は整ったわ! 私の言葉を聞き入れて、女神よ現れなさい!」
『私を呼ぶのはだあれ~? あら、イケメン王子のパンツじゃない~。貰っていくわ~』
うわっ、本当に出た!? ありがとうウルシェラ氏!
「あんたを呼んだのは私よ。久しぶりねおとぼけ女神様」
『え~っと? あなたは確か……なんで右腕をこちらに向けて構えているのかしら~?』
「あんたの回答によっては、魔法で吹き飛ばす為よ」
『もちろんあなたのことは覚えているわ~。だからその腕を降ろしてちょうだい。ね? ね? ね?』
私の事を覚えているようでなにより。でもこれからの質問があるから腕は降ろしてあげない。
それにしても相変わらず語尾を伸ばす威厳の無い喋り方ね……。
「あんたには聞きたいことが山ほどあるのよ。質問に答えなさい!」
『ちょっと~、あなたの望む通り転生させてあげたじゃない。なんで
「はあ!? 私が望んだのはスローライフよ! 悪役令嬢なんて望んでいないわ!」
『あれ~、そうだっけ~? でも毎日楽しそうだし良いじゃな~い』
クソッ、こいつー! 誰のせいでデッドエンドに頭悩ませていると思っていんのよ!? 楽しそうなのはお稽古に人間関係にと
「そのことより問題は魔導機とかいうロボよ。私がプレイしたマギキンにあんな物存在しないわ!」
『……? ちょっと待ってね』
おとぼけ女神様はそう言うと瞑目して手を動かした。魔法的な何かで調べているのかしら?
やがて終わったのか、女神様は目を開けて私に向き直った。
『あなたが望んだ人生を歩めているかはともかく、この世界は世界番号E-19830205。あなたの
「
『あら~、その通りよぉ~。この私があなたの望む世界に限りなく近い世界を見つけ出して、あなたを転生させてあげたのよ~』
ここはゲームの世界そのままじゃない。ということは、あの魔導機は元から存在する物……?
私の考えを察したかのように、女神様は口を開いた。
『でもあなたの言う通り、あの魔導機とかいうのは完全に異物よ~。私はあなたの望むゲームそっくりの世界に送ったのは間違いないわ~。きっと誰かにこの世界自体が
「歪められている……。 誰かって誰よ?」
『それは私にも分からないわ~』
肝心なところで使えないわねこの女神。
でも、私の大好きなマギキンの世界を歪めたやつがどこかにいる? それって誰……?
『いいですか****、いえレイナ・レンドーン』
うわっ、急に真面目な口調になった。それに私の前世の名前?
でも私の前世の名前というのは分かるけれど、不思議とそれを認識できなかった。
『先ほども言ったように、この世界は悪意ある者の手によって歪められています。それをもとに戻したいのなら、あなたが成し遂げなさい』
「ちょっと! 世界の管理ってあんたの仕事じゃないの?」
『神は人の世の助けはしますが介入はしません』
つまり丸投げね。神様っていい加減なシステムだわ。
『そして気を付けなさいレイナ・レンドーン。逃れられぬ道筋、人は時にそれを
たしかに。出会い方は違うけれど、私はエイミーとリオと出会って仲良くなった。
運命は収束する。それだと私のデッドエンドは――。
『運命を乗り越えなさい。乗り越えなければあなたに未来はありません。ということで、それじゃあ頑張ってね~!』
ああっ、待ちなさい! 言いたいことだけ言って帰るな!
呼び出したおとぼけ女神は、名前も告げることなく霧みたいに消えてしまった。
「消えた……。運命を乗り越えろ? 元はと言えばあんたのミスじゃないの、あのおとぼけ女神いぃ――――――!!!」
☆☆☆☆☆
季節は駆け足で過ぎていき、秋になった。
エンゼリア王立魔法学院は秋入学だから、いよいよ入学目前となったわけだ。
入学すればいよいよマギキン本編のスタート。ヒロインのアリシア・アップトンちゃんにも会うことになるでしょうね。
前世の記憶が戻って六年間。ディラン、ルーク、ライナス、パトリック、エイミー、リオ、みんなと築いてきた思い出がデッドエンド回避に繋がると信じるしかないわ。
世界を歪めた者、収束する運命、心配なことは山のようにある。
けれどこの私、レイナ・レンドーンは必ず悲惨な運命を乗り越えて見せるわ、オーホッホッホッ!
……私ってだいぶ悪役令嬢に染まってきているわね。
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