第19話 11+2X歳のお誕生日パーティー
私が前世の記憶を取り戻してから、早いものでもう一年になる。
記憶が戻ったのが十歳の誕生日なのだから、今度の誕生日で十一歳になるわけね。
実際には11+2Xなわけだから、足すと――。
――それは気にしない!
今の私はちょっとツインドリルな悪役顔だけれど可憐な美少女。デッドエンドさえ回避すれば輝かしい人生が待っているはずよ。そしていつかはスローライフを!
「お嬢様、今度のお誕生会の招待客の確認をおねがいします」
「わかったわクラリス。……そう言えばクラリスって何歳なの?」
今世の私の記憶が確かなら、私が七歳の時から銀髪メイドのクラリスは仕えている。
前世で姉がいた私は、記憶が戻ってからは姉に対するように接してきた。
「それは、内緒です」
クラリスにしては珍しく、立てた人差し指を口に当てるという茶目っ気ある返答だった。
可愛い……じゃなくて!
「えー! 教えなさいよ」
「いかにお嬢様といえども、これは内緒です」
それからいくら聞いてもクラリスは年齢を教えてはくれなかった。
でもお誕生日は聞いたから、いつもお世話になっている――前世の記憶が戻る前はわがままレイナの相手もしていた――クラリスに、とびっきりに可愛いアクセサリーを贈ろうと心に決めた。
☆☆☆☆☆
そしてお誕生日会当日。
私はお友達と最低限招待が必要な方だけのお誕生日会でいいと言ったのだけれど、誘拐事件で負った心の傷を癒したいと気合の入ったお父様により、私の前世の記憶が戻った十歳のお誕生日会以上に盛大なパーティーとなった。
「お嬢様、お誕生日おめでとうございます。大広間にてパーティーの準備が整っています」
「ありがとうクラリス。さあ、みんなの所に行きましょうか」
私がクラリスと一緒に大広間に入ると、集まった大勢の人々から祝福の声がかけられた。
お父様にお母様、レオナルド叔父様をはじめとする一族の方たち。レンドーン派閥傘下の貴族達。そして私のお友達。
「おめでとうございますレイナ様」
「おめでとうお嬢」
エイミーとリオ、ゲームとかなり設定が違うけれど、素敵なお友達になってくれた。
これが逃れられないデッドエンドへの運命の収束かはわからないけれど、二人の友達と過ごす時間は純粋に楽しいわ。
「レイナ、今日も輝いているよ。オレだけのモノになれば、――っ!」
キザっぽい誉め言葉を喋って、自分で恥ずかしがるのはライナスだ。
彼もマギキンのライナス・ラステラとかなり違うキャラだけど、良い子なのよね。というかこの見た目だと大きなお姉様方に大変好かれそうね。
「おめでとうレイナ。馬子にも衣装ってやつだな」
生意気にもそう言ってニヤリと笑ったのはルークだ。
ゲーム中のルークは、こういったパーティーに顔をだすような性格ではなかった。今のルークは私と悪友のような関係になっている。お願い、このまま私をビームで吹き飛ばさないあなたでいて……!
「おめでとうレイナ」
「ディラン殿下……!」
ディランは私の確認する限り、キャラ設定の崩壊が起きていないのよね。
マギキンと同じ、いつも笑顔で魔法、武芸、勉学すべてよしの完璧超人だ。私の知らないところでどこか設定が違うのか、まあ表立って障害となってないし今はいいでしょう。
「レイナ、後から少し二人で話したいのですが、いいですか?」
「? わかりましたわ、ディラン」
ディランはそう私だけに聞こえるように耳打ちしてきた。近い近い!
イケメン王子の接近に思わずドキッとしてしまうわ。
だめだめ、そんな感情抱いたらディランBADルート一直線よ私。
でも二人だけでって一体何の用だろう?
――まさか私の正体に気が付いたとか!?
☆☆☆☆☆
ディランの用事が何かわからないけれどそれは後で考えることにして、この誕生日パーティーに私は一つの目的があってある人物を招待していた。
その人物とは、ディラン、ルーク、ライナスに続くマギカ☆キングダム四人目の攻略キャラクターであるパトリック・アデルだ。
パトリックはいわゆるナンパな女たらしキャラ。
そのパトリックの個別ルート内容はこうだ。
イケメンで女性の機微に
しかしすげなく断られたパトリックはよりアリシアに興味を持ち、そしてその内面の強さにだんだん惹かれていく。そんなパトリックの意外な一面と本心に気が付いたアリシアも、少しづつ恋心を
ラストはグッドエンドならパトリックの問題解決、二人は結ばれレイナはしばかれ所領は没収。
バッドなら心の折れたパトリックは失踪し、レイナは死亡……。
お気づきでしょうか? 悪役令嬢レイナちゃんは四ルート全てでアリシアちゃんの前に立ちふさがり、全てのルートで不幸な目にあっちゃうのだ。
この働きすぎレイナちゃんの怪。予算の都合説、演出の都合説などなどネットでは様々な議論が巻き起こっていた。
けれども私は“レイナちゃん曇らせ隊”がスタッフ内にいた説を推したい。というか今は私がレイナだからこれが真実で良いでしょう?
「クラリス、アデル家の方は出席されているかしら?」
「はいお嬢様。事前の通達通り、ご嫡男パトリック様が」
「ではクラリス、パトリック様をご案内さしあげて」
「かしこまりました」
四人目の攻略キャラ、パトリック・アデル対策は万全よ。
ここは私の家、つまりはホームグラウンド。そして周りを固めるのは私のお友達たち。これならイレギュラーが起こっても対処可能ですわ、オーッホッホッホ!
……あれ、今の私すごく悪役令嬢っぽい?
☆☆☆☆☆
さあ来なさい、パトリック・アデル!
私の狙い通り、クラリスはすぐにパトリックを案内して戻ってきた。
「レイナ・レンドーン様、本日はお誕生日おめでとうございます。ご招待いただき望外の喜びです」
爽やか!
パトリックはそのどこにも女たらしの雰囲気を纏っておらず、真面目な好青年といった感じだ。
――誰だ!?
……とはならない。パトリックは父親への反発で女たらしになるだけで、反発する前は爽やか好青年だったとルート中に語られるのだ。つまり今は反発前。
アデル家は移民の家柄ながらその武威によって貴族に取り立てられた家柄で、その多くが王国騎士団の要職につく。パトリック自身も戦士としてかなりの才能を持つけれど、苛烈な性格の父親に反発して女たらしになるのよね~。
まあそこをヒロインのアリシアちゃんが解決するんだけれど。
「ありがとうございますパトリック様。こうして健康に過ごせるのも周りの方や両親のおかげ。パトリック様はご両親とは仲良しで?」
「? はい。父上は僕の最も尊敬する武人でもあります」
なるほど、父親とはまだ仲が良いのね。
これでアリシアに先行して父親との問題を解決するプランAは消滅。プランBでいくわ。
「それはよろしかったですわ。これを機会に仲良くしてくださいね、パトリック様」
「はいレイナ様、こちらこそよろしくお願いします!」
……上手くいったわね、ウヒヒ。それにしてもこういうスポーツマン系好青年も良いわね。異国感あふれる褐色の肌がまた眩しい。
プランB。あらかじめ仲良くなっておくことで、父親との問題が起きたら即座に解決する作戦!
これでルートキャラ四人の対策は万全……なはず。
心配なのは隠しルートっぽい前世で未回収のスチル四枚だけれど、乙女ゲームの隠しキャラ――しかも魔法が絡むパターン――って、黒猫が実は呪いで変身させられていた王子だったり、精霊や天使との禁断の愛だったり、まるで見当のつけようがないのよね。
……そういえばディラン殿下にお呼ばれしていたわね。行った瞬間デッドエンド一直線じゃないといいのだけれど……。
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