第17話 私とお友達になりましょうか
「とにかくご無事なようで何よりですレイナお嬢様」
「本当にごめんなさいクラリス。私が馬鹿だったわ」
「……お嬢様は賢くあると思うのですが、結果をよく考えて行動された方が良いかと存じあげます」
……ごもっとだわ。
デッドエンドを回避するためにいろいろと考える癖はついているけれど、予想外な事で危険な目にあうこともあるのね。
そうだ、聞きたいことがあったんだ。
「ねえクラリス、ミドルトン男爵令嬢ってどなた? 私と一緒に誘拐されていたの?」
「そのようです。ですが私もどなたが、というのは存じ上げません」
そうなんだ。小さい子の誰かでしょうか? そう考えこんでいる時に、ふと後ろから声をかけられた。
「
「カルナ! さっきは助けてくれてありがとう。……私だよっていうのは?」
「ミドルトン男爵令嬢ってのさ。私の本名はリオ・ミドルトン。一応男爵令嬢だよ」
ええっ、カルナが男爵令嬢!? 私が言うのもなんだけれど、こんなにTHE町娘みたいな性格なのに!?
……というかリオって、マギキンでのレイナのもう一人の取り巻きのリオ!?
確かにエイミーと一緒で、髪の色や瞳の色がゲームでの色と一緒な気がするわ。でもこんな所で出会う? 恐るべき運命の収束!
「驚いてるみたいだな。まあ私は
妾の子? マギキンではそんな設定ではなかったはずよ。なんというか、普通の貴族令嬢Bみたいな性格だったと思う。
そうか、また何かボタンの掛け違いで設定が改変されているのね。
「まああんたと会って、お貴族様もみんなクソ野郎ってわけじゃない事はわかったよ。じゃあ、またな」
そう言ってカルナ――リオは、ミドルトン家が準備したのだろう馬車に乗っていってしまった。
立ち去る彼女の顔はどこか暗かった。
「クラリス、さっきの今で悪いけれど、私のわがままを聞いてもらえるかしら?」
「……どういった用件でしょうか?」
「私はしばらく王都の別邸に残ります。手配を」
「……心身の療養ということで旦那様には連絡しましょう」
「ありがとう!」
リオの励ましがなければ私は気が動転していただろう。そんなリオがあんな悲しい顔をして過ごしているのは寂しすぎる。
私はレイナ・レンドーン。栄誉あるレンドーン家の人間は決して恩を忘れないわ!
☆☆☆☆☆
と、貴族令嬢らしく
事件から数日後、私はレンドーン家の王都別邸で思案にふけっていた。
クラリスの調べたところによると、リオは普段パーティーには姿を現さずミドルトン家は同じ年齢の姉がもっぱら参加しているようだ。
「失礼いたします、ディラン殿下、ルーク様、エイミー様がお訪ねです」
「みんなが? 通してちょうだい」
どこかから聞きつけてお見舞いに来てくれたのかしら?
ウヒヒ、嬉しいわ。この仲の良さ、デッドエンドを回避しつつあるんじゃないかしら?
いえ、つい数日前危険な目にあったばかりよ。油断はできないわね。
「レイナ様―――――――!!! ご無事ですか!?」
「わっ! ちょっとエイミー、私は大丈夫だからお顔を拭きなさい」
エイミーはやってくるなり私の胸にダイブ。そして号泣していた。
「レイナ、ご無事で何よりです」
「心配したぜレイナ!」
「ディラン、ルーク、心配かけたわね。ありがとう」
ディランもルークも私の顔を見てほっとしたような表情を見せる。手にはお見舞いの品と花束だ。流石は乙女ゲーのルートキャラ。抜かりはないわね。
「護衛の目を盗んで逃走したと聞きましたよ? もう少し淑女としての――」
なんだろう。私の中でディランはルークの保護者ポジという認識だったけど、最近私の保護者ポジも兼ねている気がするわ。そしてクラリス、反省しているからうんうんと頷かないでほしい。
「まあディランはこの事件聞いた時は半狂乱だった――」
「わー! ルーク、その話はしないでって言ったでしょう!」
うんうん。父であるグッドウィン王の御膝元である王都で誘拐事件なんて、
☆☆☆☆☆
翌日。みんなのお見舞いで元気を貰った私は、一つの決断を下した。
会うしかない!
リオに直接会って彼女を取り巻く状況を改善しないと、彼女に笑顔は戻らないでしょう。
「そうと決まれば行動開始! クラリス、ミドルトン家に赴くわよ」
「かしこまりました、お嬢様」
私が王都を離れるまで自分も残ると宣言していたエイミーにも連絡は取ってある。
マギキン作中でレイナ、エイミー、リオは三点セットで行動していた。ゲームとかなり性格が違うけど、解決の糸口になるかもしれないわ。
☆☆☆☆☆
私はエイミーと合流し、ミドルトン男爵邸に来ていた。
ミドルトンはどちらかというと武門の家柄。屋敷も質実剛健といった雰囲気だ。
「レイナ様、リオ様ってどんな方ですか?」
「さっぱりした性格の気持ちの良い子よ。きっとエイミーも仲良くできるわ」
実際ゲームの中じゃ仲良かったしね。
今回の訪問はレンドーン家公式の訪問という事にしてある。そうじゃないとあの子逃げそうですし。
「失礼します。リオ・ミドルトン、参りました」
そう挨拶を告げながらやって来たリオは、あの日とは違い貴族らしい
「レンドーン様にキャニング様、ご訪問ありがとうございます。
「この前のお礼を言いに来たのよ。というかキャラを作らなくていいわよ」
「おっ、そうか? 正式な訪問って話だったから、てっきりあんたをつねったことの抗議にきたかと思ったよ」
そう言えば起こされるときにつねられたなあ……。
まあ感謝はすれども抗議するようなことはないわね。
「で、そっちの……」
「エイミーです」
「ああ、エイミーか。そいつを連れてきたのは礼だけか? もしかしてお近づきの印に派閥に入れってか?」
「派閥なんて興味ないわ、私達はあなたとお友達になりに来たのよ」
リオは私の真意を確かめるようにジッと見つめてくる。
「友達? 子分か取り巻きの間違いじゃないの?」
「お友達よ。取り巻きなんて求めてない」
私は派閥を作りたいわけでもなければ取り巻きが欲しいわけでもない。そんな事をすればゲームの悪役令嬢レイナとたどる道は一緒だ。
「私は貴族のお嬢ちゃんが好みそうな服だとかの話はわからないぜ」
「大丈夫、私もさほど興味はありませんわ。私は料理が好きですの。今日もガレットを焼いてきたからどうぞ」
「このお菓子をあんたが?」
意外そうな顔を浮かべながらも、リオは私の作ったお菓子を食べてくれる。
まあ意外でしょうね。お菓子なんて貴族の令嬢は専属のシェフに作らせればいいだけだから、料理なんてしないイメージでしょうし。今ではすっかりお料理男子のルークだって最初は渋っていたくらいだ。
「美味いな」
「そうでしょう。レイナ様のお料理は天下一です。そして私も服やお花に興味ありません。私が好きなのは魔導機です」
横からエイミーの援護射撃も飛んでくる。
昨日はお見舞いの後、私を助けた魔導機を見物に行ったらしい。
「……友達になりたいってのはわかったけど、どうにもあんたの事を利用するような関係になるのがね……」
「利用すればいいわ」
たぶんこの子の悩みは、庶子であるゆえの居づらさでしょうね。だから王都の別邸に住んでいるし、貴族や貴族であることを嫌っているんだわ。父親に反発しているから偽名も名乗っていたわけだし。
それなら私との関係なんていくらでも利用すればいい。王国の金庫番であるレンドーンとのつながりがあれば、いくら庶子と言えども重要視されるはずよ。
「リオが貴族の何かに不満を持つのなら、私の家名でもなんでも利用して変えるといいわ」
「……あんたは何でそこまでしてくれるんだ?」
「あなたが恩人だからよ。私はあなたがリオ・ミドルトンのまま笑っていてほしい」
リオを助けたい理由?
そんなの簡単よ。リオがいなければ、私は数日前リアルデッドエンドだったかもしれない。
「私、リオって素敵な名前だと思うわ。私はカルナじゃなくてリオに助けられた。だからリオとお友達になりにきたのよ」
「レイナ……」
「それにね、これは勘だけど、私はあなたのお父様はあなたのお母様を正妻の方に負けないくらい愛していると思うわ。もちろんあなたもね。でないと捜索依頼を出して、わざわざ迎えの馬車をよこさないでしょう?」
ゲーム中ではそうだった。多分そうでしょう。私にはわからないどこかで、ボタンの掛け違えがあったんだと思う。
「……妾だとか利権だとか、私は貴族なんてクソ食らえって思ってた。貴族として飯食ってる自分も嫌だった。ずっと一人で悩んでた」
「リオ……」
「相談する友達が必要なのかもな。……レイナ、エイミー、こんな私で良ければ仲良くしてもらっていいか?」
「「ええ、喜んで」」
私とエイミー、そしてリオは笑いながら手を取り合った。
☆☆☆☆☆
それから数日。王都に滞在している間、私達三人は毎日遊んだ。
レンドーン邸でお菓子を作ったり、エイミーに連れられて魔導機の見物に行ったり、リオに連れられて王都を探索したり。多分普通の貴族の令嬢の遊びとは違うのだろうけれど、毎日が刺激的で楽しかった。
「レイナ様、今回はミドルトン邸のお庭を吹き飛ばしたりしなくて良かったですね」
「なに、お嬢ってそんなに過激なの? 確かにそんな噂を聞いたような……」
「今回はお空に放ったからセーフよ。しかも助けを呼ぶという正当な理由ですわ」
魔力マシマシもたまには役に立つじゃない? でもいつかはあの女神に文句言ってやるわ。
「そういえば、お嬢」
「なに? リオ」
「全部じゃないけど、少しは解決したよ」
短い報告だった。でも、リオの笑顔がどういう内容だったかを物語っている。
お父様お母様、王都では誘拐されたりもしたけれど、私は元気です。
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