第19話 今後の方針

 ブラックスパイダーのヨミを創造してから三ヶ月と少しが経った。


 森林エリアに新たに魔物が加わったことで、より一層箱庭の中は賑やかになった。


「少うしどきなんし!!」

「断るのじゃ!女狐の方こそ退けばよかろう!?」


 …………少し賑やか過ぎるくらいだ。


 妖狐に比べ、より大きく、少し金色寄りの毛並みを持つ天狐へと進化を果たしたツキヨと、ブラックスパイダーから、蜘蛛の下半身と人の女性の上半身を持つアラクネへと進化を果たしたヨミだ。


 この二人は、元々仲が良くないのではないかと感じていたが、ヨミがアラクネとなり人語を扱い始め、それに負けじと天狐となったツキヨが《変化へんげ》を習得して人型になることが可能になってから、俺から見てもそれが顕著に表れるようになった。


 今は、昼時になり、折角だからと俺とアルファにツキヨとヨミを加えた四人で食事を取ろうと思ったのだが、その結果座る席で揉めてこうなっている。


 俺の隣はアルファで確定らしいのだが、正面に座るのがどちらかで揉めているのだ。


 俺としては、正直正面も左前も変わらないと思うのだが、彼女達にとっては重要らしい。


 これに関しては、慕われている事を喜ぶべきか、面倒になったと嘆くべきか非常に悩ましい。


 ちなみに、ヨミの上半身は長い黒髪と紅い眼を持つ美女のそれであり、ツキヨが変化した姿は、狐耳と狐尻尾を持つ茶髪の美女である。


 二人とも、傾国の美女と言っても過言ではない程の美貌を持っている。


 ツキヨは、耳と尻尾を隠した姿にも《変化へんげ》できるらしいが、出していた方が楽らしいので獣人のような姿をとっている。


 もちろん、進化して変わったのは姿だけではない。


 二人ともとても強くなった。


 今の時点で、ツヴァイ達に匹敵しそうな勢いだ。ゴブ助達とは互角以上に闘えている。


 ステータスはこんな感じである。


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 種族:天狐


【体力】:C


【攻撃】:B


【防御】:C


【魔力】:A


【魔耐】:B


【敏速】:B



【総合】:B


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 種族:アラクネ


【体力】:B


【攻撃】:C


【防御】:B


【魔力】:B


【魔耐】:B


【敏速】:C



【総合】:B


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 両者共に【総合】Bランクへと至っている。


 そう、実力はあるのだ。


 普段の行いがちょっとばかし問題なだけで……。


 まだ問答を続けているし、飽きないのだろうか……。


 そんな事を俺がぼんやり考えていると、開いていた窓から小さな影がこの家の中に入ってくるのが見えた。


「やっほー!王様!」


 入ってきたのはエルダーフェアリーへと進化したモアだ。大きさは三十センチ程まで大きくなっている。


 モアもエルダーフェアリーに進化してから人語を扱えるようになった。


「あ〜!この二人、またやってるのー!?」


 相変わらずのイタズラ好きには困らせられるが、こういった時は仲裁に入ってくれる。むしろ、ツキヨ達の方に頭を悩ませていることの方が多いかもしれない。


 そのツキヨ達は、モアに仲裁に入られてあーだこーだと文句を言っている真っ最中だ。


 ちなみに、モアの今のステータスはこんな感じだ。


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 種族:エルダーフェアリー


【体力】:C


【攻撃】:D


【防御】:D


【魔力】:A


【魔耐】:B


【敏速】:A



【総合】:B


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 彼女もまた、しっかりと強くなっている。


 お、どうやらモアは無事仲裁することができたらしい。


「そういえば、モアは一体こんな所までどうしたんだ?」

「ああ!そうだった!ヘラクとメアとアネモイと一応アインスさんともね、暇だったから王様の所遊びに行こうって話になって!」

「ヘラクとメアとアネモイもいるのか?」

「うん!外にいるよ!もしかして……いきなり来たの迷惑だった……?」

「そんな事はないぞ。俺達は今から昼食を食べようかと思っていたところなんだ。良かったら一緒にどうだ?」

「ほんと!?やった!王様と一緒にご飯食べる!」


 お、これは今日は賑やかな昼になりそうだ。


 後ろから、とある蜘蛛と狐の残念そうな息を吐く音が聞こえてくるが無視する。


 どう考えても、さっさと決めなかった彼女達が悪いのだ。


 そして、モアにまで"一応"と言われてしまうアインス君の普段の行いが伺えてくるなこれは。


「よし、じゃあ今日は外で食べるか。みんな、机と椅子を出しておいてくれ。俺は料理を作ってくる」


 そう言って、俺はキッチンの方へと歩きだした。



 ◆◇◆◇◆



 予定が変更され家の外で食べることになった昼食は、予想通りとても騒がしくなった。


 ヘラクとメラが高笑いをし、ツキヨとヨミが再び揉めだしモアが仲裁に入り、アインスが相変わらずアネモイに言い寄った。


 確かにいつもの昼食よりも大分賑やかな昼食だったが、俺とアルファもこんな風に騒がしいのも良いものだと大笑いして楽しんだ。


 ちなみに、ツキヨやヨミ、モアと同じようにアネモイ達も進化を果たしている。


 アネモイは嵐虎に、ヘラクとメラは蟲魔人インセクトノイドになったのだ。


 嵐虎になったアネモイは、大きさこそ殆ど変わらなかったものの、毛の色は白に近い緑に変色し、常に風のオーラの様なものを身に纏うようになった。


 これによって更に近づきにくくなったアインスが項垂れたのは言うまでもない。


 更に重要な変化がもう一つある。その風のオーラは、アネモイの意思で出したり消したりが可能らしいのだが、アネモイにオーラを消してもらってもふってみたのだ。するとなんと!もふもふ度合いが更に増していたのだ!!大事なことだからもう一回言うぞ。増していたのだ!!


 俺はそれが判明した日、たっぷり二時間もふりにもふった。当然の如くアルファも参戦していたがな……!


 なに?二時間もなんて馬鹿じゃないのかって?これだからもふもふの素晴らしさが分からん奴は……。


 まあとりあえず、そんなアネモイのステータスがこちらだ。


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 種族:嵐虎


【体力】:B


【攻撃】:A


【防御】:B


【魔力】:A


【魔耐】:B


【敏速】:A



【総合】:A


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 何と【総合】Aランクである。


 アネモイは速さと攻撃に特化したステータスとなっている。


 偶然にも、アインス君と同じタイプだ。


 今の時点で速さに関して言えば、アインスには及ばないもののツヴァイ達を完全に上回っているのだから驚きだ。


 次に、蟲魔人インセクトノイドとなったヘラク達だが、彼らは何と直立二足歩行をとるようになった。

 見た目は相変わらず凹凸のあるカッコイイ甲虫のものなのだが、進化して直立二足歩行となったことで人間らしさのようなものが出てきた。


 この進化は、今回進化した魔物達の中ではヨミと並んで最も見た目にハッキリと出たものと言えるだろう。


 余談だが、ヘラク達は人型になってからの振る舞いを、魔物育成キット取扱説明書『【賢】の書』に記してある人族の王族の作法から学んでいた。


 全身に漆黒のゴツイ鎧を身に付けたようなヘラクと、純白の丸みを帯びた鎧を身に付けたようなメラが、紅の複眼と桃色の複眼で、一生懸命本を読み込む姿はとてもシュールで面白かったというのはここだけの秘密である。


 閑話休題。


 さて、そんなヘラク達のステータスはこんな感じだ。


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 種族:蟲魔人インセクトノイド(甲虫型)


【体力】:A


【攻撃】:A


【防御】:A


【魔力】:B


【魔耐】:A


【敏速】:C



【総合】:A


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 種族:蟲魔人インセクトノイド(甲虫型)


【体力】:C


【攻撃】:D


【防御】:C


【魔力】:A


【魔耐】:B


【敏速】:B



【総合】:B


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 相変わらず個体差が激しいヘラクとメラのステータスである。


 メラは元々治癒士タイプだ。魔力が格段に上昇し、得意としていた回復系統の魔法に磨きがかかっている。


 一方、ヘラクは盾職タイプである。このヘラクがヤバいのだ。非常に防御力が高く、ちょっとした攻撃じゃ傷すらつける事ができないにもかかわらず、硬い甲殻に覆われているため、攻撃も鋭く強力なのだ。


 実際、新たに創造した森林エリアを主な住処にしている魔物達の中でヘラクは最も強い。


 メラとコンビを組めば、仮にダメージを受けてもすぐさま回復するため、決して倒れない不屈の戦士となるのだ。


 それがどれほど強力な組み合わせなのかというと、何と、ヘラクとメラとの二人がかりであれば、現在箱庭内最強であるアインスとも闘えるほどだ。


 ちなみにだが、アネモイとヘラクとメラはまだ人語を扱えはしない。


 今は、会話をしたい時はモアに翻訳して貰っている感じだ。


 だが、これだけ強いとそろそろ念話を習得しそうな気がしないでもない。


 俺からすると「ブルルルルル」と言っているようにしか聞こえない音も、実際は高笑いをしているらしいのだ。


 早く直接言葉を交わしたいものである。



 このように更に頼もしくなった仲間達を見渡して、俺は今後の方針について一つの決断をした。



「よし、決めた。外に出てみよう」



 俺がそう宣言すると、少しの間をあけて――。



「「「「え?」」」」



 と、全員が疑問の声を口にした。


 アルファを含めたこの場にいる全員の頭の上に?マークが浮かんでいるのが幻視できる。


 この箱庭とダンジョンで十分すぎるほど快適な暮らしを送れているのに何故という表情だ。


 だから、何故俺がそういった決断に至ったのかの説明を始めた。


 まず、皆が大分強くなった事。


 今ならば、少し人員が欠けたり、俺の指示が無かったりしても十分に対処できると思ったのだ。

 実際あれから何度かこのダンジョンにやって来た冒険者らしき人間も、それぞれの判断で討ち取ることに成功している。


 次に、ガルプテン王国という一つの国の軍を全滅させた俺達によって、一体外界にどんな影響が出ているのか調査しておいた方がいいと思った事。


 一国の軍隊を壊滅させたのだ。何らかの影響は出ているはずである。その影響は、今後俺達にも関わってくる可能性が高い。であるならば、その情報は早めに知っておいた方が良いに決まっている。


 そして、俺達の暮らすダンジョンが人間種族からどのように見られているのか知っておきたかった事。


 国の軍を壊滅させた事が知られているのならば、このダンジョンは一般的にも認識されるようになったはずだ。そういった第三者的な認識のされ方も、知っておいて損は無い筈だ。


 最後に、人間種族の街にしか売ってない物を見てみたいと思った事。


 必要な生活必需品はダンジョンに創造してもらう事が可能だが、それはあくまで俺に知識があってこそ創造を頼もうと思うのである。だからこそ、人間種族は普段の生活でどのような物を使っているのか知りたいと思った。


 それに、必要な物資を手に入れるのにダンジョンに頼りすぎるのも良くない。ダンジョン内で殺した冒険者の遺品や魔物育成キットに同封されていた魔法の袋の中には、人間種族の通貨と思われるものもある。ならば、つい最近まで存続の危機に陥っていたダンジョンのエネルギーを使うよりも、金銭のやり取りで済むならそれで済ますのに越したことはないだろう。


 これらの理由を伝えると、皆は何とか納得してくれたようだった。


 納得したら直ぐに、外へ出た時に誰が俺を守るのかで揉めたり、俺が居ない間は自分達だけでダンジョンを守り抜くんだと張り切ったりしだしたぞ。物分り良すぎじゃないか?コイツら。


 つか、気が早すぎだっつーの……。


 まずは同行者を決めないとな……。アルファは確定として、誰にするか……。


 俺はそんな事を考えながら、これからの計画について考えを巡らせるのだった。

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