Track.7-27「決まってますよ、ぶん殴るんです」
順を追って、噛み砕く。
常盤さんが語ったのは、
前者とは異なり、“霊珠埋没式魔術能増徴法”と呼ばれるその術式は、単純にその魔術士の有する魔力を増幅させる術式だ。
メキシコは古くアステカの地に
宝石に魔術を籠めることで、魔術士で無い者でもそれを解放するための
そして鹿取家が使う宝石は主に二つ――
しかし前者に比べて後者はそこまで使い道の開拓がうまく行っていないらしく、だから専ら
その宝石を、剣や槍といった形状に変化・増徴させることで武装したり、炎や冷気などをぶっ放したり、
肝心の暁に行われた施術というのは、魔術の才能に恵まれなかった暁の身体に
埋め込んだ
だからその術式を施された魔術士たちの殆どが、
それどころか、暁の小さな身体は
だから、そこから先は聞かなくても――正直、アステカだとか
よく解りすぎて、頭が痛いくらいだ。正直、相当――頭にキてる。
「……
「教えてもいいけど――――魔術士相手に
「何って……決まってますよ、ぶん殴るんです」
◆
「ギシィイャアァァァァアアアアアア!!」
元より一面が赤黒く染まっていた眼球に突き立った剣翼の一枚は薄紫に濁った水晶体の飛沫を上げ。
その間隙を縫って駆けた
斬撃のいくつかは分厚く硬い鱗を
紫色の血飛沫とともに血煙が上がる――しかし吸い込んだそれの対処法ならすでに身体が覚えている。
一度は死さえも意識した
確かに——
魔術の基礎――
しかしバジリスクの血煙毒の影響下に置かれたことで
その流れを速めることで、また
躰術を。
(重みが足らないのなら代わりに速度を)
よりはっきりと醒めた思考を練り上げながら、のたうつ魔獣の岩壁のような鱗に、弾性に富んだ皮下組織に、剛健な筋繊維に、そして堅固な骨に
目まぐるしく旋回反転する視界の中心に
痺れを切らし無事な左目から絶対零度の冷気を帯びる視線を放とうとも、それを狙っていた
「グギャアアアアアアァァァァ――――――――――」
(それでも足りないのなら、更なる傷を)
もうその耳に魔獣の叫びなど聞こえていない。
ただただ
より速い走破を。
より高い跳躍を。
より鋭い飛翔を。
より強い斬裂を。
より多い投擲を。
ただただそのためだけの――まるでそのためだけに創られた用途を持つ道具かのように自らと自らの動きを作り変えていく。
ただの殺戮器へと、自らを変異させていく。
抗う魔獣は、しかし徐々に命を削られ、この状態と状況がともに続くのなら確実に散り果てただろう。
しかし誤算は二つ。
まず一つは――――荒ぶる
もともと
しかしそれを上回る速度と濃度で荒れ狂う
少女を守るという当初の目的すらも忘れ、憑りつかれたかのように只管に魔獣を冷徹なまま斬り刻み続ける
そしてもう一つは――――。
「こっちだ、急げ!」
「魔獣同士の交戦!?縄張り争いか!?」
「何だっていい、アレが聖都郊外まで南下すると交易路が使えなくなる。ここで食い止めるぞ!」
「おう!」
目の前のことに集中するあまり、視界の遠くから松明を掲げ進軍するその小隊の接近に気付かなかったのだ。
だから突如として耳に入ってきたその声の群れに「しまった」と身体を硬直させ――そしてその隙をバジリスクは見逃さない。
「グルルルォォォォオオオオオオオオッッッ!!!」
強靭と言う言葉でさえ修辞しえない太い尻尾の横薙ぎが胸腹部を捉え、無造作に
幸いだったのは、硬直と一撃とのその最中、咄嗟に
「ぐ、――――ぅ、――――っ」
そこで漸く自身の身体の蝕みにも気付いた
(この流れを、もっとうまく操れば――――まだ戦える)
筋張った胸と腹の奥の折れた骨を感じ取りながら、痛みに悶えるせいで動かしづらくなった
張り詰めた冷静を焦燥が取り囲む中、しかし眼前遠くの戦場は異様な景色に塗れていた。
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