相思歌(シャンスゥコ)
Mondyon Nohant 紋屋ノアン
序 章 ナイトヴュー
「
二人は、港町の高台に建つ古びたホテルに部屋をとった。
以前からこのホテルに泊まってみたかった、と僕を誘ったのはリンだ。大きな窓と欧州風の外観が、シンガポールの
部屋に入り窓際に寄ったリンはカーテンを開けた
「今夜は運がいいわ」
六月が世界一
「生きているみたいな
湿気が、ひとつひとつの光点をやわらかく
リンはベッドサイドからテーブルを引きずって、窓際まで運んだ。
「
包装紙に書かれた品名を北京語で発音しながら、
「この街の月餅は美味しいわ。世界一よ。でも
「さっき君が買ったのは、本場
「
酒はそれを
「お酒、少しは強くなった?」
「いや」
「お酒
「
語感が軽蔑的だと、グラスを磨きながらリンは笑う。
「君みたいな
リンは老酒を自分のグラスにだけ注ぎ、視線を窓の外に向けた。
リンと会うのは、半年ぶりだった。
……日本はもうホットな国じゃないのよ。
リンが勤める通信社が東京支局の規模を縮小したため、彼女がこの国に立ち寄る機会は激減していた。
十年前、日本の写真学校を卒業し帰国したリンは、合衆国の通信社に記者として採用された。中国系市民で中国語に
写真学校でリンに写真を教えたのは僕だ。
「
魂は瞬間、眼に現れる。カメラは、それを
「あなたの写真は魂をとらえていたわ。
ヨーロッパの
受賞作はモノクローム四枚の
四枚の何れにも同じ人物が写っている。
人物の名はアン。十九才。身長五フィート四インチ。東洋人。
「何故あの娘をあんなに
「綺麗に撮ろうと思ったわけじゃない。綺麗に写ってしまっただけだ」
「本当? 写真は
たしかに、そう教えた。映像はつくられるものだ。
写真家はシャッター速度を調節して、ある速さの動きだけをとらえ、レンズの
写真には写真家の
「アンは綺麗だったよ。
「そうね。あなたの言う通り。セクシーな娘……」
リンは、記憶を
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます