やっぱり雨だ。

もり ひろ

やっぱり雨だ。

 やっぱり雨だ。

「おねえちゃん、なんでわかったの?」

 おねえちゃんは、ふふんと胸を張る。

 ぼくは驚いたし、おねえちゃんの言ったことが当たって、なんだか嬉しかった。

「ねえ、おねえちゃん、なんで」

 何回も聞いているのに、おねえちゃんは教えてくれない。

「ねえ。なんで、なんで」

「わたしはね、魔法使いなの」

 ぼくは「魔法使い?」と少し間抜けな声になっているのを感じながら聞いてみた。

「おねえちゃん、なんでもわかるの?」

「なんでもじゃないけど、いろんなことがわかるんだよ」

「どんなことがわかるの?」

 そうねえ、と呟きながらおねえちゃんは周りをぐるぐると見る。ぼくもつられて、ぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐる。

 おねえちゃんのぐるぐるが終わった。ぼくのぐるぐるは、おねえちゃんが止めた。

「もうすぐ雨がやむよ」

「ほんと?」

 うん、とおねえちゃんは頷く。

 雨宿りをしていると、とても不安な気持ちになる。帰るのが遅くなってママが心配すると思うし、自由に走り回ったり遊んだりできなくなる。それに、ぼくは雨に濡れたくない。わざと傘を差さずにびしょびしょになったり、泥だらけになったりするとママに叱られることがある。雨の日の水たまりを見ると、ばしゃんと踏みつけて歩きたくなるし、冷たくも熱くもない雨に当たるのは面白いのに、みんな我慢しなくちゃならない。

 

 だからぼくは、雨の日が嫌いだ。


 ぼくがうじうじしていると、ぱっかり雲が割れて、お日様の光が降ってきた。まるで、神様や仏様や天使の部屋の扉を開けたみたいだった。

「すごい、おねえちゃんはほんとうに魔法使いだ!」

「すごいでしょ」

 おねえちゃんは自信たっぷりに笑っている。

「あ!」

 突然、おねえちゃんは大声を出した。そして、急にぼくの手を握って、走り始める。

「ヨっちゃん、来て来て」

「おねえちゃん、どうしたの」

「いいからはやく!」

 おねえちゃんは、ぐいぐいぼくを引っ張る。ばしゃん、と水たまりに入っても気にしない。ぬかるみも濡れた葉っぱも、まだちょっとだけ降っている雨も関係なしにに走っていく。おつかいで買ったネギがどこかへ飛んで行っても、おねえちゃんは気付かない。

「ねえ、おねえちゃん、汚れたらママに怒られちゃうよ」

「そんなことより、すごいもの見せてあげるんだから」

 靴の中に水が染み込んできた。おねえちゃんが踏みつけた水たまりの飛沫で服に泥が付いた。雨が少しだけ盛り返してきて、髪の毛が濡れた。

 ぼくは息をするのもやっとなのに、おねえちゃんはケラケラ笑いながらスピードを緩めない。

 そうして、河原に着いた。

「ほら、ヨっちゃん、あれ!」

 おねえちゃんが指さす。

 ぼくは、はっとした。

「虹だ!」

 右の山から左の山まで、綺麗な虹の橋ができていた。虹は七色だって思っていたけど、もっとたくさんの色がある。よく見ればよく見るほど、新しい色が見つかる。

「すごい、おねえちゃんは本当に魔法使いだ!」

 へへん、とおねえちゃんは誇らしい顔をした。


 帰ってからママに叱られたけど、この日からぼくは雨の日が好きになった。

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やっぱり雨だ。 もり ひろ @mori_hero

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