第4話眠り続ける和音と看護師たち

和音の両親と、病院側の相談は、入院等の事務手続きを行い、終了。

付添も不要なので、両親は病院を出て、帰宅して行った。


その両親を病院の玄関で見送った杉本医師は、同じく並んで見送った高田看護師に声をかけた。

「誠に申し訳ないけれど、当面は高田さんをメインに、和音君を見てもらいたい」

「彼も、目を開けた時に、また別の顔を見ると、不安に思うだろうし」


高田看護師も、それには納得。

「杉本先生、私もそのほうが無難と思います」

「違和感を与えて、動揺もさせたくありません」

「せっかくの素晴らしい才能のある男の子、しっかり治す手助けをしたいと思います」


杉本医師は、クスッと笑う。

「そうだよね、和音君、イケ面・・・というか可愛い感じだよ」

「それもねらい?」


高田看護師は、途端に顔を赤くする。

「あら・・・そんなことありませんって」

「あくまでも、仕事です」

「それに、ここの病院の中では若いほうですが、和音君とは5歳も離れて、彼からしたら、おばさんです」


杉本医師は、あっさりと引き下がった。

「まあ、そうだよな」

「彼くらいの有名人で美少年なら、彼女の一人や二人いても、おかしくない」

「それじゃ、後は任せる、僕は市民オケの練習に行くよ」

そして、その言葉通り、病院を出て行ってしまった。



さて、杉本医師が病院からいなくなった以上、高田看護師は、当分は暇な状態。

和音も命そのものは危険な状態ではなく、また和音以外には特に危険な患者もいない。

他の看護師に「杉本医師から言われた指示」を伝え、和音が眠る病室に入る。


「うん、よく眠っている」

「確かに可愛い顔をしている」

「目の保養になるな、この子」

「まあ、一週間は気合が入る」

そんな観察をしていると、他の看護師も数人、入って来た。

そして、ヒソヒソ声で、高田看護師を責める。


「杉本先生の指示はわかるけれど」

「高田さんに独占させたくないな」

「この子なら、私もお世話したい・・・」

「しっかしねえ・・・記憶喪失気味?」

「まだショックが大きいのかな、無理はさせられない」


和音は、寝返りも打たない。

ただ、すやすやと眠るだけの状態が続く。


看護師たちの、ヒソヒソ声も続く。

「汗もかいていないね」

「マジできれいなお肌ですこと」

「私も負けそうなお肌」

「若いっていいなあ」

「眠るに任せるしかないかな」

「起こしても可哀想」

「・・・一旦、引き上げますか」

「モニターでも動きは見られる」


見回りと言うより、和音のビジュアルを楽しみに入ってきた看護師たちも、和音に動きがない以上、どうすることもできなかった。

結局は、ナースセンターに全員戻り、モニターで和音の様子を時折見る、それだけになってしまった。

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