二人の和音

舞夢

第1話違和感・・・自分の名前を思い出そうとするけれど

頭が割れるように痛い。

誰かの声が聞こえてくる。

「目が開きますか?」

若い女性の声だ。

「えっと・・・頭が・・・痛くて・・・」

必死に声を出す。

自分の声の振動で、また頭が割れるように痛む。


「わかりました、では、また後で」

「痛み止めを点滴に、眠くなります」

再び、若い女性の声が聞こえた。

しかし、返事は無理、頭が痛くて声が出せない。

それでも、薬が効いた。

眠気が痛みに勝った。

いつの間にか眠っていた。


どれだけ時間が経ったのかは、わからない。

また、若い女性の声が聞こえてきた。

「目が開きますか?」


前回、聞かれた時よりは、頭の痛みはない。

「はい・・・」と答え、目を開ける。


しかし、眩しい。

一旦は目を開けたけれど、また閉じてしまう。

「眩しくて」と理由を言う。

声を出しても、その振動からの痛みは、ほとんどない。


それでも、薄目にしていると、目が慣れてきた。

ようやく、目を開ける、

どう見ても、病院の中としか、思えない。

となると、声をかけてきた若い女性は、看護師なのだろうか。

確かに声の方向を見ると、白衣の看護師が立ち、自分を見ている。


「お名前は・・・言えます?」

その看護師に、名前を尋ねられた。


「え?あ・・・はい・・・」

実に困った。

何が何だか、さっぱりわからない。

「自分の名前?」と思った時点で、また頭がガンガンと割れるように痛む。


別の方向から、中年の男性の声が聞こえてきた。

「頭をしたたかに打っている」

「ただ、一時的であれば、まだいいけれど」

「完全な記憶喪失もあり得るくらいのショック・・・打撲かもしれない」


その男性の方向を見ると、彼も白衣を着ている。

杉本というネームプレート、そうなると、この男性は杉本という姓の医師なのか。


若い女性看護師が杉本医師に尋ねた。

ネームプレートは高田、つまり高田という姓の看護師らしい。

「杉本先生、ご家族の人をお呼びしますか?」

「保険証から確認できております」


杉本医師の返事には、少し間があった。

「うーん・・・高田さん、そのほうがいいかなあ」

「ただ、面会は、様子を見たい」

「と言うよりは、本人の回復度合いを見たい」

「もちろん、家族に話はするよ」

「ただ、面会は・・・リスクもあるからなあ」


そんな話声が聞こえてくる中、必死に「家族」を思い出そうとする。

しかし、全く思い出せない。

思い出そうとすると、また頭がガンガンと割れるように痛む。


「マジか?僕は誰?何も頭に浮かばない」

「わかるのは、ここが病院らしいってことだけ」

「でも、そもそも、どうして病院にいる?」


結局、何も思い出せないまま、また睡魔に襲われて眠ってしまった。

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