第7話 オプション

 シエラさんをカサックへ送っていくにあたって、僕は一つだけ条件をだした。

それは魔石を用意してもらうということだ。

僕のMPは480になったけど、新型船は1時間につきおよそ140の魔力を消費する。

つまり僕の全MPをチャージしても3時間ちょっとしか走らせることができないのだ。

寝る前に船を召喚して、今夜のうちにMPをチャージしておく予定だけど、満タンにすることはできない。

明日の朝は早起きをして、寝ている間に回復した魔力を補充する必要がある。

たとえそうしたところでカサックまでは340キロの道のりだ。

どう考えても僕の魔力だけでは足りなくなってしまうのは明らかだった。


 騎士団は相当量の魔石を確保しているので、3000MP分はシエラさんの方で用意してくれることになった。

それだけあれば僕の魔力は必要ないけど、余った魔石はもらってもいいという話だ。

せっかくだからなるべく自分の魔力を使って、今後のために魔石をストックしておこう。


 朝もやの波止場で待っていると、旅装に身を固めたシエラさんがやってきた。

今夜はカサックに泊まり、帰ってくるのは明日の予定だ。


「おはようございます」

「おはよう。早朝からすまないね」


 さっそく船を召喚する。


「これがレニー君の言っていた船か。前回乗せてもらったボートよりも快適そうだね」

「いつでも出発できます」


 シエラさんは最初に魔石を渡してくれたけど、MPはもう満タンにしてある。

大事な魔石はコンソール下の物入れにしまっておいた。

MP残量は計器の目盛りで簡単に見ることができるようになっているから、減ってきたら補充すればいいだろう。


「それでは出発します。休憩は2時間後を予定していますが、必要な時はいつでも言ってください」


 船を発進させて徐々にスピードを上げていくと隣に座っていたシエラさんが驚嘆の声を上げた。


「これはすごい! このように速い船は、追い風をいっぱい受けた軍のフリゲート艦くらいだぞ」


 ヨットなどの高速艇はこれ以上のスピードが出ると聞いているけど、運航は風次第だ。

シャングリラ号は無風であっても動かせる。

むしろ波の無い無風時の方が動かしやすいくらいだ。


「この船は海にも出られるのかい?」

「沿岸部だけです。さすがに沖に出るのは無理ですね」

「そうか。この船も騎士団にあればいろいろと役に立つと思うのだが……。レニー君、いっそ騎士にならないか?」

「僕が騎士にですか?」

「ああ。私から団長に推薦するよ」


 騎士か……。

それも悪くはないけど今はその気にはなれない。

それにじいちゃんは言ってたもんな。

「レニー、世界を見てこい。そしてお前がやりたいことを見つけるんだ」って。


「祖父の遺言なんです。世界をまわって、自分のやりたいことを見つけろって」

「そうか。残念だが、気が変わったらいつでも言ってくれよ。私は君を歓迎するからな」


 シエラさんはしつこく勧誘はしなかった。



 30分ほどで船上市場を通り過ぎた。

さらに40分でパル村も通り過ぎる。

行く時は4時間かかっていたのだから、どれだけ船が速くなったかがわかるというものだった。


 さらに一時間が過ぎて、そろそろ休憩しようかという時刻だ。

走行距離もレベルアップ予定の160キロに近づいている。


「どこか休むのにいい場所はありませんか?」

「もう少し行くとレビンという街がある。比較的大きな町だから、休憩できる場所もあるだろう」


 しばらくシャングリラ号を走らせていると頭の中でいつもの声が響いた。


(レベルが上がりました)


 これでレベル6だ。

レビンについたらステータスボードを確認しようと、ワクワクしながら操縦を続ける。

ほとんど時間もかからずに右岸に町が見えてきた。


「レニー君、あれがレビンだ」


ミラルダほどの大きさはないけど、城壁を備えた立派な町だ。

スピードを落とし、ゆっくりと船着き場に船を寄せた。


 休憩の間にさっそくステータスボードを開いた。


名前 レニー・カガミ

年齢 13歳

MP 620

職業 船長(Lv.6)

走行距離 160キロ

所有船舶 

■魔導モーターボート全長4.8メトル 全幅1.92メトル 定員5名

60馬力エンジン搭載(およそ140MPで1時間の運用が可能)魔力チャージ500MP


■ローボート(手漕ぎボート)全長295センクル 全幅145センクル 定員2名

10馬力の船外機付き(およそ110MPで1時間の運用が可能)魔力チャージ350MP


レベルアップにより船にオプションがつけられます。

a.サーチライト:夜の航行を可能にする明るいライト

b.架台付き魔導機銃:船の舳先につけられる機銃。2MPを消費して魔弾丸を一発撃ち出す。発射速度900-1000発/分


 武装と灯火(とうか)の選択か。

これは迷う。

サーチライトがあれば夜でも航行が可能だから、レベルアップはしやすくなるだろう。

一方武器だって捨てがたい。

これから行くのは西の危険地帯だ。

魔物や水賊が頻出する場所だから是非ともつけておきたいオプションだ。


 迷った末に今回は武器を採用した。

ステータス画面で選択ボタンを押すと、船の舳先(へさき)に架台付きの機銃とやらが現れる。

鉄製のようで、ずいぶんと重たそうな機械だ。

魔力をマジックアローのようにして撃ち出してくれるみたいだけど、威力はどれくらいなのだろう?


「戻ったよ。ん? 船にさっきまでなかった物がついているね」


 出かけていたシエラさんが船に戻ってきた。

手には革製の水筒を抱えている。

非常用のワインを買ってきたそうだ。


「実は船が成長しまして、新しく武器がついたんです」

「ほお! それは武器なのか。どのように使うんだい?」

「僕もまだわからないんですが、バリスタというか連弩のような感じみたいです。人のいないところに行ったら試してみたいと思うんですが、いいですか?」

「私も興味がある。ぜひ見せてくれ」


 さすがは戦いが本分の騎士様だ。

シエラさんは機銃に興味津々で、僕らはすぐに船を出航させた。


 人気のない場所までやってきた僕らは流れの緩い淵に船を停泊させた。

川の右側は切り立った断崖になっていて、川辺には大岩がゴロゴロしている。

標的にするには丁度良い。

機銃には後部に両手で持つハンドルが付いていて、発射ボタンはその真ん中にあった。

親指でボタンを押すと、そこから魔力が充填されて魔弾丸が発射される仕組みだ。


「それじゃあ、やってみますね」


 グリップを握るとキュイーンという音が機銃から響きだし、銃床に取り付けられた小さなクリスタルが青く輝きだした。

発射準備が整っているという合図だ。

僕はゴブリンみたいな形をした岩に狙いを定め、ゆっくりと発射ボタンを押し込む。


 シュッ、シュッ、シュッ、シュッ、シュッ!


 驚くほどの速さで魔弾丸が発射され、岩は粉々に吹き飛んでいた。


「すごいじゃないかっ!」


 普段はクールなシエラさんも興奮を隠そうともしないで飛び上がっている。


「びっくりしましたよ。ちょっと押しただけで弾が連続で発射されるんです」


 あっという間に10MPを持っていかれた。


「これが魔導機銃か。我が騎士団にぜひとも欲しいところだが……」

「はい。残念ながらこれも船から取り外すことはできません。でも、シエラさんが撃つことはできますよ。やってみますか?」

「ぜひやらせてくれ」


 シエラさんはやる気満々だ。


「気をつけてくださいね。1発につきMPが2消費されます。連射速度が速いからあっという間に吸い取られます」

「わかった」


 騎士は一般人と違って攻撃魔法が得意で魔力の保有量も多いと聞いているから大丈夫だろう。


 シュッ、シュッ、シュッ、シュッ、シュッ!


 シエラさんの狙いは正確で、川岸の大岩にたちまち穴が穿たれた。


「いい……」


 シエラさんがうっとりと顔を上気させている。


 シュッ、シュッ、シュッ、シュッ、シュッ、シュッ、シュッ、シュッ、シュッ!


「だ、大丈夫ですか?」


 魔力切れとか起こさないよね?


 シュッ、シュッ、シュッ、シュッ、シュッ、シュッ、シュッ、シュッ、シュッ、シュッシュッ、シュッ、シュッ、シュッ、シュッ!


「シ、シエラさん?」

「これ、最高……」


  シュッ、シュッ、シュッ、シュッ、シュッ、シュッ、シュッ、シュッ、シュッ、シュッシュッ、シュッ、シュッ、シュッ、シュッ、シュッ、シュッ、シュッ、シュッ、シュッ、シュッ、シュッ、シュッ、シュッ、シュッシュッ、シュッ、シュッ、シュッ、シュッ!


「それくらいにしておきましょう‼」


 射撃をやめないシエラさんを無理やり機銃から引きはがした。


「魔物や水賊との戦闘があるかもしれません。魔力は残しておかないと」

「そ、そうだったね。試し撃ちはまたあとで……」


 後でって……試し撃ちというのならもう十分じゃない? 

シエラさんの意外な一面を見てしまった。

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