育児中に魔法少女!?

タニオカ

プロローグ

 辺りを見渡しても、僕と扉達だけの真っ白い空間。空間と同じく真っ白な僕は側から見たらもしかしたら見えていないかもしれない。

 そんな空間についさっき僕はやってきた。


 ここは異なる世界を行き来するための場所。

 大小様々で色や形も同じものは唯一つもない扉が無数に存在している。扉以外にはなにもない世界。そして、その扉を開けた先にはそれぞれ一つ一つ違う世界が広がっている。


 僕ら魔獣はこの空間を管理する存在。扉の先々の世界に現れる悪しき存在と闘ってくれる存在を探し出すために僕等はいる。修行を積み、試練に合格し、一人前になると、各自担当する扉を持つこととなり、その世界を救うために命をかけて使命を全うするのだ。


 僕も長きに渡る修行の末、無事に試練を乗り越え、ついに担当する扉を与えられた。今僕の目の前にあるのがその扉だ。

 大きさは僕の5倍もあるだろうか。木製の両開きの扉で、右側の戸の表面には細かな彫刻でりんごの実った木や、その枝で羽を休める小鳥が描かれている。左側にも同じような彫刻で、りんごの木と月や星々が描かれている。左右で昼と夜を表しているようだった。


 その扉にそっと真っ白な前足を伸ばす。見た目の重厚さに反して扉はほんの少しの軽い力で動き出し、うまれた隙間からは眩いばかりの光が溢れ出す。


 — 一体この扉はどんな世界につながっているのだろう?


 期待と不安が入り混じり、心が乱れているのを感じる。首輪に付いているクリスタルの光がわずかに鈍くなった。


 —いけない…。冷静にならなくては。


 息を浅く吸って、深く吐く。

 心臓の鼓動に伴って徐々にクリスタルも本来の輝きを取り戻していく。


 —僕はまだまだ未熟だな…。


 クリスタルは魔力の源。そして、心の鏡だ。

 これがなくては世界を行き来することも、悪しき存在と戦うこともできなくなってしまう。


 ため息をついて、そっと肉球でクリスタルに触れてから、扉を押し開け、意を決して光の中へ足を踏み入れる。


 —僕は使命を果たせるだろうか?


 —この世界を救う存在、魔法少女を見つけ出すという使命を—



 一歩、また一歩と光の中へ身を沈める。

 尻尾の先端が扉を通り越すと、光が強くなり、反射的に目を閉じる。後ろではバタリと扉が閉まる音がして、それと同時に強い風に吹き飛ばされる。


 うわっと軽く悲鳴をあげて目を開けると、眼下には、黒い空間の中に白い綿のようなものをまとった緑と青の球体がぽっかりと浮かんでいた。


 —宝石みたいだ…。


 そのあまりの美しさに感動していると、頭の中に情報が流れ込んでくる。


 どうやら僕はこの地球という惑星で使命を果たすことになるようだ。


 どんどんと近づいて行く球体に前足を伸ばして、着地に備える。


 —さて、魔法少女は見つかるかな?

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