魔王様がペットを飼う話

Ast

第1話

「これで終わりだ魔王! セイクリッドブラスト!!!」

「消え失せろ。ワールドエンド」


 勇者の光の力と我の闇の力がぶつかり合い暫く拮抗したのち闇が光を飲み込む。


「ば、馬鹿な……」

「いけない! サンクチュアリ!」


 聖女が防御魔法を使い勇者の足元が輝くが、闇の力に飲み込まれた。


「アラン!!」

「……しぶといな」


 防御魔法のおかげでダメージが軽減されたのだろう。勇者は満身創痍というありさまだが生きていた。


「そんな……僕が負けた? いや、まだだ僕は負けるわけにはいかないんだ」

「無理だ! そんな状態で戦えるわけないだろう!」

「……一度引くべき」

「そうね。一度引いて態勢を立て直しましょう」

「問題はどうすればここから逃げ切れるのかですね」

「俺が時間を稼ぐその間に逃げろ」

「ガイア! お前を置いて逃げるなんてそんなこと出来ない!」


 どうやら勇者どもは逃げる算段を立てているようだ。だが。


「逃げられると思っているのか?」

「逃げるつもりはない! 今ここでお前を討つ!」


 剣を支えにして立ち上がる勇者。しかし、立っているのがやっと、といったところか。


「クククッそうか。では逃がしてやると言ったらどうだ」

「なに?」


 勇者は怪訝そうな顔をする。それはそうだろう。今この時、勇者を確実に屠ることができるのにそれをせず、逃がしてやるなどと言われればそんな顔になるだろう。


「何を言っている。馬鹿にしているのか魔王!」

「いや、馬鹿にしてはいない。本当に逃がしてやると言っている。なんなら人間と和平をしてやってもいいぞ」

「な……」


 勇者は絶句している。まさに言葉が出ないといったところか。


「もちろんただじゃない。そうだな聖女が我のペットになるという条件付きだ」

「そ、そんな条件飲めるわけないだろ!」

「選べ勇者。聖女を差し出し人族を救うかそれとも聖女を差し出さず人族を滅ぼされるか。ああ、聖女を差し出さなくてもお前たちだけは生かしといてやるから安心しろ」


 前者を選べば聖女を魔王に差し出し平和を得た無能勇者。後者を選べば人族を見捨てた無能勇者。どちらを選んでも無能の烙印が押される。


「ぼ、僕は……」

「どうした? 早く選べ」

「聖女の代わりに僕がペットになるのは駄目か?」


 あほか要らんわ。


「駄目だ」

「待て、俺もペットになろう」


 ガイアと呼ばれている戦士がペットに立候補する。だがそういうことじゃない。


「いらん」

「……ペットになるわ」

「ほう」


 まさか聖女が自らペットになるというとはな。


「リア!」

「私がペットになれば人族が救われる。ならペットになる以外の選択肢はないわ」

「そんな!」

「……まって」


 なぜこいつらはいちいち待たせるのか。


「なんだ」

「……わたしもペットになる」

「なぜだ? 聖女だけでいいんだぞ」

「……リア一人じゃ心配」


 なるほどな。随分と仲間思いじゃないか。ペットが一匹増えたところで大して変わらんだろう。


「ペットになりたいというならいいだろう。ペットにしてやる」

「……ん」

「サラよかったの? あなたはペットにならなくていいのよ?」

「……これでいい」


 ペット同士仲がいいというのはいいことだ。


「まて、僕もお前のペットになる。二人だけ犠牲にすることはできない!」

「魔王、俺もペットになってやる」


 いらんわ。こいつらはなぜペットになろうとするのか。


「いらん。さっさと帰れ」

「くそっ僕は2人を救うことができないのか」

「早く出ていけ」

「リア! サラ! くそぉぉおおお!」

「俺はお前たちを救うことができないが国は、国だけは守ってみせるぞ」


 やかましい勇者と戦士が出ていきやっと静かになった。


「クククさて、お前たちは我のペットになったわけだがまずは服を脱げペットに服はいらん。そしてあの二人に最後のお別れの言葉でもかけてやれそこの窓から二人が見えるはずだ」


 二人が我のペットになったのだと勇者たちに刻み込んでやろう。


「まちなさい」

「……なんだ。恥ずかしいから嫌だとでもいうのか? だが、お前たち二人は我のペットになったのだ。拒否は許さんぞ」

「魔王、あなたは私たちが猫や犬だと思っているのかしら」

「どういう意味だ」

「私たちは人族よ。裸じゃ風邪ひくわ」

「む?」

「猫は猫の買い方、犬は犬の飼い方があるように人には人の飼い方があるわ」


 確かにそうかもしれないが。


「あなたは魔王なのよ。魔王が間違った人族の飼い方をしていたら恥ずかしくないかしら」


 それは、恥ずかしいかも知れない。いや、恥ずかしいな。魔王として完璧な飼育をしなくてはいけない。


「私たちとしては魔王のペットになったのだから魔王のペットとして恥ずかしくないようにしっかり飼育してほしいわ」


 こいつらは我のペットとなる覚悟を持っているのに我はペットを飼うという自覚を持っていなかった。飼い主としての責任と覚悟をしっかりと自覚しなくてはいけないな。


「すまなかったな。我はペットを飼うという自覚が足りなかった。だがこれからは大丈夫だお前たちを我がペットとしてしっかりと飼育してやろう」

「ええ、よろしく」

「……よろしく」


 ペットを飼うにあたってまずは飼育部屋が必要だろう。一人一部屋、それとも二人一部屋どちらがいいのだろうか。そこそこ広い部屋を用意できるから二人一部屋でも大丈夫だと思うが。暫くは二人一部屋の方が二人も落ち着けるか。


「二人一部屋で大丈夫か」

「構わないわ」

「……大丈夫」


 ひとまず二人を部屋に連れていく。


「結構広いわね」

「……ベッドふかふか」

「風呂とトイレ付きだ」

「いい部屋ね。気に入ったわ」


 飼育部屋は決まった。あと必要なのは食料と服だな。食料は普段我が食っているものと同じで大丈夫なはず。服は後日になりそうだ。


「服は今着ているものしかないのか?」

「他に何着か持っているわ」

「……わたしも」

「なら大丈夫か。飯を持ってくるから今日は飯を食って寝るといい。明日からは忙しくなるぞ。なんせ我のペットなのだからな」


 ペットの飼育に人族との和平。暫く忙しくなりそうだ。和平が成立した暁には何らかの式典を人族との共同で開くか。そこで我がペットをお披露目するとしよう。




 あれから一ヶ月後。人族との正式な和平が成立した。これにより魔族と人族の戦争は終わった。そして終戦から一年後、終戦一周年記念式典が行われることとなった。


「ククク、ようやくこの時が来た。お前たちの初お披露目だ」

「どう? このドレス似合っているかしら」

「……似合ってる?」

「ああ、完璧だ。さすがは我のペットだ」


 魔王のペットとしてまさに最高の仕上がりである。髪の艶や肌の張り体型も完璧である。この一年苦労した甲斐があったというものだ。

 食事の栄養バランスや適度な運動。ストレスの解消のための娯楽などいろいろなことをやってきた。特に大変だったのは飼育して半年が経ったくらいだろうか。

 ペット生活にも慣れてきたのか、いろんなことを我にやらせようとするようになった。それまでは一人でやってきた風呂上がりに髪を乾かせと言ったり、飯を我に食べさせろというようになり、サラに至っては風呂や服なども手伝えというようになった。

 そしてさらに時間が経つとペットは愛玩動物なのだからもっと愛玩しろというようになった。二人は我の部屋に入り浸るようになり、最終的には常に我の部屋にいるようになった。もはや猫のように自由奔放だ。

 ペットにした当初は下僕といったものを想定していたのだが、今ではまるで逆で我が下僕のようなものだ。どうしてこうなったのだろうか。ペットを飼うということは下僕になるということなのだろうか。


「ご主人様、早くいかないと式典に遅れるわよ」

「……ごしゅじんさま、はやく」


 そう言ってリアとサラはは俺の手を取る。


「そうだな。遅れては格好が付かないからな」


 リアとサラの手を握り返し歩き出す。

 さぁ、我の可愛いペットたちを全世界に見せつけてやろうじゃないか。

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