雷嵐のオルゴネイター
こうけん
第零話 活動記録映像001
私の名は紙谷ユウミ。
統合軍、第二マテリアル研究所所属技官・中尉。
この映像は一技官として第二次黒薙島調査隊に参加した活動記録である。
『ちなみに恋人なしの二四歳、独身!』
『バストはなんと八八のE!』
ちょっと、大切な軍の記録なんだから横やり入れないで!
というか、ノックもなしに部屋に入らないでよ!
『え~ノックしたぜ~?』
『一万ぐらいしたよ~?』
外の敵を一万匹ノックアウトしたの間違いでしょう!
いいからとっとと出て行け! ほら、これあげるから!
『チョコバーゲット!』
『あ、こら、それは僕のだ!』
『いいや、先に掴んだから俺様のだ』
『殺してでも奪い取るだけだよ!』
『おう、来るなら来いやオラッ!』
『死に晒せや!』
ああ、もう部屋の中で銃撃するな!
ガトリングガン撃つな! ロケランぶっ放すな!
戦車は投げるものじゃない! 乗り物よ!
というかどっから持ってきたの!
戦場は外よ!
外・で・
雷嵐の如く暴れるだけ暴れて出て行くし……後で新しい部屋を用意してもらおう……。
では気を取り直して。
この映像は一技官として第二次黒薙島調査隊に参加した活動記録である。
ただし、注意点が一つ。
この映像に島内の映像は一割未満も存在しない。
第二次黒薙島調査隊活動記録改め、
まず昔、の話をしよう。
昔とはいっても、一〇〇〇年、二〇〇〇年前の童話のような話ではなく、今より三〇年から四〇年前に起こった全ての発端となるお話である。
かつて世界は慢性的なエネルギー不足に悩まされていた。
化石燃料である石油の突然の枯渇。
原子力発電炉の原因不明の停止。
核融合・核分裂と共に謎の停止を起こしたことで世界は電力を得られず、旧世代の火力、水力、そして太陽光による発電でどうにかエネルギーを賄おうとした。
だが妨げるように襲来する氷河期。
地球全土を覆うオーロラは電子機器を狂わせる。
培ってきた文明は一転し人類は衰退を強いられる。
各国は当初、協力し合うことを声明に出そうと、状況が悪化するにつれて奪い合う戦争を起こすのに時間などかからなかった。
先の二人のように一本のチョコバーを半分に別け合おうとせず、ただ奪い合い、殺し合う。
根底にあるのは今宵を越えて明日を拝めるかわからない恐怖。
それが当時の世界情勢だった。
世界に光明が射したのは四〇年前――
極東の島国・日本。
その国に住まうとある二人の科学者が、戦争真っただ中の世界に向けて画期的なエネルギーを公表する。
<波動鉱石オルゴニウム>
淡く虹色に発する鉱石はガラス玉サイズながら、大都市を優に五〇〇年賄えるだけの膨大なエネルギーを秘めていた。
二人の科学者は即時停戦に合意すればオルゴ発電炉を提供すると世界に訴える。
完全無公害。
無放射能。
無毒素。
如何様にしてエネルギーを保持しているのか謎多き鉱石であったが、飢えに飢えた世界はそのエネルギーを求めて奪わんとした。
共存共栄など明日よりも今日のパンを求める者にとってはただの絵空事。
各国が我先に鉱石と発電炉を奪取せんと日本に攻撃をしかけるも、二人の科学者が開発したロボット軍団によりこっぴどく敗退する。
力を見せつけられたことで交渉のテーブルにつかざるを得なかった各国は、即時停戦に合意する。
国連主導の元、世界復興が始まった。
二人の科学者は天才だった。
戦争により荒廃した世界を八年もかからず復興させるだけの技術を生み出した。
停戦と同時に終息しだした氷河期も背中を押す。
まず、電子機器を狂わすオーロラの緩和フィールド発生装置を衛星軌道上に展開させた。
次に各発電炉から生産された電力を世界各地に送受信するエネルギー網・オルゴネットワークを構築する。
復興を加速させたのは二人の博士が開発したロボット・オルゴノイド。
オルゴニウムを動力とした人型ロボット。
戦争に使われた忌むべき兵器という世間の冷たい目があろうと、土木・建築・医療・介護・警備とあらゆる現場での活躍により猜疑心の目は自然消滅する。
奪い合い、殺し合う戦争から二〇年が経過した。
今の世界はかつて蔓延っていたエネルギー不足も戦争もない。
それどころか、発展に発展を重ね、誰もが奪い合うことも争うこともない世界。
互いに手を取り合い、共により良き未来を目指す。
今までにない理想の世界が現実となりつつあった。
『世界征服じゃ!』
一人の科学者が突如として全世界に宣戦布告するまでは――
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